魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件録 獣の王はかく語りき (Novel 0)

【魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件録 獣の王はかく語りき】 綾里けいし/鵜飼沙樹 Novel0

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「魔獣には人を狂わせる力がある」
“魔獣"――その身体に“人"に酷似した部分を持つ獣が存在する世界。
人々が鑑賞・性愛の目的で雌型の魔獣を嗜好、盲愛して狂気に堕ち、世間には様々な事件が充ち満ちていた。

帝都最高の魔獣調教師『絢爛なる万華鏡』ゴヴァン卿の不可解な死とともに彼の全てを継承した青年――ツカイ。
とある【魔獣愛好倶楽部】でツカイの友人となった上代ウヅキは、帝都最高峰の魔獣調教師【獣の王】として
名声を高めていく彼に纏わる魔獣絡みの事件に遭遇していき……やがてその地位に関する陰惨な真実に触れることとなる。

「運命の敵も、親愛なる友も、私にとっては同じことだ」

人間の業と罪過が妖華絢爛に綴られる、至高の王の残酷なる事件録。
なんという邪悪。いや、邪な悪というにはこの男の悪性は低俗足り得ない。まさしく、王の悪というべき純粋悪なのか。
獣の王と呼ばれる魔獣調教師ツカイ・J・マクラウド。平然と人を殺し、人を陥れ、人を地獄へと突き落としていく彼の所業には、一欠片の正義もなくただただ悪を成しているのだけれど、彼によって魔獣の贄となっていく人たちもまた、醜い獣欲の虜であり人足り得ない奴隷と化したケモノたちでもあるんですよね。その意味では、獣の王が罪深いケモノたちに下す断罪とも思えるのだけれど……いや、罪を裁くなんて高尚さや正当性はそこにはなく、ただただケモノたちの歩むべき当然の末路を演出しているだけ、なのかもしれない。
その当のツカイですら、汚泥のようなケモノたちの有り様を高みから見下ろして嘲笑っているようで、彼の真実が明らかになるに連れて、彼自身がもっともその汚泥の奥底で息絶えているからこそ獣の王として君臨しているのだと、語られることになる。
悪たる獣の王は、だからこそ自らの悪逆の鏡写しであるケモノたちの所業から目を背けず、深淵を覗き込み続けているのだ。その醜さをあざ笑うことで、自らの絶望に耽溺している。魔獣たちの奴隷ではなく王として君臨するツカイだけれど、彼もまたある魔獣の奴隷として運命に縛られているのかもしれない。他者を嗤うことで、自らをも嗤っているのだ、彼は。
だからこそ、彼が求めているのは自分を討ち果たす運命の敵なのだ。これほどに、彼が「運命の敵も、親愛なる友も、私にとっては同じことだ」と真摯に語るその真意には、哀れみすら覚えてしまう。そして、その言葉を真っ向から受け止め、その言葉を心から送れる相手が出来たことに、祝福の念を抱いてしまうのだ。
正直、頭のおかしさという意味ではツカイよりも、好奇心という魔性に魂の髄までオカし尽くされ、おっかなびっくりながら毎度危険の中に自ら飛び込んでいく上代ウヅキの方が、色んな意味でイカレ狂っている気もするのだけれど、そんな彼だからこそ最も自由であり誰の奴隷でもなく、人間足りえる男なのだろう。彼は彼で好奇心の奴隷、になっている気もするのだけれど。
それでも、ウヅキはツカイに友情を感じるがこそ、彼の敵として立つことを決意する。なんとも不思議で得心の行く、敵意と友情に満ちた二人の関係がこの気色の悪い世界観の中で安らぎのようなものを与えてくれる。
グロテスクでえげつない悪に満ちた、しかし異形の中に人らしい感情が芯のように備わった酩酊感を与えてくれる物語でありました。

綾里けいし作品感想