超飽和セカンドブレイヴズ ―勇者失格の少年― (電撃文庫)

【超飽和セカンドブレイヴズ ―勇者失格の少年―】 物草純平/こちも 電撃文庫

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Kindle B☆W

罪を背負った勇者失格の少年が、それでも真の勇者を目指すブレイヴパンク・ファンタジー!

始祖勇者と魔王の戦いから幾星霜。いまや、全人類に「勇者因子」が行き渡り、人々が洩れなく勇者化して、職業的勇者――「セイヴズ」と呼ばれる「プロ」たちが世に溢れ返る、そんな勇者飽和時代。
にも拘わらず、自らを「勇者因子を持たない例外」と嘯く少年、草壁ジョウは、ある夏の日、重い決意を胸に大都市スプリーヴィルの土を踏む。「セイヴズの聖地」と謳われるこの街で、今度こそ「プロ勇者になる」という幼き日の夢に、諦めの踏ん切りをつけるために……。
しかし、そんなジョウの前に現れたのは、弱冠十四歳にして現役のプロ勇者〈プリマステラ〉。「世界勇者協会」からジョウの世話役に任じられたという彼女は、なぜか事あるごとジョウを「お兄ちゃん」呼ばわりするワケありのチョロインで!? マギテク万能が隆盛を極め、有象も無象も勇者化した近未来的異世界で、互いに迷いを抱えた少年と少女は、それでも真の勇者を目指す! 挫折と栄光のブレイヴパンク・ファンタジー!

ひーほう!!
って、虫愛ずる姫君ミス・ファーブルの続きでないんですかーっ!?(悲鳴
女装示現流剣士アメリカ大陸を征く、を見たかったのに見たかったのにッ(血涙
ただ、本作にはミス・ファーブルのアメリカ編で準備していただろうあれこれがわんさかと詰まってるんですよね。舞台となる大都市スプリーヴィルからして、モデルはNYはゴッサム・シティですもんねえ。アメリカン・ドリームの光と闇、栄光と没落が敷き詰められた新大陸の息吹が感じられるのです。
人類みな勇者という世界。そんな世界の中でも特に国籍人種人外を問わず集まる勇者の坩堝スプリーヴィル。そこでは、勇者のプロ「セイヴズ」として活躍する人たちが勇躍しているのですが、このプロ勇者たちがまた色者揃いというか、マーヴェラスヒーローなんですよね。しかしプロフェッショナルだけあって、ボランティアと正義の為に戦っているわけではなく、ちゃんとした職業「勇者」として日々活動を行っているのである。それも、悪や犯罪と対抗するだけではなく、むしろ人気商売ということでパフォーマンスや宣伝活動にもリソースを多く傾けているのである。結果として、プロ勇者を志しながらも人気が出ずに生活苦に陥って、そのままアンダーグラウンドに流れていく勇者も少なからず居て、そうした犯罪者勇者因子保持者が暴れるのを取り押さえるのも、プロ勇者のお仕事の一つになっている、というのは何とも悪しき循環になっているといえる。
もっとも、勇者の仕事の最重要は、魔王の眷属と呼ばれる存在、ある種の自然災害的な怪物の駆除というものがあるので、決してマッチポンプだけで成り立っているわけではないのだが。
ともかく、そんな客商売としての勇者業や、勇者因子の高さで能力が評価されてしまう傾向、アメリカン・ドリームによってもたらされる栄光と、その輝きの裏で色濃く影を作る社会構造の敗残者たちの姿。そんな構図に強い危惧を抱いているのが、まさにプロ勇者の頂点近くで活躍する「プリマステラ」である一方で、勇者によって構成される社会の、いわば外側に隔離されてそこから憧憬をもって「勇者」という存在を見つめてきた主人公のジョウが、むしろ楽観的に……いや、「本物の勇者」というものに信頼を抱いている、というのはなかなかおもしろい構図だった。これは、彼ら二人が一番身近に接していた「勇者」に対する感情そのものだったのかもしれないし、それが実は同一人物であり、二人の関わり方によって捉え方が違っていた、というのも面白いなあ。
世が望んでいたのは、唯一絶対の特別な一人の勇者だったのかもしれないけれど、現実として世界には勇者が溢れている。まさに、人類の一人ひとりが勇気ある者である「勇者」の因子を備えている。
この時、様々な思惑や陰謀によって企まれていたものは、望まれし特別な勇者の育成でありプロデュースだったはずなのに、その対象として選ばれていたジョウは、それを結果として否定することになる。彼が憧れた勇者ってのは、そんなものじゃなかったんですよね。彼が感じていた罪とは、単に大量殺戮や世界の敵となりかねない力のことではなく、自分がもっとも大事に思っていた人を自分のせいで亡くしてしまい、また誰かにとって大事だった人を喪わしめてしまったことだったのでしょう。彼の苦しみは、等身大で在り続け、また彼の憧憬もまた、彼が抱いた夢もまた、特別なものでも世界的なスケールのものでもなく、とても身近なものだったのであります。
そんな自分の内実を、彼は招かれ訪れたこのスプリーヴィルで案内役として出会った少女エステルとの出会いにより、そしてこの街で繰り広げられるプロ勇者たちの活動、見た目派手な、しかし一人ひとり実直にそれぞれのやり方で街を守るために戦っている人たちの姿を、そんな彼らに笑顔で声援を送る街の人達の様子を目のあたりにすることで、ようやく具体的なカタチとして捉えていくことになる。
そして、エステルと自分の秘められた因縁を、知らずに共有していたものを知るに至り、彼が背を向けながら諦めきれなかった夢の、本当の姿を確かめることになるのである。

ジョウって、ずっとメンタル的に停滞していたわりには、後ろ向きな性格はしてなくて、愛嬌のあるひたむきな好漢なんですよね。自分の中にある鬱屈を、他人にまで押し付けないという意味では非常に大人であり、その意味ではエステルの方が精神的に余裕を作れず、どうやらプロ勇者として成功しつつも、他者とのコミュニケーションとしては大失敗してたようなんですよね。
もっとも、それは幼少期に拠り所となる相手が傍にいたか居なかったか、という差でありそれがそのまま、エステルのジョウへの複雑な感情に繋がっているのですけれど、隔意よりも孤独感を埋めるために親愛を募らせまくっちゃってたあたり、エステルのちょろさというかポンコツさが滲みでてるわけで……。
自覚のあるチョロさって、ある意味取り返しつかないですよね!!
いやもうでも可愛いんですけれど、出会う前から色々と煩悶しすぎてブラコンにまで発展してそれを抉らせてしまっていたとか、相当にアウトだったりするんですけれど、懐き方が本当に可愛らしくてねえ。
ダメな子ほど愛おしい、というやつですなあ。最初の印象が、というか世間一般の印象からしてクールビューティーの取り付く島のなさそうな厳しい才媛、というのを盛大にうっちゃってくれましたからねえ。
どれだけ寂しかったんだよ、と撫でたくなるじゃないですか。

あれ、初めての時は事故だったんでしょうけれど、二人で暮らすようになってからの裸見られる事案はどっからどう見ても、エステルがわざとやってるようにしか状況聞く限り思えないんですけれどw

一押しキャラは、やはりマリッジグールの姐さんでしょう。キャラ作りだった婚活キャラが、途中からマジになってしまってる、コスチュームがウェディングドレスの女性とか、色々とつらすぎるw 勇者ネームからして「グール」が入ってるのはヤバイでしょうw
これで、何気に中身は出来た女性なんだよなあ。面倒見も良いし、エステルみたいな面倒くさい子にも目をかけて気を配ってくれてるし。あのエステルのイチャコラっぷりを見たら、軽く首くらい締められそうですけれどw
なんとなく、本作の続きが出るのかもちょいと怪しい雰囲気ですけれど、新作でも何でも次は早くお願いしたいなあ。ミス・ファーブルはもう無理なんかなあ、ひーほう。


物草純平作品感想