最果てのパラディンII 獣の森の射手 (オーバーラップ文庫)

【最果てのパラディン 2.獣の森の射手】 柳野かなた/輪くすさが オーバーラップ文庫

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女の子じゃないのかよぉ!! 思ったよね、思ったよね? メネルドール、ハーフエルフのこの娘が本作のヒロインだって。なので、読んでいる間中いつ正体がバレるんだろう、メネルの隠されていた性別が明らかになるんだろう、とニコニコしながら待っていたのだけれど、いつまで経っても正体がバレないのでにこにこ顔のまま「ん?ん?」となってたら、ついに一緒にお風呂まで入ってそのまま何事も無くあがってしまったのを目の当たりにして、ようやく、ようやく「あれ? もしかしてメネルって女の子じゃないの? マジで違うの? ウィルくん、男と女の区別もつかないポンコツくんじゃなかったの? むしろ、こっちがポンコツだったの!?」と現実を受け入れるはめに。
はずうかしいっ。
やられた。新キャラ登場の展開があまりにも毎度おなじみだったので、新ヒロイン登場だ、と何に疑念も疑わずに思い込んでしまった。だって、メネルってちょっと口が悪くて柄も悪いけど何だかんだと親身になってくれて、世話好きで、何だかんだとお坊ちゃんな所の在るウィルの脇の甘さをマメに埋めてくれる、実にヒロインらしいキャラクターだったじゃないですか。メンタル的にも、家族以外と接触したことのなかったウィルの危なっかしい部分を時に乱暴に突き、時に体を張って支え、と名実ともに無二の相棒になっていくところなど……。
あれ? ……別にもうヒロイン女の子じゃなくてもいいんじゃね?
詩人には後々、実はメネルは女の子で、ウィルと恋仲だったのだ。と歌われるに違いねえと頭抱えてたメネルですけれど、あんたそれまだマシかもしれないよ。男の子だったけれど恋仲だった、と何百年歌われ続けてもおかしくなさそうですね、うん!!

いやしかし、本当に2巻になってもヒロインが登場しない、というのは想像もしていなかった。もしかして本当にヒロインはメネルなのかもしれないし、心から神に捧げている聖職者として生きているウィルの物語としてはもしかしたら真ヒロインは灯火の神グレイスフィールなのかもしれないなあ。グレイスさま、イメージの中に登場するだけで何も喋らないのだけれど、意外と感情豊かに見えるんですよね。ウィルが思いつめて間違った方に突き進んでしまいそうになった時はえらい心配そうにしてるし、メネルに助けられて自分の往くべき道を見つけた時なんかは凄く嬉しそうにはにかんでるし。
もうどれだけウィルのこと一生懸命見守ってるのか……あれ? やっぱりヒロイングレイスフィールさま?


生まれてからずっと遺跡の中で育ってきたウィルが、初めて見る人の住む世界。ブラッドたちの時代から200年が過ぎた外の世界・南辺境大陸の情勢が旅するうちに明らかになっていくのだけれど、厳しい環境であると同時に、そこで人々は逞しく生活してるんですよね。そういう人々の苦境や生きる意思の強さを純真無垢なその性格で素直に感受して、心に感じ入っていくウィル。
そんなウィルだからこそ、人の強さたくましさに素直に感動し、敬服し、愛おしみ、祝福してくれるウィルだからこそ、厳しい環境の中で生きてきた辺境の人々は彼の英雄としての輝きの強さと、聖職者としての包むような包容力に惹かれていくのである。まさに、闇に点った灯火のように。
ウィルのように、戦士としてよりも敬虔な信徒としての神官としての在りようが前に出ている主人公、というのは珍しいんだけれど、これが実に染み入る良さなんですよね。ウィルの在り方こそが、偏見を抜きにした正しい聖職者としての在り方なんだろうなあ、とちょっとした感動も抱いたり。
とはいえ、彼もまだ若く、箱入り娘みたいな生活をしてきた若輩者である以上、未熟な側面は多々あり、また進むべき道に壁がそびえ立てば、右往左往して間違った道へと進んでしまおうとするもの。そんな彼をしっかりと支え、叱咤し、時には蹴飛ばしてくれる対等の人間とこの旅の中で出会えた、というのは彼に与えられた祝福なのでしょう。
やっぱりメネル、ヒロインだわなあ。
聖職者としては、バグリー神殿長みたいな人と初っ端から出会えたわけですし。外に出て、ウィルが初めて出会った人間たちに絶望や失望する可能性は決して少なくなかったでしょうから、良き運命が彼を導いているのでしょうか、やはり。
いや、それ以上に、未だブラッドとメリーとガスの英雄譚が武勲詩として謳われ、人々に親しまれていることが示しているように、ちゃんとブラッドたちの戦いが人の世を守り人の誇りを守った結果が、外の世界に出たウィルを守ったと言えるのかもしれないなあ。
ブラッドたちの英雄譚が語られるのを聞くとき、ウィルが目をキラキラさせていたのと同じように、読んでるこっちも思わずワクワク胸を高鳴らせてしまった。ああいうのは、嬉しくなっちゃうよねえ。

1巻感想