幻の中を彷徨う果てに

中枢塔第四階層で待ち受けていたのは、【幻惑の鈴】ルシオラ。
パーティー編成はエステル・ヨシュア・シェラザード・アガットで。

先の四輪の塔の戦いで、シェラザードたちが属していた旅芸人の一座の解散のきっかけとなった座長の事故死、それが自分の殺人だったと告白したルシオラ。
その時は、なぜ彼女が座長を殺すことになってしまったのか、その真相を話すことなく立ち去ってしまったのだけれど、この戦いに勝利することでルシオラの口から真相を、告解を聞くことになる。

愛情とは与えるものだという言葉がある。だけど、与えるばかりで受け取ることをしない愛情というものは、ひどく一方的で傲慢なものじゃないだろうか。愛情を与えてもらったもののなかには、等しく与えてくれた分に相当する、もしくはそれ以上の愛情を返したいと願うものもいるだろう。
それを受取ろうとしないのは、愛情を返そうとした者にとっては拒絶以上に、自分の愛情の否定とすら感じてしまうかもしれない。
シェラザードたちの座長がやったことは、たとえそれが善意であろうと、優しさであろうと、とても残酷で、彼が最後に下した判断は、あまりに無責任で身勝手で独善的で、一座のみんなを蔑ろにした行為に思える。
愛しているからこそ、許せないことはある。
彼女が座長にした告白は、きっとその時浮かんだ絶望を振り払うための、縋るような告白だったのではないだろうか。
彼は、あくまで、最期まで誠実だった。
言葉にして表現するのは難しいけれど、ルシオラにとってその誠実さこそが、一瞬の理性の崩壊、魔が差す瞬間を招いた許せない裏切りだったのではないだろうか。

その後の人生は、ルシオラにとっていったいなんだったのだろう。流れ流れて魔に堕ちて、それでも人としての優しさを喪えず、幻惑に沈むこともかなわず、自分の犯した罪に苛まれながら現と幻の挟間を彷徨い続けていたのかもしれない。

ロレントを覆った霧の夢。彼女が眠りに落ちた人々に見せた夢は、懐かしくも輝いていた過去や未来の、その人が抱く幸せの夢。
エステルが見た亡き母の生きているという夢は、たとえそれが夢だと自覚しても色あせることなく、エステルを温かく包みこみ勇気を与える優しい夢だった。
不思議と、夢から覚めた人たちも、夢の世界の思い出を大切に抱えつつ、夢に戻りたいとか夢の世界に拘泥することなく現実に生きることに力を得たような様子を見せていた。

現に旅立つ人々を、優しく見送る夢の送り手。
現に居場所を失ったルシオラという女性の、うちに秘めた想いがあの事件から垣間見えるというのは過言だろうか。


ルシオラの所作や振る舞いを見ていると、今のシェラザードによく似ていることがうかがえる。回想で垣間見るシェラザードの少女時代の性格がどちらかというと利発であると同時に溌剌とした印象であったことを考えると、一座という居場所が無くなり、ルシオラという拠り所を失って否応なく独り立ちすることを余儀なくされたシェラザードが、己をしっかりと保つためにあこがれの人だったルシオラの立ち振る舞いを、意識的にか無意識的にかはわからないものの、身に纏っていったことは想像に難くない。
だけど、彼女が本当のルシオラの気持ちに近づけ、理解することができるようになるためには、もっと自分を制御できなくなるような激しい愛情を誰かに抱くようにならなければならないんじゃないかと、なんとなく思うのであった。

自ら虚空に身を投じ、妹分のシェラザードの成長と自立に心残りのない安堵したような表情を見せ、自分を留めようとするシェラの鞭を切りはらい、雲下へと消えていったルシオラ。

それは、二人の姉妹の間で行き場を亡くしていたものの、一つの決着で。
でも、それは死によって完結するものではなく、いずれまた新しい関係として再開するものだと信じたい。

正直、あれで死んだとは本当に信じられないです。
再登場は叶わなくても、のちのシリーズで消息ぐらいは聞こえないものかしら。