うちの魔女しりませんか? (ガガガ文庫)

【うちの魔女しりませんか?】 山川進/CUTEG ガガガ文庫

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その日僕は、小さな魔女を飼うことになった。
「今日、地球上から魔女が絶滅しました」──。魔女が、絶滅危惧種として保護されている世界。僕は誰にも内緒で、ちいさな魔女を飼うことになった。この世界にひとりぼっちの魔女・ミラと、ひとつ屋根の下で秘密の二人暮らしが始まって──。ところが、ミラはほうきに跨れば家を壊し、カタコトでしか喋れず、食事は三食たい焼き……? 平穏だった僕の生活は一転、てんやわんやの大騒ぎに。しかし、秘密の日々は長くは続かない……僕は、わかっているつもりだった。いつか、ミラは「魔女の楽園」へ帰らなければならないことを──。
この、ラストシーンは……うん、これはすごく印象的だった。人間の世界では幸せになれないだろう人ではない生き物との温かな交流、育まれる親愛、そして別れ。いずれ帰るべき場所に送り出さなければならない異生物との別れまでの日々を描いたハートフルストーリーとして、全体的に良質な雰囲気を保ち続けた本作ですけれど、良作との印象を決定づけたのは間違いなくあのラストシーンでしょう。作者としてはここ、絶対にエピローグとか付け加えたくなるところなんですよね。そこを思い切ってザックリと終わらせた決断には絶賛の拍手を送りたい。本当はこのあとの文哉の気持ちを、茉莉やリョータがどんな思いでその後の日々を過ごしていくのか。そのとっかかりだけでもエピローグで読みたいというのが本心です。でもね、あそこで終わらせたことで、別れの切ない気持ちが整理されることなくあの瞬間を切り取ったようにそのままの形で、消えずに心に焼き付く事になったのです。鮮烈に、衝撃的に。
だから、とても印象的なラストシーンとして、いつまでも心にのこることになったのでした。だから、今もなお切ない気持ちが忘れられずにいます。正直なところ、ミラとの別れはあのラストシーンに至るまで調停調和としてそこまで思い入れがなかったのです。それなのに、あの終わり方のお陰で文哉があの瞬間に抱いたであろう置き去りにされたような寂しさ、切なさ、物悲しさや安堵、途方に暮れたような安心感や孤独感がダイレクトに読者である自分にまで乗り移ってしまったようでした。
きっと、文哉はこのあと茉莉やリョータのもとに戻り、この感情を彼女らと共有することによって傷ではなく大切な思い出として癒していくのでしょう。でも、意地悪なことに作者はその癒しをエピローグを書くことで共有させてくれなかったんですよね。意地悪です、本当に意地悪です。でも、物語の書き手として実に素晴らしい決断だったと思います。
ミラの小動物めいた可愛らしさ。文哉のアドリブ力の皆無さ、茉莉の天邪鬼だけれど実に行き届いた支援能力(ぶっちゃけ文哉は茉莉が側についていないとマトモに世の中渡っていけないんじゃないかと)、リョータのアホだけれど友達甲斐のある気持ちの良さについては、本文にて堪能してください。
行方不明になった父親の扱いや(息子に官庁から何の連絡もなく、報道で安否を知るしかないというのも変な話ですけど)、敵の唐突さなど気になるところも多々ありましたけれど、ラストシーンの素晴らしさも含めて、実に心温まる物語でした。良作。