境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ)

【GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン 1(下)】 川上稔/さとやす 電撃文庫

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偶々、【とある魔術の禁書目録】のアニメを視聴していたら、イノケンティウスがボーボー燃え盛りながら大暴れしていた。おおっ、さすがはK.P.A.Italia代表インノケンティウス教皇総長。イイ感じで茹だってますなあ、HAHAHAHAとか思いながら見ていた今日この頃。
いや、だってあのオッサン、喋り方から論法から厭味ったらしい性格悪そうな振る舞いを見せつつも、本性はあれ熱血正義感だっしょ。立場上、政治的役回りに徹してますが、正純との決闘過程を見る限り、ありゃあ若いころは血の気の多い熱血バカだぜ。ガリレオ先生も言ってたしな。わりと脳筋で知られてたに違いないw
ところで、なんで初っ端から教皇聖下の話してるんでしょうね?
話題には事欠かない境界線上のホライゾン、一巻の下巻。既に二冊目で700ページを軽く臨界突破。この調子でいくと最終巻は二千ページの大台を突破しそうな勢いである。二千ページの文庫本ってどんなだよ。
いや、マジで全部読破するのに五時間強かかりました。私の場合、普通のライトノベルを100ページ三十分弱のペースで駆逐するのですが、このホライゾン、単純にページ数が多いだけじゃなく一ページに掛かる時間も普通のライトノベルより時間が掛かっている模様。休日がリアルに吹き飛びましたがな。

だが、その価値はあった。

五時間、戦慄しっぱなしでした。身体が持たねえ。
極まったのは、やはり506〜511ページにわたるタイトルを冠する挿絵を目前とした瞬間でしょう。
あれ、最近のアニメでたまに見かける、初回放送のクライマックスで満を持して叩きこむ、OPムービーそのまんまの形式ですよね。
痺れた。あの瞬間はマジで全身が身体の奥底から痙攣して、床をリアルでのたうちまわった。
たっまんねーー!
あれ以前はまさしく序章、プロローグ。まさに、この物語【境界線上のホライゾン】はあの瞬間に始まったのでしょう。スタートである。号砲が鳴ったのである。
葵・トーリを首魁とする武蔵アリアダスト学院一党の闘争がはじまったのである。
しかし、6ページまるまる挿絵に使うとは。こりゃあ、川上稔/さとやすラインでないと絶対不可能な手法ですわな。二ページ見開きイラストでなんじゃこりゃ、と次のページ開いたら、ですぜ。ほんとにびっくりした。びっくりした。

境界線上のホライゾン。その意味が伺い知れなかったタイトルの真意もここに示された。平行線の交わる場所。異なる意見の重なる場所。それが境界線上。
これは、ホライゾンの立ち位置という以外にも、この物語の進む先をも示しているのでしょう。戦いの先にある、世界の危機の解決にも繋がる、到達点。

あと、ちょっとだらだらと垂れ流しに書く。

超絶無能、という触れ込みだった主人公、葵・トーリ。その字【不可能男(インポッシブル)】
まったく、この作者は。敵わない。このアーバンネームを意味を違えないまま、概念をひっくり返された時にはガツンと頭を殴られたような衝撃だった。そう来たか! てなもんである。
この男、何もできない無能者で、頭の悪い馬鹿者だけど、馬鹿と愚かはイコールじゃないのですよね。
彼は何もできないけど、何を為すべきかを知っている。彼は何もできないけど、
俺がオマエらの不可能を受け止めてやる! だから、オマエらは可能の力を持っていけ!


しかしこの男、イカレ具合が半端ねえや。これまでも、川上作品の登場城人物、特に主人公は馬鹿が極まったような変態ばっかりだったのですが、それらがまともに見えるくらいにバカだもんなあ。あの連中がまともに見えるってどんなレベルだよ。

そしてメインヒロインであるホライゾン。
前巻では、わりと大人しかったので、終わりのクロニクルのマロい子と似たような自己主張の少ないタイプなのかもしれないと考えていたのですが、どうしてどうして。
やっぱり、この娘も自動人形か(笑
いや、終わりのクロニクルとか読んでた人なら分かるはずですが、自動人形ってみんなこれなんですよね。イイ性格(笑
元々、ホライゾンが人間だった頃からそういう性格で、しかもトーリ相手限定だったみたいですけど。
「救けに来たぜ!!」
「――誰ですか貴方。迷惑ですのでお帰り下さい」

死んだと思ったけどね(w
このくらいじゃ死なねえとなると、わりとトーリの願掛けはしぶといのかも。
「おやおや、下手に出ましたね。いい判断だと判断します」
「は・は・は。率直に申しあげて――最悪ですね」

オパーイとか言ってるし。魂のレベルでトーリを記憶してるんだろうか。ほかの人には接し方、柔らかかったもんなあ。
一番のお気に入りは、ラストの挿絵でしょ、やっぱり。

鈴っち。貴重な前髪枠の人。今回、戦闘能力皆無の立場ながら、トーリの背を押し、皆の希望を呼び起こし大活躍だった彼女。というか、彼女の作文、そして絶叫は泣きそうになった。なったよね?
この子の「たすけて」は最強兵器じゃないのか? 貧乳ナイト様をも一瞬んで撃滅してみせたわけですし。
いや、ベルさんの問題はそこじゃあねえ。みな、気づいてないだろうか。この娘、密かにトーリと張り合うように登場女性陣の胸、オパーイを触りまくってやがるんですけど。トーリ並みに堪能してやがるんですけど。
隠れオパーイ魔人じゃないのか? 疑惑、みたいな?

「エ、エロ小説書いてますよ私! しかも、題名は?私がして欲しいこと”!」
浅間智。この娘、葵姉弟に弄られるから弄られ役なんじゃなくて、生まれついての自爆型なんじゃないのか? 誰にも弄られなくても、独りでドツボにハマってますよ?
それにしてもデケえ。姉ちゃんに負けず劣らずの巨乳。さすが、貧乳政治家に貧乳信仰をぐらつかせるだけの破壊力w

何気にイチャイチャカップルが多いんですよね、まだ一巻なのに。
ハイディさり気なく惚気てるシロジロ。正純の演説中、ずっと裎さんとイチャついてる宗茂さんに、東とミリアム。
ミリアムが特にエロい。ママでいいんですか? ママで。
「女の子の何度なんて、聞いたらぞっとするわよ? 世の彼女持ちの男の子達は、相手の女の子を攻略したつもりになってるかもしれないけど、――頑張る男の子を見て、女の子が自分から難度を下げたなんて、夢にも思ってないのよね」
「参ったわね――難度が下がり掛けてるかしら」

下げてます下げてます。

そういえば、この武蔵教導院の主だった面々、ほとんどが幼い頃からの幼馴染同士なんですよね。
なんか、時々垣間見える小さなころからの共通の思い出、みたいなものが連中の気の置けない仲間意識の源泉を見るようで、心くすぐられるものがあります。
ミトさんも、その一人というのはなんだ不思議な感じなんですけどね。最初のイメージだと、もっと皆とは人間関係的に距離のある人だと思ってたんですけど。
「懇願せずとも、騎士の魂は必ず民を救いますわ。何故ならば、その歩むべき義務を騎士道と言うのですから」

思えば、彼女が騎士として歩む選択をする以前の、武蔵の騎士階級の人々が選んだ選択もまた、とても誇りにあふれた気高いものだったんですよね。地位を捨て、民に未来を託す選択。
でも、ネイトが選んだのは、騎士として友たちとともに歩む選択。王と選んだ幼馴染に剣を捧げ、騎士として皆を守る意思。援けを求める人を助ける騎士としての矜持。
王に身も心もささげる、って何気にエロいんですけどね。既に胸とか捧げてるしw 心なしか、ミトさんってトーリに気がありそうな気もするし。


分厚い本巻だけど、やはりメインとなるのは表紙絵を飾る本多・正純の演説、インノケンティウスとの問答シーンになるんだろうか。
事実上、この物語が進むべき方向性を決める第一の宣誓のシーンでもあるわけだし。

戦争を回避した場合の戦死者。
「ホライゾンを救わず、戦争を回避したつもりが、そのツケを各居留地に支払わせることになる。それが戦争を回避して生まれる戦死者だ。…戦争によって直接の死者が出なければ、福祉の不備や貧困で死者が出てもいいと言うのか? それは、目に見える死者を避けようとして、見えないところで生まれる死者は“仕方ない”とすることだぞ!?」
「…戦争をしなくてもその選択によって死者が出るということだよな?」
「Jud.その通りだ。――開戦的状況を前にして、戦争をしなければ平和だ、というのは未来に目をつぶった言い訳にしか過ぎない」

自国の利益のみを主張しても、他国の同意は得られない。戦うにしても、自身の正義を示し、敵対者の非、悪を糺す大義名分をかざさなければ、それは大義なき戦いとなってしまう。
それを示せるのは、政治家 本多・正純のみ。トーリが彼女にしかできないと望み、彼女が加われば無敵と称した政治家としての技量。
「政治家だったら、救えるのかな」
「私が必ず、己の役目として、――ホライゾンへの道をつけてやる」

襲名を失敗し、男性化手術によって胸を削って半端な身体となった上に、父親にも冷たい態度をとり続けられ、彼女はずっと悩み苦しんできたわけだ。
そんな彼女が、自らの存在を示し、自らの足で踏みだし、自らの意志で選んだ道。女として、政治家として生きることを選んだ戦い。
それを後押ししたのが、
「オマエは男になったんじゃない! ――貧乳になったんだ!」

とかほざく野郎というのは、不可思議極まりないわけだけどw
でも、親父である本多・正信の彼女への真の評価は震えたなあ。
「政治家としては、失格だ。――武蔵の政治家、私達のような暫定議員としては、な」
「今の武蔵に必要なのは、私達のような従来通りの武蔵の政治家。官僚としての議員ではない」
「王に対し、絶対の正当性と答えを与えられる、――絶対権力の宰相という政治家だ」

宰相は、王に答えを示し、世界に明言する。
我らはホライゾンの奪われた感情。大罪兵器の収拾による、末世の解明と解決。世界の危機を救うために行動する。と。

そんなトーリに、王権を譲る王様。武蔵王ヨシナオ。
まさか王様に泣かされるとは思わなかったさ。かつて、フランスの地方領主であった王様。自らの力不足でかつての土地と民を守れなかった彼が、選んだのは以前の繰り返しではなく、民に苦しみを強い、だが共に歩むと誓うこと。
「何しろ、これでも麻呂は武蔵王。……王である以上、もはや民の元を離れることなく、その苦しみも、困難も、共に味わい、糧として、解決に向けて尽力していく次第であります」

そんな彼に、かつての民の娘は、
「王様、さっき、勇敢でしたから。だから、父も、…武蔵に来て良かったと思ってたかと」
「当然であるとも! この武蔵の王は、勇敢でなければ務まらぬのだから!!」
「Jud.行って来たまえ。君らの王を守るために」

良かったね、王様。過去の清算と許しを得て、彼は見守る者となったわけだ。

そして、皆を導く王様になることを選んだトーリを見守るのは、幼い頃から彼を導いてきた姉ちゃん・喜美。


彼女は、彼のこぼす涙に唇を寄せ、
「いい? アンタはこれからずっと、泣くように生きなさい。笑うときも怒るときも、生まれたばかりのように。産声のように。そしてそれが出来ない人を救いなさい。人が生まれてから失ったり奪われたりしたものを、――貴方は取り返す生き方をなさい。私はそれを手伝ってあげる」
舌に載った涙の味は、血と同じ味がした。
「生まれたばかりの子供は血塗れで。そして人が泣くことが出来るのは、――自らを血の味に浸して、生まれ変わりたいからよね」

ホライゾンを死なせ、絶望の中に自らも沈もうとしていた弟をひっぱりあげたのは、この姉ちゃん。だからこそ、皆はこの人に頭があがらない。エロくて淫らんではた迷惑で、ぶっちゃけトーリ以上に何言ってるかさっぱりわからんわけわからん人なんだけど。めちゃくちゃカッコいいんですよね。
ただ、この人だけなんでか主要メンバーの中では姉という以外の役割がないのが、なんでなんだろうと違和感のようなものが。なんか、不穏な伏線みたいなものを感じるのは気のせいと思いたいところ。まあ、トーリクン悲しんだら死んじゃううさぎさんなので、無いとは思うんですけど。
「姉ちゃんがいてくれて、良かったと思うよ」



ホライゾンが奪われた全てを取り戻すため、世界列強に宣戦布告した葵・トーリ。裸の王様。でも、皆の王様。葵・トーリ。
姫・ホライゾンを得て、宰相本多・正純を得て、騎士ネイト・ミトツダイラを得て、サムライ本多・二代を得て。姉・喜美。商人シロジロ、ハイディ。帝族東。巫女浅間・智。従士メガネっこアデーレ、黒魔女マルゴット、白魔女ナイゼ。前髪担当鈴、異端審問官ウルキアガ。パシリ忍者点蔵。軍師ネシンバラ。武神直政。格闘家ノリキ。
武蔵の戦い。おそらくは万ページに至るであろうGENESISが始まったわけだ。
付きあいますよ、最後まで。