そのオーク、前世(もと)ヤクザにて (GA文庫)

【そのオーク、前世(もと)ヤクザにて】 機村械人/兎塚エイジ GA文庫

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「私はお前達オークを嫌悪している。特にお前のようなロクデナシをな」
ここは大都アルバストラ。ヤクザである鬼瀬龍平の意識が覚醒した時、彼は自身が『豚』=レイガスという囚人になっている事に気付く。そんな彼を憎み、だが自ら率いる“天翼の騎士団”に迎え入れたのは、ヴィオラというスカイ・エルフの女。二人は反発しあいながらも惹かれあうように…。一方でレイガスの自我はあの日から止まったままだ。―俺はどこにいた、俺は何だ?―葛藤の中、ヴィオラの身に大都の闇が迫る!それは前世と現世の因果なのか、答えを求め男は立ち上がる。戦え、オーク。運命をぶっ壊せ!
第8回GA文庫大賞“優秀賞”受賞作。
いや、これ見た目オークに全然見えないんですけど。豚呼ばわりされてるけれど、むしろオーガとかじゃないんですかね? 豚の耳もこれだとぺたんと垂れた犬の耳みたいに見えますし、むしろあの耳がアクセントとなって愛嬌を感じさせるんですよねえ。とにかく、豚と罵られるのが違和感ありありなほど精悍さがにじみ出ているその姿形は……か、かっこいい。
彼のヤクザ像がまた、往時の広島に行け、と言うべきか、ロアナプラにいらっしゃい、というような凄惨な環境の中に任侠を貫く古き良きヤクザ像なんですよねえ。男は口で語らず背中で語るのだ、とばかりに寡黙で物静かでありながら、その行動は雄弁で苛烈。そして、弱き者力なきものに対してはひたすらに優しい。
その実直さ、誠実さはオークとなって転生したこの異世界においても変わることなく、オークという身の上、その上収容所に入れられていた軽犯罪者のいう身の上から周囲からはかなり辛く当たられるものの、反発も反抗もせず、むしろ罪を償うように黙々と引き取られた騎士団の中で働き続けるのである。時として、己が身を顧みずに皆を守るようにして。
その実直さと、幼い子供たちへの優しさからすぐに周囲の女騎士たちもレイガスのことを認めて、受け入れてくれるものの、レイガスは決して浮かれることなく献身し続けるのである。その背中はどこか胸を締め付けられるような悲哀を漂わせてるんですよねえ。それが、女心をくすぐってしまうのか。
レイガスが前世のヤクザとして生きていた時の経験は、良き人たちに巡り会えたもののそれらすべてを無残に、理不尽に奪われ、無造作に叩き潰されてしまった悲惨極まる境遇だったんですよね。その末に、自らも復讐に猛り狂った末に無念のうちに命を落とすことになってしまうのですが、そうした経験が、無力感が、彼にひたすら贖罪に準じるような無私の献身をまとわせていたのでしょうか。でも、こういう男って、庇護欲を擽るんですよね。絶体絶命のピンチに助けられたから、自分が傷を負うことも構わず尽くしてくれたから、そういう理由だけじゃなく、ヴィオラがどんどん彼から目を離せなくなっていく展開がまた、真面目な女性がやくざ者におぼれていく過程を見るようで……(笑

しかしあれですよね、超武闘派のヤクザが、組長の娘には頭があがらず、奔放な少女の言動に振り回されながらも「お嬢には敵いませんな」と苦笑いしながら付き従う、というシチュエーションは色んな意味で外せないですねえ。往々にして、このシチュは悲劇になってしまうのですが。
ちーっと前世の話を異世界にも引っ張りすぎた感もあり、レイガスの未練や贖罪というのはあくまで新天地であるこっちで消化して欲しかったという思いもあるのですけれど、ともあれ一定の清算も済んだわけですから続きが出るのなら、元ヤクザがほんとうの意味で「元」という冠をつけて、新たな行き方を得ていく話を見てみたいものです。あと、お嬢は遠慮せずにもうちょっと前に割り込んでもいいと思うのよ?