バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

【バビロン 1.女】 野崎まど/ ざいん 講談社タイガ

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東京地検特捜部検事・正崎善は、製薬会社と大学が関与した臨床研究不正事件を追っていた。その捜査の中で正崎は、麻酔科医・因幡信が記した一枚の書面を発見する。そこに残されていたのは、毛や皮膚混じりの異様な血痕と、紙を埋め尽くした無数の文字、アルファベットの「F」だった。正崎は事件の謎を追ううちに、大型選挙の裏に潜む陰謀と、それを操る人物の存在に気がつき!?
ぐわぁ、すげえ。この進めば進むほどズブリズブリと足の抜けない沼にハマっていく感覚。謎を追えば追うほどに自分の立っている地面がぐらついていき、常識が剥がれ落ちていき、正気が削れ落ちていき、どこに向かっているのかわからなくなっていく、闇の奥へ奥へと引きこまれていくかのようなゾッとするような、それでいて惹きつけられる物語の没入感。これは紛れも無く野崎まどワールドだ。
一枚一枚、真相へと近づいていくほどに濃くなる闇。ようやく明らかになったと思われた真実は、途方も無く巨大な権力の腕による逆らいようのない囲いであり、正崎では正義とも悪とも断じ得ないより良い未来を掴みとろうとする思想と信念の賜物だったわけだ。その真実ですら、正崎にとっては戦いようのない、戦うべきかも判断できない巨大な力の渦だったのだけれど……でも、それでも正崎の理解できる世界だったんですよね。手の届かない高く遠い世界の話でも、ちゃんと見て聞いて理解できる世界の話だった。
ところが、彼が追っていた事件は、辿り着いたと思われた真相は……当たりでもありハズレでもあったのだ。掴んだと思った真実のその当事者・関係者たちも関知していない、本当の闇がうごめいていることを正崎は知ることになる。決して理解できない、得体のしれない人智を超えた、正気を逸した、人間の持つ共通理念を逸脱してしまった、超越してしまったものの存在に行き当たってしまう。
理解不能の、未知なるものの恐怖。
あの、ガラガラと正気が崩れていくようなスペクタクル。ただのどんでん返しというには、あまりにも不気味で異常な事件は、まだなにも始まっていなかった、これから始まるのだ、という事実を否応なく突きつけてくる、この
怒涛の盛り上がり。もう、すげえところで終わったわ、第一巻。
東京地検特捜部の腕利き検事を主役として、決して大きいとは言えない医療薬品にまつわる事件の捜査をするうちに、得体のしれない資料を発見し、その持ち主を訪ねていけば当人は自殺体で発見され、とどんどんと巨大な闇が横たわっているだろう都市の暗部に切り込んでいく、サスペンスものとしても非常に読み応えのある作品として読み進めて行ってたら、これだもんなあ。
ほんと、読者の目線の持って行き方というか、ストーリーテリングというべきか、物語の誘導と引っ張り方、盛り上げ方がやっぱり抜群に上手いんですよね。いつの間にか、心をがっしりと鷲掴みにされて、時間を忘れて夢中で読んでしまっている。気がつけば、足の届かない沼に引っ張りこまれてズブズブと沈んでいく。人間の本性というものを、丁寧に丁寧に解体されて、細かくバラされたパーツが綺麗に並べられていくのを、瞬きするのも禁止されたように凝視させられ、目に焼き付けさせられる。
この、ゾッとするような快感は、野崎作品ならでは、と言っていいのでしょう。そろそろ2巻が出るということで、積んでいた本作を手に取りましたが、いやもう、参った。
案の定だ。めちゃくちゃ面白え……。

野崎まど作品感想