「ふーん、私にお城を建てろっていうのー? 私、造るより壊す方が得意みたいなんだけどな」

綿毛のようにぽわぽわとした無邪気そのものの、だがどこか抑揚に欠けた声音で答えると少女は屈託なく小首を傾げた。ただそれだけの所作に、朝倉雪姫は肌襦袢が冷や汗に濡れそぼるのを感じる。三好家の外交官として、京都所司代として各大名家の名にしおう怪物どもや、禁裏の魑魅魍魎どもを相手取ってきた彼女をして、ただ相対しているだけで心胆を寒からしめる威風を、この今年に入りフラリと現れ三好家に居座るようになった少女はケープでも羽織るように纏っている。
薄桃色の長い髪に、血を塗りたくった宝石のような相貌。黒衣に身をくるんだ少女。

「それはいずれ存分に、リトルプリンセス」
「ダメだよ、雪姫さん。その名前は無し。無しなのー。今の私って魔王だけど魔王として成り立ってないの。だから、美樹の方がいいと思うんだ」
「……わかりました、来水美樹様」

なまめかしく口端を舌でペロリと舐め、来水美樹は身を纏う黒い外套を胸元に引き寄せると、うふふとほほ笑む。

「でも、ほんとに私、壊すことしかできないよー?」
「いえ、此度は実際に支城を建てるのが主の目的ではありません。無論、建てられればそれに越したことはありませんが」

美樹は「んー」と指を唇にあてて頭をひねり、やがてニタリと笑みを張り付けた。

「ふーん、つまりお殿様が期待してるのって、この私に餌になれってこと?」
「……先年の観音寺城攻めの結果は、貴女もご存じですね?」
「私が入る前のことだね。知ってるよー。だいぶボコボコにやられちゃったみたいだね」

昨年の1562年(永禄5年)11月。三好家は山城・室町御所に攻め入ってきた斎藤・筒井連合軍4万7000を、僅かな被害で撃退することに成功していた。この大勝が諸将の油断を誘ったのだろう。摂津・石山御坊からの後詰大将・十河一存はこのまま返す刀で南近江・観音寺城を陥落させるべしと息巻き、武将の多くがこれに賛同。東方軍総大将である荒木摂津守村重も、これに抗しきれず三好家は間髪入れず南近江に侵攻したのだった。
その数、3万3000。十河一存率いる石山勢を主力とし、荒木村重以下、滝川益重・中川清秀・日根野弘就・植田光次・森田浄雲・安田長秀、新参の鉄砲奉行稲富祐秀ら室町御所に詰める主だった武将の総力出撃であった。
が、結果は惨憺たるものだった。

「あの時、観音寺城に残っていた兵力は僅かに六千余。一気呵成に攻めよせれば、何のことなく城は落ちたでしょう。ですが、敵方にはあの男がおりました」
「誰?」

――天才・竹中半兵衛重治。

その名を神か悪魔かのように告げる雪姫の口ぶりに、美樹の目尻が興味深げに揺れる。

「事実上、我らはかの方一人に敗北したようなものです。軍勢は混乱に陥れられ城攻めなどろくに行えず、十河左衛門尉様の勢に至っては偽報に騙され観音寺城に近づくどころか国境すら越えられない始末。そうするうちに、美濃は稲葉山城から援軍が駆けつけてきて、我らは虚しく引き下がるしかなかったのでございます」
「あはは、いいとこなしだ」
「ろくに準備も整えず、勢いに任せて要衝・観音寺に攻め入った我らの浅慮でもあります」
「だから、勝竜寺城なの?」
「ええ」

山城南部西岡・勝竜寺は、南近江・大和・摂津・和泉を結ぶ中継点に位置する交通の要衝地だ。ここに城を築けば、一気に南近江・大和の両国の首根っこを押さえる楔とすることができる。無論、斎藤家も筒井家もここに城が築かれるのを漫然と眺めていることはありはしないだろう。

「勝竜寺城の築城は、斎藤・筒井の両家にとって喉元に突きつけられた匕首のようなもの。両家は必ず、これを阻止するために軍勢を送り込んでくるはずです」
「それって囮になる私、けっこうキツいかも」

恐らく、敵勢は数万を超えるだろう。もし、味方の迎撃部隊の到着が遅れれば、美樹の築城隊は数倍からなる敵軍の攻撃にさらされることとなる。過酷極まりない任務だ。

「もしかして、私試されてるのかなあ?」
「……」

無感情に揺れていた真紅の双眸が、凄惨な色を帯びる。物理的な圧すら感じさせる視線に注視され、雪姫は生唾を飲み込んだ。が、あくまで表層には微塵も伺わせない。雪姫は慇懃ながらもむしろ居丈高な姿勢で告げた。

「もし、貴女が三好家にとって有用な方なら、わたくしも美樹様がお探しの御仁を捜索するに微力を尽くすことを厭いません。が、才無き無能にかまけていられるほど暇でもないのです。美樹様、信と実を得たくば才を示しなさい。才を示し、当家にとって重きをなす地位を得れば、おのずと目的に近づくことが叶うでしょう」
「……いいね、それ」

キョトンと目を瞬いた少女は、やがてケタケタを笑いだす。

「ここで頑張るのって、思ってたより楽しそう。いいよ、やったげる」
「ありがとうございます、美樹様」



1563年(永禄6年)2月。三好長慶は、この年より三好家の禄を食むことになったばかりの新参武将・来水美樹(戦国ランス)に南近江・大和に対する前衛拠点・勝竜寺城の築城という大役を与える。
任を得た来水美樹は早速9500の兵を率いて、勝竜寺での縄張りを開始した。
対して斎藤家は、観音寺城から菊地真(アイドルマスター)を大将、百々安信・大館義実を寄騎とした騎馬隊8000を出撃させる。菊地は若い女ながらに勇猛をもって名を馳せる騎馬大将。寄騎についた百々安信(綱家)は、地元近江の名家の出で築城術に定評のある良将である。足の速い騎馬隊をもって急進、築城に見識の長けた百々安信の指揮で短期間に来水美樹の勝竜寺築城を挫き、速やかに撤退する。目的のために特化した非常に理にかなった部隊編制であったといえる。
当初、勝竜寺の東側近江路で西進してくる軍勢を迎撃する予定でいた三好勢は、菊地勢の進撃速度に完全に虚を突かれる形となった。このため、室町御所で満を持して待機していたにも関わらず、三好勢は後手に回ってしまう。荒木村重以下1万7000の軍勢が勝竜寺に到着したその時にはもうすでに、菊地隊は来水築城隊に餓狼の如く襲いかかっていた。
この時点で来水築城隊が潰乱していなかったのは、まさにこれを率いていたのが来水美樹その人であったこと以外に理由はない。のちに、三好家が誇る野戦指揮官<三好十六傑>の一翼に名を連ねることとなる魔将の面目躍如な統率であった。
が、ここで来水勢が乱戦に巻き込まれた段階で、勝竜寺に支城を築く任務を続行するのはほぼ不可能な状態に陥っていた。駆けつけてきた荒木勢が参戦したことで、防戦一方だった合戦は一気に三好側の優勢に傾いたものの、来水隊の被害は多大なものであり築城の再開は難しく、そのまま撤退を余儀なくされる。
この後、菊地勢は結局数に勝る荒井勢に敗走するものの、三好家による勝竜寺城の築城阻止という戦略目標は完全に達成した上、騎馬の機動力を生かして見事に部隊を維持したまま荒木勢の追撃を振り切り撤退を成功させている。これは、三好家の裏の主戦略目標であった敵兵力の漸減をも阻止したこととなり、斎藤家侍大将・菊地真はこの勝竜寺の戦いで大いに名を轟かせることとなる。

だが、三好家にとってこの勝竜寺の戦いは完全な敗北であったかと言うと、実際はそうではなかった。
三好家の攻勢戦略は常に、活発な戦略機動戦による迂回包囲にあった。複数の軍団を多方面に動かし、敵勢を完全包囲孤立化させたうえで殲滅する。これまで、野戦においても攻城戦においても、三好家はこのドクトリンを踏襲してきた。だが、そもそも南近江から隘路を西進してくる斎藤勢に対しては、勝竜寺周辺の地形を鑑みるにこのドクトリンは適応できない。せいぜい、待ちうけての迎撃が可能と言うぐらいだ。故に、当初からこの勝竜寺築城に伴う攻勢戦略において、斎藤勢の撃滅は所詮副目的にすぎない。

三好家の真の標的は斎藤家ではなく……大和国筒井家。それも、兵力の漸減などではなく、大和筒井城の攻略そのものであった。

斎藤家観音寺城菊池勢進発から遅れること半月、筒井家もまた勝竜寺城を築城する来水美樹撃滅のための兵を筒井城から出陣させる。
筒井家きっての謀将、滝川左近一益を総大将とする1万1000は大和路を北進、菊地勢と三好勢が激烈な乱戦を繰り広げていた勝竜寺戦線に南部から食らいつき、三好家優勢に傾いていた戦局を一気にひっくり返し、逆に菊地勢との挟撃により三好勢の撃滅を図ったのだが、この筒井勢の北進こそ三好家の待ち望んでいた機会であったことを若き大和国主筒井陽舜房順慶は思い知らされることとなる。


「出陣じゃ! 急ぎ兵を束ねろ!」

岸和田城の三好義興が一勢、大和国の国境を越えるとの一報に愕然と硬直する家臣たちを、筒井順慶は一喝した。この時、順慶、未だ幼名藤勝丸の名で呼ばれることも多い十四歳。僅か二歳で筒井家の家督を継いだ赤ら顔の少年は、後見役である筒井順政をキッと真っ直ぐな眼差しで見つめた。やがては、偏屈でへそ曲がりの謀将として名を為す彼も、この頃は潔癖なほどまっすぐな若武者であった。ただ、単なる血気盛んな無鉄砲と一線を画しているのは、彼が正確に三好家の大和侵入が何を意味しているのか、一報を伝え聞いた瞬間に察していたことからも明らかである。

「叔父上、儂が出る。急いで支度を」
「ま、待て藤勝丸、待たんか」

ようやく我に返った筒井順政は、慌てて座敷を飛びださんばかりの順慶を制止した。

「馬鹿を申すな。この城には今、5000の兵も残っておらんのだぞ。対して三好孫次郎は1万4000近い兵を率いているというではないか。出陣などしてどうする。ここは籠城して、勝竜寺に差し向けた兵が戻ってくるのを待つのが――――」

 ドン、と畳を踏みぬかんばかりに若き当主が足を踏み鳴らした音に、順政は驚き口ごもった。憤怒の表情で、順慶は言った。

「それでは間に合わん! 間に合わんのじゃ! 5000の兵、ことごとくすり潰してでも、これ以上孫次郎義興殿の軍勢、東に入れるわけにはいかん。なんとしても、国境で押し留めねば」
「な、なにを」
「雪見、申せ」
「恐れながら――――」

数年前より、滝川左近一益と両輪で筒井家の軍略面を支えてきた女武将・深山雪見は、膝を擦り前に出ると整った面を苦々しげに歪めながら告げた。

「三好孫次郎の軍勢は金床よ。たぶん、鉄鎚は石山御坊の十河一存あたりね。抜かったわ、連中最初からこれを期していたに違いない」
「けっ、やはりか」
「な? なんじゃ? どういう意味じゃ?」

大名家当主の後見役として、内政官としての執務能力には長けているものの、軍略面には少々疎い順政は、比喩ばかりの雪見の表現が理解できないようだった。本来なら後見役に対してこのようなぞんざいな扱いなど、家中の統制結束から見ても許されないものだったが、能力はあっても若い順慶や雪見にはこの危急時にそんなことまで慮る余裕は残っていなかった。
混乱する順政を無視し、二人は斬り合うように言葉を交わす。

「出陣する。良いな?」
「残念だけど無駄よ、殿様。今すぐ出れるのは千程度。せめて三千は連れて行かないと、瞬時に蹴散らされる。足止めにもならないわ」
「――ッ、儂では無理と申すか」
「数が違い過ぎる。それに、孫次郎義興、あれ二代目だけど相当の出来物よ。戦だけなら間違いなく父親より上手いでしょうね。殿は、お世辞じゃなくやる方だと思うけど、千で万を押し留められるほどいかれた軍才は持ち合わせてないわ」
「くっ、じゃが悠長に兵を束ねていては……」
「間に合わないでしょうね」

これは詰んだかな、と雪見は悔しげに俯く少年当主を見守りながら、そっと嘆息した。
もし、三好義興の軍勢の目的が単にこの筒井城の攻略なら、まだ望みは在るのだが。単純に三好勢が城の攻略に掛かってくれれば、戻ってきた滝川一益らの軍勢と城の兵で呼応して、なんとか対抗できる。やりようによっては、一益の軍勢を入城させるのも難しいが不可能ではない。
だが、おそらく。三好義興は筒井城に対しては攻める気配を見せるだけだろう。本拠地を攻められれば、滝川一益は勝竜寺攻撃を放棄して一目散に戻ってこざるをえない。そうなれば、きっと三好義興は……。

「屈辱ね、完膚なきまでに打つ手がないわ」

大名・筒井家の末路がありありと目に浮かび、深山雪見は諦観とともに瞑目した。


1563年(永禄6年)4月。滝川一益の攻撃部隊が勝竜寺まで進軍したのを見計らい、岸和田城より三好孫次郎義興は、三好三人衆の一角・三好政康と織田に滅ぼされた北畠の旧臣木造三郎兵衛友足(後の滝川雄利)らを引き連れ、1万3500の軍勢を率いて出陣する。
義興は、筒井城に対応する暇を与えず軍勢を東進させ、筒井城を攻囲する気配を見せる。が、一報を聞きつけ筒井城救援のため急遽勝竜寺から滝川勢が取って返す動きを見せた瞬間、義興は猛烈な勢いで転進、勝竜寺から大和盆地・筒井城城下へと至る街道を封鎖する。と、同時に密かに摂津石山御坊から出陣していた十河一存・三好長逸率いる騎馬隊1万4000が勝竜寺西域で行われている勝竜寺合戦を尻目に勝竜寺を南下。撤退する滝川勢へと襲いかかった。
滝川左近一益をはじめ、柊蓮司(ナイトウィザード)、柳生宗厳、加藤段蔵など筒井家の誇る驍将たちが率いる精鋭1万1000であったが、狭い街道という戦場で隊列も整わぬ状態で合戦を強いられた上に、南北にそれぞれ1万3500、1万4000という片方だけでも自軍に数で勝る軍勢に挟まれては、まともに抵抗することすらかなわなかった。
滝川勢は、後背から襲いかかってきた十河勢に一瞬にして蹂躙され潰乱。逃げ場もなく、ろくに相手に被害を与えることも叶わず殲滅される。
こうして主力を壊滅させた三好義興は、十河勢と合流し悠々と筒井城攻略に取り掛かった。


筒井城が陥落するまで、二か月と掛かからなかったのは言うまでもない。筒井順慶以下、筒井家の諸将は軒並み三好の手勢によって捕縛され虜囚の憂き目にあうのであった。
ここで命運尽きたかと思われた若き戦国武将筒井順慶としの家臣団の運命は、だがこの直後急転することとなる。

戦後処理どころか未だ炎上する櫓の消火も終わらず兵の亡骸や崩れ落ちた城門の片付けも終わっていない筒井城に向け、東方より4万を越える大軍が進撃していた。主力部隊が掲げる馬印は金の千成瓢箪。

織田家宿将・木下藤吉郎秀吉率いる織田家伊勢勢が、大和への侵攻を開始したのだ。






§  §  §  §  §


63年になって、いきなり仕官してきた来水美樹。おなじみ、ランスの常連キャラですが、こちらの美樹は覚醒後の魔王バージョンです。
魔王美樹

正直、彼女に関してはパラメーター強力にし過ぎたとはんせいしてれぅ。
統率:96 武勇:114 知略:89 政治:28
武勇に関してはともかく、統率力は本来なら魔人限定だしだいぶ低くても
いいでしょうし、知略については言わずもがな。
次回以降の新プレイの際は大幅に変更の予定。
でも、今回プレイについては武力に関しては全武将の中でもトップクラスなので、まずこれからも最前線で活躍してもらうことになると思います。
もちろん、相方の健太郎くんも魔人バージョンなのですが……どこ行った健太郎くん?

さて、戦局の方ですが、今回の作戦は目標達成率50%といったところでしょうか。
当初の目的は二つ。斎藤家観音寺城の戦力を削るのと、筒井城攻略だったのですが、大失敗だったのがやはり観音寺城軍の機動力を完全に見誤ったこと。もっと大軍で繰り出してくると思ったら、8000という少数精鋭の騎馬隊で一気呵成に来たもんなあ。おかげで援軍が遅れてしまい、勝竜寺城の築城も失敗。
一方で大和・筒井城の攻略は完璧に作戦通りに進行しました。築城隊で筒井家の主力を引っ張りだし、その隙に岸和田城の軍勢を筒井城に詰めさせ、慌てて筒井軍が引き返してきたところを、反転して北上。加えて、石山御坊から繰り出した軍勢を勝竜寺経由で南下させ、狭い街道で包囲挟撃して筒井軍主力部隊を撃滅。理想通りの用兵でございましたよ。
そのまま一気に筒井城を攻略してめでたしめでたし……のはずだったのですが。
まさか、織田家の軍勢が漁夫の利の狙って筒井城に侵攻していたとはまったく気がついていませんで、このあとかなりえらいことになりました(苦笑

ちなみに、このプレイでの秀吉は、織田家一門衆になってます。奥方の項目見て吹きました。
このサル、お市様娶ってやがる(笑