愛されることを知らない貴女へ。

中枢塔第五階層で待ち受けているのは、【殲滅天使】レン。

パーティー編成は、エステル・ヨシュア・アガット・ティータで。

パテル=マテルを伴って、エステルたちを待ち受けていたレンは、彼女らに一つの提案を持ちかける。
それは、琥珀の塔での対決の際に、レンが結社にいるのは間違いという発言をエステルが取り消し、謝ること。そうすれば、レンはこの教授の計画に協力するのを止めるというのだ。
エステルたちに課せられた使命は重い。帝国との戦争を止めるため、リベール王国の命運を託された彼女らにとって、避けられる戦いは避けるべきである。
だが、エステルは敢えてレンの提案を拒絶する。
遊撃士として、何よりレンの友人として、この戦いは避けてはならない。
エステル自身は、以前自分がレンに告げた言葉が全面的に正しいとはもう考えていない。ヨシュアからレンが結社に所属することになった事情を聞いた今は、理由も知らず一方的に自分の意見を押しつけるような言い方をしてしまったことを後悔すらしている。
それでも。
彼女がこのまま結社のような犯罪組織に居続けることを良しとするのは、遊撃士としてもエステル個人としても認められないことだ。
正しい正しくないの是非は脇に置き、レンが結社にいるべきではないというのはエステルの忌憚のない考えであり、意見である。
それを、力を背景とした脅迫に屈して翻すことはできない。相手が、友人ならば尚更だ。
もしレンの提案を受け入れれば、一時は戦いを避けられるかもしれない。でも和解は所詮表面的なものでしかなくなってしまう。自分の意見を押し込め、本心を殺して。それじゃあ対等な関係とはいえない。お互いに通じ合える者がなくなってしまう。つながりが途切れてしまう。
対等な相手として、大切な友人として、率直な思いをぶつけ合えない関係にはなりたくない。
この戦いに挑んだエステルの気持ちは、どちらかというとレンを結社から引き離したいという思いよりも、お互いの関係をより重視した上での決断だったように思う。

戦いに敗れたレンを、エステルは平手でひっぱたく。
それは、かつてレンを苦しめ心を歪めた痛みとは違う、痛くない痛み。
悪いことをしたから怒られる。ただそれだけのことを、この少女は今まで経験することなく、与えられることなく生きてきた。
そして、何の意図もなく愛情をこめて抱きしめられることも。

おそらく、生まれて初めて胸の奥に生じた感情に戸惑いながら、エステルの腕を振り切り、再起動させたパテル=マテルの手に乗るレン。
しばらく、一人で考えたいと言い残し、彼女はエステルたちの前から去っていく。
今まで、自分の置かれた状況に適応し、受け入れることで苦界のごとき境遇から自分を守ってきた少女が、自分の在り様に、他人とのかかわり合い方に、初めて自分で考え、決めようとしているわけだ。
ここで敢えてエステルたちが正しさを追求しようとしたなら、それはきっとレンを結社から助け出すことだったんだろうけど。
エステルは、結果としてレンに自ら考えることを突き付ける。それは、一つの道を示しつつも、それを強制せずちゃんと自分の足で進むようにと手を引っ張ることをしない、優しくない厳しいやり方だ。
でも、それって親父のカシウスのやり方そっくりで、やっぱりこの二人、よく似た親子だと改めて実感しました。