はたらく魔王さま! (15) (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 15】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

Amazon
Kindle B☆W

魔王、ついに正社員!! ……になるための登用研修を受ける!
真冬の大騒動な第15弾!

ライラから異世界の危機について話を聞いた魔王だったが、悲願の正社員への登用研修が始まり、それどころではなかった。
魔王の留守中、千穂と鈴乃はアラス・ラムスのためクリスマスパーティーを企画していた。初めてのクリスマスに浮かれて靴下を大量購入するエメラダや、梨香のことを気に掛ける芦屋、母親が世界の危機に関係していてもまったく気にしない漆原たちをまとめあげ、パーティーを無事開催することはできるのか!?
天使たちの過去、天界の悲劇も明かされ、庶民派ファンタジーにまさかの新展開も!?
こうしてみると、真奥って主人公とは違うよなあ。【ラブひな】後半の景太郎、というとたとえが古すぎるか。たまにあるパターンなのだけれど、真奥自身は物語の主軸でありキャラクターたちからその動向を注視される存在なんだけれど、悩んだり迷ったり一歩一歩進んでいく内面や人間関係の紆余曲折に一喜一憂する様子を詳細に描写されるのは周囲の人間たちなのである。だから実際の主人公は周りの人間たちであるとも言えるし、群像劇とも言えるのかもしれない。真奥も勿論、決断や判断に迷ったり右往左往しているのだけれど、一番芯の部分が揺るがないと同時に、その一番肝心な部分に関してはなかなか踏み込まれずに描かれることがないので、主人公でありながらもしかしたら登場人物の中で一番その人物像が未知でもあるんですよね。一番肝心な部分で一体何を考えているのか、教えてくれないというかわからないようになっている。
だからこそ、彼に好意を抱いてしまったヒロインたちは真奥という男が何を考えているのか、この局面において何を選ぼうとしているのか、常に迷い悩んで考え込んでしまっている。
今回は真奥が本編に殆ど登場しない構成になっているせいか、普段よりもそのへん顕著になってるとも言えるんですよね。
風雲急を告げているにも関わらず、生活自体は落ち着いているという状況も拍車をかけているのだろう。
今の自分達について、そして将来について、みんなが立ち止まって考える機会を得てしまってるんですよね。
ただ今までと変わらない日常が続いていくなら、深く考えずにそのまま流されるように現在を延長していけばいい。危機が訪れ渦中に放り込まれたなら、考えている暇もなく現状を切り抜けなければならない。
でも今回に関しては、今までの日常を捨てて違う世界に旅立つ、という選択肢を突きつけられた上で、考える時間が与えられている。否応なく、立ち止まって周りを見渡して、先のことを具体的に考えなきゃいけない局面なのだ、これ。
まず、みんな思い描いたのは、誰も不幸にならず穏便に、みんなが幸福でいられるにはどうしたらいいか。で、ここでみんな考え込んでしまったわけですね。
そもそも、幸せになるってなんじゃらほい。
真奥はずっと正社員になることを目指してきていて、今は正社員研修までたどり着いて夢までもう一息、のところまで来ている。ところが、そもそも真奥の能力的ではマッグの正社員という枠組みは合致しないんじゃないか、なんて疑惑が出てきている。彼のマッグ店員としての優秀さ優良性は木崎店長の下でこそ発揮されるものなんじゃないか、という疑惑。
或いは、長命種である天使や悪魔と、短命種である人間との恋愛。サリエルやノルド、ライラ夫妻が語る寿命の違う存在との恋、幸せになるということの経験譚は、エミリアを揺さぶり梨香の告白に背を向けた芦屋に大きな衝撃を与えることになる。
特に、ある種の固定観念に縛られていた芦屋なんぞは、その価値観からひっくり返されるような思いに晒され、大いに煩悶することになる。今の彼は立場や種族の差、建前なんかをペリペリと引き剥がしながら、ようやく自分の想いの形というものを自分で覗きこみ始めているところなので、こういう初々しい煩悶は見ていてニヤニヤしてしまうんですよね。あんまりズルいとか酷いとか言ってあげないで、何もかもが初めての経験なんだよ、芦屋も。恵美もそうだけれど、ある種の慣れや健気さが在る千穂や梨香は試行錯誤や立ち止まってしまってる時がんばれがんばれと応援したくなるタイプなんだけれど、本当に初心で一歩一歩が恐る恐る、何かあると途端平静を保てなくなる初心者な恵美や芦屋のそれは、より甘酸っぱさが増々で思わずジーっと見守りたくなるというか、突っつくのも勿体無いという感じで、いやはや。ベルはもうちょっと存在感出したほうがいいと思うけれど。

一連の天使誕生にまつわる事情から、さらに悪魔の正体や大魔王サタンの過去など、エンテ・イスラにまつわる謎の殆どが開示されたわけだけれど、なんか思ってた以上にファンタジー要素が抜けたSF展開だったのね。そして、ラストの急展開。あれだけエンテ・イスラの危機を救うために今の生活を犠牲にすることを拒絶する雰囲気だったのが、どうして一転ああなってしまったのか。最後の最後まで理由が想像できずに首を傾げていたのだけれど……なるほど、あれはみんな全会一致で意見をひっくり返すのも仕方ないわ。
みんなで幸せになるには、の大原則を無視することは出来んわなあ。
いやそれにしても、エメラダさんがどれだけ政治的に大暴れしたんだが。でないと、あのラストの光景はなかなか現実のものと出来ないぞ。そして、ちゃっかりガチで悪魔大元帥に就任している千穂ちゃんにワラタw

シリーズ感想