「よっぽどなんだろ!? なあ!!」

加藤清正の、虎之助の叫びが虚しく響く。決裂した、決裂したと何度も思ったにも関わらず、虎は佐吉のことを見捨てらんないのね。なんて、情深い男なんだろう。治部殿が家康に刺客を放った、と聞かされて皆が三成卑怯なり、と怒りを露わにする中で、虎だけその憤りの内容が違うんですよね。盃を叩き割った時、虎も治部殿のやり方に怒ったのかと思ったら、あいつがそんなやり方するわけがねえ。なにか理由があるはずだ、あるはずなんだ、と一人で治部殿の屋敷まで乗り込んできて、そしてこのセリフである。
もう、なんか泣きそうになった。
治部殿、違うだろう。太閤の遺言を、家康を殺せと命じられたことを伝えるべきは自分以上に秀吉という人に心酔していた清正であって、現実主義者な大谷刑部じゃないんだよ。刑部殿は、誰よりも治部殿の事を思いやり、考えてくれる親友ではあっても、治部殿の苦しみを共有してくれる人じゃないんだ。それを、共有してくれるのは虎しか居なかったのに。それなのに、突き放して……。なんで、そこで胸中をさらけ出せないんだよぉ。と、もうなんか悔しくて悔しくて。

今回の治部殿は本当に見ていられなかった。彼が本当の意味で自分がどれほど人に嫌われ、憎まれ、惹きつけられない人間なのかを、ようやく理解させられた、自覚させられた話であった。細川忠興に怒鳴り散らされた時の、あの表情。それまで治部殿が持ちえていたものが、粉々に砕け散ったような……心がひび割れたような表情に、胸がしめつけられましたよ。
自業自得とはいえ、彼がこれまで行ってきた無私の献身に対して、あまりに報いのない結果だったのではないでしょうか。だからこそ、彼の義に共感し、ついに本気になって立ってくれた上杉景勝の来訪は救いであり……そして、破滅への序曲だったのでしょう。御屋形さまの決心が、本気の覚悟が……図らずも治部殿の運命を決定づけてしまったのである。

この決定的瞬間を目の当たりにしていながら、東軍につくとは小早川秀秋、ある意味大した人物である。

治部殿の報われなさというと、北政所さまがまた完全に阿茶局に懐柔されて家康派になっちゃってたんですねえ。治部殿の本意にまったく気づかず、彼の野心と家康憎しの感情からくるもの、と思ってしまっている。秀吉最晩年の治部殿の行為の数々の印象が、北政所さまの心象を著しく悪くしていたという理由もあるのだろうけれど、同時に家康の政治的腹心の一人として活躍する阿茶局と比べて、北政所さまの政治的センスが著しく欠けていることが露呈してしまっている。このまま、致命的な段階に来るまで北政所さまは徳川サイドに政治利用され続けることに気づかないんだろうなあ。
そして、淀の方の方はそもそも案件を耳に入れてすら貰えない。外で何事が起こっているか教えてすらもらえないまま、大蔵卿局によって政治的に隔離されてしまっている。こちらも、彼女の意思は豊臣の先行きに殆ど寄与しないまま進んでいきそう。

石田治部が家康を襲撃する、という話に次々と家康警護のために徳川屋敷に集まってくる諸大名。あくまでそれを、家康の派閥としてまとめようとしている本多佐渡の思惑に対して、敢えて家康の元を病身をおして訪れた大谷刑部が、きっちりと釘を刺すんですよね。あくまで、自分は豊臣秀頼の家臣として豊臣家の重臣である徳川公を襲撃しようと言う豊臣家を蔑ろにする不貞の輩と対するために、豊臣家臣として参ったのであって、家康殿のためではござらん、と。家康をディスるのではなく、皆が集まったのは豊臣家のためなんだよ、という空気が醸成されて集まった諸将もその通り、と思わず頷いているあたり、刑部殿見事な手管よなあ、と感心するばかり。
一方で、刺客を放った犯人を治部殿に押し付けてちゃっかり潔白を勝ち取る我らが昌幸パパ……さすがであるw
でも、このあたりの猿芝居に面白いことに信幸兄ちゃん、間髪入れずに合いの手入れてサポートしてるんですよね。事前の打ち合わせなかったにも関わらず、するすると部屋の端から昌幸パパの隣に鎮座して、またぞろ口八丁をはじめるパパの発言に動じることなく、即座に合わせてるんですよね。しれっと暗殺未遂を三成に押し付けるパパに対しても、同じくしれっとパパの偽のお怒りに同調してるわけで。
パパが何か言う度に、目を白黒させて面食らってついていけねえ、何考えてるかわからねえ、と頭悩ませていた昔の兄ちゃんからすると、隔世の感である。成長したなあ、信幸兄ちゃん。
でも、一人だと陰でコソコソしていたのに、父ちゃんが現れるとその隣で堂々と諸大名に対して気後れせずに振る舞えるあたり、まだパパのサポート役という立ち位置に居心地の良さと自信があるのかなあ。

この軍議で、パパが発言する時は名乗れ、と言ってたのってなにこれ? と思ってたんだけれど、あれって目が見えなくなってきている刑部殿への気遣いだったのか。なるほど。

興味深かったのが、源次郎のきりちゃんへの評価。第三者的視点でズバッと物事の本質を見て取るきりちゃんに、今の石田治部さまがどう映るかを尋ねるのだけれど、源次郎がここまで他人にアドバイスを求めることがなかったんで、結構新鮮というかちょっとした衝撃だったんですよね。なるほど、きりちゃんこういうポディションで傍らに来ることになるのか。

結局、景勝さまの説得で石田治部はついに刀を収め、事態は収束。しかし、この事件で自分の一声で多くの大名が自分のもとに集まったのを目の当たりにした家康は、ついに「行けるんじゃね、これ?」と天下取りへの意欲を露わにし……そして、ふと気づくのである。あれ? これってもしかして本多佐渡の仕掛けですか? と。自分が襲われると知って、江戸に逃げ帰ろうとした家康を押しとどめ、諸大名に警備のため招集をかけて誰が使えるか見てみましょう、と案を出したのは本多正信。そこに秘められた真意は諸大名の意思や使い勝手などではなく、主君家康の意思を固めさせること。
これぞ腹心の鑑ですなあ。これぞ、やり手の智将ですよ。しかも、主君を自分の思い通りに操る、のではなくて、あくまで主君を立ててやる気にさせる手管なんですよね。だからこそ、家康が本多佐渡の意図に気づいても、思わず笑顔でこいつめ、と喜んでしまう。なんて魅力的で侮りがたい実に色気のある謀将なんだろう。いいですわー、古今の本多佐渡守正信の中でこの近藤正臣さん演じる本多正信が最強なんじゃないだろうか。

今回は特に、自分の至らなさに絶望する石田治部の山本さん、病身に苦しみながら忠臣として覇気を漲らせる大谷刑部の片岡さん、そして自在巧みに状況を動かしていく本多佐渡の近藤さん、と名優の円熟の粋に達した熱演、名演が光る回だったように思います。感じ入ったよ。

次回は、七将による石田治部襲撃事件。あの清正が、いかにして治部を襲撃する意思を固めたのか。ついに関ヶ原の導火線が付き、カウントダウンがはじまったぞ。