大陸英雄戦記 2 (アース・スターノベル)

【大陸英雄戦記 2】 悪一/ニリツ(アース・スターノベル) 

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現代日本からユゼフ・ワレサが転生したのは、滅亡寸前の小国だった!? 祖国を守るため、ユゼフは士官学校への入学を決意する。士官学校の卒業を間近に控えたユゼフたち士官学校5年生は教官から「隣国内の独立戦争に義勇兵として参加」するよう言い渡される。大国・東大陸帝国の大軍を相手に、ユゼフたちの“本当の卒業試験”が始まる――。半年で2,100万PV超を獲得したwebで大人気の転生戦記が、アース・スターノベルから書籍化!

ユゼフの参謀としての能力が開花するラスキノ防衛戦編。本格的に戦争に参加するのはこれが初めてとなるのだけれど、その初っ端が士官学校を卒業する前に義勇軍として国外に派遣されて、孤立した独立都市で圧倒的劣勢な戦力比の中で防衛戦、というのだから過酷もいいところなんだよなあ。
しかも、市街戦である。
籠城戦というと、中近世のそれは城に篭って城壁を間に挟んで攻防戦、とイメージしがちだけれど、本作は近現代に足をツッコんでいるせいか、イメージとしてはスターリングラードとかのそれである。
ラスキノって、こっちで言うところのケーニヒスベルク――カーリングラードなんですよね。ドイツ、ロシア、ポーランド間で揉めに揉めまくった紛争地。主人公とはいえ新品少尉にもなっていない士官候補生が最初に首をツッコムにはえげつない場所である。
一方で、身分を隠しているとはいえエミリア王女のそばに居たからか、地べたをはいずりまわって歴戦の下士官に叱咤されながら最前線で震えてチビるという新品少尉にありがちな体験はせず、士官候補生ながらいきなり参謀扱いで使われることになったのは運の高さでもあるのだろうけれど、戦いがはじまる以前から入念に市街戦の可能性を高く見積もって、詳細な作戦案を実際に街を歩いて地形や建築物を把握しながら構築していたあたりに、ユゼフが根っからの幕僚型……というよりも、状況に対応するのではなく自分で状況を掌握して作り出そう、というスタイルが感じられるんですよね。それも、「情報」という武器を収集、集積、分析、運用、応用、利用することでその特質がこのラスキノ独立戦争で浮き彫りになってきてるんですね。
ユゼフもそうなんだけれど、サラやラデック、エミリア王女にマヤさんとその後の得意分野となるものをこの初陣でどんどん掴んでいってるのである。その後の彼らの飛躍を考えると、この段階でラスキノ防衛戦という過酷な市街戦を戦った経験というのは、思いの外大きかったのかもしれない。特に、ラデックのあの兵站参謀としての際立った能力は、便利極まるもんなあ。ユゼフが好き勝手思うとおりに仕掛けを施せるのも、サラが好き勝手動き回れるのも、エミリア王女が思うがままに指揮を取れるのも、それを動かすための物資が必要な時に必要な場所に必要な分用意されてこそなので、それを十全整えられる人材が一番の身内にちゃんと居る、というのはどえらいことである。
ユゼフ自身語っているけれど、この五人組、ユゼフが農民階級出身、ラデックが商人階級、サラが騎士階級、マヤさんが貴族階級、エミリア様が王族と見事に全身分階級が揃ってるんですよね。まあユゼフについては農民と言っても裕福な家ですし、そもそもユゼフは農民詐欺みたいなもんでどう見ても知識階級なんですけど。ここにイリヤ先輩やヘンリク先輩という学識部門、治安部門の各人が参加してエミリア派の中核となるメンバーが揃うのだけれど、決して意図したわけではない関係にも関わらず面白いメンバーが揃ったもんだなあ。
そう言えば、この2巻ではイリヤ先輩とヘンリク先輩がエミリア様と出会ったエピソードが書き下ろしで描かれているけれど、この二人わりと重要なポディションのわりにあんまり描写がなされなかったので、この追加は良かったんじゃないだろうか。ってか、イリヤ先輩思ってた以上に面白い変人なんですけれど、もっと出番増やしてくれてもいいんじゃないだろうか、ヘンリク先輩もだけれどもっとメインで扱っても良さそうな良いキャラなんだけれどなあ。

しかし、近世の市街戦なんて描写難しいだろうに、魔法の使い方を限定というか、利用法を専門化したせいもあってか、攻防が非常にわかりやすくなっている。その上で防衛戦の重要な部分、注視すべき部分、それぞれの戦略目標をきっちり説明した上で、戦術選択の必然性とその実行における効果など、簡易かつ筋立てて描かれているので、戦場の動きが把握しやすくて同時に生々しいダイナミックさがあり、ウェブ版でも読んでたけれど、改めて見ても面白かった。戦記物における実際の戦闘シーンって、わかりやすさと緻密さが並列していてこそ面白いんだよなあ。

さて、士官学校卒業前に実戦を経験したユゼフたち。その勲功は卒業時に反映されて、みんな卒業時には少尉任官どころか、中尉や大尉任官からという……なにそのフライングスタートw
そして、ユゼフ自身はエミリア様の懐刀として、ただの軍人として以上に彼女の政治にガッチリ食い込むこととなり、オストマルク帝国に大使館付武官として向かうことになる。まあ大使館付武官なんて、スパイも良いところなんですけれど。
さあ、そしてそこでサラの存在をメッタ斬りに脅かす、メインヒロインの登場ですよ?

1巻感想