幻獣調査員 (ファミ通文庫)

【幻獣調査員】  綾里けいし/lack ファミ通文庫

Amazon
Kindle B☆W

村を襲うも人は殺さない飛竜の真意とは。老人の巻きこまれた妖精猫の裁判の行方は。
鋭い吠え声が響く村で娘達を食らう獣の正体とは――。独自の生態と超自然の力を持つ生き物、幻獣。
謎多き存在である彼らと人の衝突が増えたため、国家は幻獣を調査し、時には駆除をする専門家を定めた。そのひとりである調査員のフェリは「人と幻獣の共存」を胸に、世界で唯一の幻獣書を完成させるため旅を続けている。
これは、人と幻獣の関わりが生む、残酷で優しい幻想幻獣譚。
ねこー、ねこー! 短編連作形式なのですけれど、掌編とも言ってもいいだろうネコネコ大裁判編がもう好きすぎて。ほわー。
綾里けいしさんというと、代表作の【B.A.D.】に代表されるように物理的なグロさと精神的なグロさをハイブリッドしたようなホラーの印象が強いのですけれど、決してそれ一辺倒ではなく透き通るような純愛だったりライトでポップな明るい話だったり、切なくも美しい御伽話だったり、ドタバタコメディみたいな話だったり、何気に何でも書ける作家さんなんですよね。それも、どの分野もエッジがきいていて心に訴えかける力強さが在る。
この短編集は、そんな綾里さんの作風の広さを堪能させてくれる、見事なくらいにいろんなタイプの話が詰まっているのです。
なかでも【妖精猫の裁判】は、このはにゃーとなりそうなフェリ猫の可愛らしさは特筆に値すべきもので、いやもうこれ反則だろ!!

この主人公のフェリという娘さんがまた面白い子で、イラストの神秘的な風貌や白いヴェールを被った姿からも、なんとも厳かで重々しい女性なのかと思ったら、バイタリティがあるというかいい意味で図々しいというか、なかなかのタフネスガールなんですよね。面白い子なんだわー。
そして、強い娘でもある。
意志の強さ、幻獣にも人間にも偏らない公平性と、どちらも心から慈しみ愛する心を揺るがさない不屈さ、そしてわりとズケズケと相手の領分に踏み込む図々しさと、それを許してしまう愛嬌。
それらは、人外の存在である、それこそ魔王とも言うべき破壊のために生まれた黒い影クーシュナをして、心奪われてしまうほどに、魅力的な魂の輝きなのである。
そうだよなあ、これもまた怪物と人間のラブストーリーとも言えるんだよなあ。
でも、この本の話を通してみると、幻獣だ人間だ動物だ、という存在の差異に対して、心の在りようの差異はそれほど異なるものではないのですよね。
大事な巫女のために傷つき哀しみのたうち回る飛竜の姿に、想えど想えど離れていく男たちの背にすがることも出来ずに自分ではもぎ取ることの出来ない林檎を胸に抱くマーメイド。
大事な人を奪われた怒りに、憎悪に身を焦がして復讐に身も心も焼きつくす老犬に。
身勝手に利用され、騙されて、しかしそれでも人して罪の裁きを受けようと思いながら、幻獣として討たれることを人としての選択で受け入れた一人のライカンスロープ。
そして、衝撃のラストエピソードで語られた、少女の「人間であり続ける」物語。あの小さき勇者トローの、友のために命を焼きつくす訴えが、その高潔なありようが胸を打ってやみません。
こうしてみると、フェリの物語である以上にこれってクーシュナの物語なんですよね。魔の王様が人を知り、世界を知り、友情を知り、哀しみを知り、絶望を知り、そして愛を知るとてもとても切なくも甘やかなロマンティックなお話なのです。
本作はこれ一冊だけの予定みたいですけれど、フェリとクーシュナとトローの三人の旅の御伽話、これで終わるにはもったいなさすぎる心揺さぶられる作品でした。
ねこー、ねこー。

綾里けいし作品感想