アスラクライン〈12〉世界崩壊カウントダウン (電撃文庫)

【アスラクライン 12.世界崩壊カウントダウン】 三雲岳斗/和狸ナオ 電撃文庫

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キツいなあ、これはキツい。一順目の世界で出会う人たちは、みんな二順目で智春が知っている人ばかりにも関わらず、みんなやっぱり違うんですよね。敵だった人、敵になった人。裏切った人、味方だった人。既に死んでしまった人。ベリアル・ドールだった人。
二順目の世界って、凄絶な世界だったんですねえ。あそこでは、多くの人が多くのものを失い、傷つき、そして死んでいってたんだ。
大切なものを失わず、平穏な、平和な日常に暮らす人たちの姿は、逆に二順目の世界で失ったものの大きさを思い知らされるようで、やりきれないたまらない。
救いがないのが、この平穏な世界はすでに滅びが決定しているということ。二順目の世界よりも一年近く進んだこの世界は、既に崩壊が始まっている。ここに暮らす人たちは、遠くない未来に世界の非在化に飲み込まれて消滅してしまう運命にある。
だからこそ、この智春が生まれた世界。二順目の世界が生み出されたわけですから。

哀音は、いずれ出てくると思ってたけど、出てきたら出てきたらで、予想していた以上にショックだったなあ。ほんとに、この娘、性格は操寄りだったんだなあ。明るくあっけらかんとして眩しくて……。

そして、黒崎姉妹の姿。こっちじゃ、紫浬はベリアル・ドールにはなっておらず、朱浬さんもまた生身の体の普通の女生徒なわけで。そもそも、二人が入れ替わってることもないんだよなあ。智春は知らなかったんだっけか。
こちらの世界での朱浬(紫浬)に出会ったときの智春の、なんか心ズタズタにされたような反応見てると、やっぱりあの惨劇で彼が一番ショック受けてたのは、朱浬の死だったんだなあ、と実感させられる。なんだかんだと、朱浬のこと慕ってたんだよなあ、智春って。
一応、希望があるみたいな話が出てきてるけど、ここで感じてる智春の喪失感、哀しみ、悔しさは本物なのですから、しっかり飲み込んで欲しいなあ。

そして、さらに明かされてく世界の秘密。世界崩壊の真相。世界救済への手立て。アスラクラインが持つ力の本当の意味。
怒涛の展開なんだけど、それに押し流されながらも智春は今までにない頼もしさで立ち向かってくれるんですよね。そりゃあ、あれだけ酷い目にあい、大切な人たちを失って、残された大切なものさえもこれから失おうとしているのに、ぼんやりしているままなわけないよな、主人公なんだから。

世界はまだ、滅びていない。一順目の智春は、自分の世界を見捨ててきたのではなかったのだ。彼の遺志を継ぎ、多くの人の想いを背負い、世界を救う覚悟をきめて、智春は再び旅立つ。操とともに、奏とともに。
と、こう書くと次こそ最終巻、って感じなんだけど、あとがき読む限りはまだ終わらなさそうなのが凄い。

凄いと言えば、智春ってすごいですよねえ。こいつ、操に関しては完全に常に傍にいる存在と考えてるんだよなあ。好きとか嫌いとか異性だとか恋人という範疇から、度外視してる。幽霊という状態で常に傍らにいたからこそ育った感性なんだろうけど。奏に好きと告白しながら、操が傍に居続けることには疑いすら抱いていないんだから。
こいつ、もし操がベリアルドールから人間に戻ったとき、二股状態になるというのをまったくわかってないよな(苦笑
笑ってしまうのは、その辺の葛藤は、既に操と奏の間でなんやかんやのうちに解決してしまっているところか。
在る意味、その感性こそが智春こそまさにアスラクラインに相応しい、と言える部分なのかもしれないけど。
荽塔貴也にしても、加賀篝隆也にしても、自身のベリアルドールと契約悪魔との関係は、いささか問題あったからなあ。