戦国小町苦労譚 一、邂逅の刻 (アース・スターノベル)

【戦国小町苦労譚 一、邂逅の刻】 夾竹桃/平沢下戸 アース・スターノベル

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農業高校生(♀)が戦国時代にタイムスリップ! ?

「山道を抜けたらそこは戦国時代でした」ばりに唐突に現れたのは、憧れの織田信長。
主人公・静子はこの時代で生き抜くために「農業で才を示す」約束を信長にしてしまう。
寂れた農村を与えられ、来る日も来る日も農業に明け暮れる静子だったが、やがて本人も気づかないうちに、信長にとってなくてはならない存在=重臣にまで上り詰めてしまってーー

こんなライトノベル今までになかった!
知人に言いたくなる「豆知識」ふんだん系新感覚時代小説が登場。
web版既読。こうして読み返してみると、タイムスリップしてから信長と出会って引っ張り込まれるまでの流れが強引極まるなあ。
ここらへんは初めて物語を書き始めた人特有の拙さがもろに出てる部分であるんでしょうね。まず役者を舞台の上に乗せて話を回しだすことを優先して、そこに至るまでの準備を整え舞台の上までの階段をあがる部分を思いっきり蔑ろにしてしまってる。まず書きたい内容の該当部分を早く書きたかったんでしょうね。なかなか、これまで書いたことのない人って、ここを丁寧に描くという意識がポーンと抜けてるパターン珍しくはないですから。こういうのは、書いている内に自然と身につくところなんですけどねえ。
ともあれ、一度舞台の上にあがってしまえば、静子の楽天的で脳天気、物事を楽しみ好奇心旺盛に自分のやりたいこと(農業関係)を貪欲に試していくキャラクターは、作品そのものを快活に動かしていくのでありますが。
こういう異世界や過去の世界に現代知識を持ち込んで生産無双を繰り広げる作品というのは一つの隆盛を気づいているのですが、大概の作品は知識だけではない能力的な「ズル」をしてる場合が多かったりします。知識だけではどうにもならない部分を、チートで誤魔化すわけですな。おかげで、技術的な蓄積のない一足飛びの技術革新なんかがポンポンと飛び出して、まあ時代や文明レベルではありえない発展なんかが起こってしまって、ちと白けてしまうんですよね。
その点、この静子は完全に知識のみの勝負をしていて、最初に持っていたサツマイモの種なんかは最初の掴みとして使って、以降はほぼ現地にある動植物や技術レベルを使った試行錯誤に終始してるんですよね。
まあとかく、静子の持つサバイバル技術込みの農産知識の豊富さがまた女子高生レベルじゃないんですよねえ。いや、農業高校生だったりすると尋常でない知識量を持ってたりするので、侮れないのですけれど。
それにその知識も教科書のものを丸写ししてるようなものではなく、ちゃんと実地で蓄積されたもの、という地に足がついた感じのするものなんですよね。頭でっかち、机上の空論ではなく、身についている技術と知識を再編し、実地で発展させていく、というような安定感がある。
彼女のもたらす知識というものは、他と断絶している彼女特有のものではなくて、経験し慣れて覚えればちゃんと現地の人たちにも血肉となって身についていくものなだけに、それは広がり国そのものを富ます可能性を持ってるんですよね。
それにしても、静子の引き出しの広さは尋常じゃないのですけれど。いやまじで、現地調達と現地改良が主でありながら、生産系最強なんじゃないだろうか。
あと、餌付けは万物に共通する交流手段だよなあ、と。美味しい飯は、大概の人を黙らせ唸らせる。
ひたすら、農村で農作物を作ったりしているだけなので、今のところ非常に地味な展開なのですが、こういう土いじりしてる話、なんだかんだ好きなのよねえ。
主人公が女性、というのも珍しいけれど、信長の庇護があるというのも大きいけれど、女性であるからこそ蚊帳の外で自分の好きなことをしていられる、という所も大きいので、バイタリティある女性主人公というのは面白い試みだったんじゃないかと。

第一巻ではまだ、静子は結果を出すためのあれこれに終始していて、信長たち現地の武将たちとの交流などはまだ端緒なんですよね。今後、成果と美味しいご飯に釣られた、かどうかはわかりませんが、どんどんと出入りが激しくなってくるので、ドタバタ風味の日常も盛り上がってくるのでそれも期待。
慶次と濃姫さまが出てきたからが本番よなあ。