「この生き地獄 たっぷりと味わうがよい」


これまで苦渋を舐めさせられてきた真田昌幸に対する、徳川家康のほの暗い情念を帯びた復讐。それは昌幸に、死ぬまで、この戦のなくなった太平の世で平穏でのんびりとした悠々自適の田舎ライフを堪能するが良いぞ、というまさに生き地獄を味わわせる鬼畜の所業であった……ん?
実際、生活は苦しかったみたいですが、それはついてきた家臣に払う給料とか連れてきた妻子や新たに作った子供とか側室とか、生活費掛かるわなあ。蟄居と言いつつ、けっこう行動の自由もあったようでイメージのような監禁とは程遠く、あちこち観光もしてたとか。あと、パパったら新しく側室作って子供ももうけてるんですよね。かなり良い生活もしていたみたいで、仕送りしていた兄ちゃんたちの苦労がしのばれます。

ともあれ徳川内府さま、昌幸みたいな戦狂いには忸怩たる思いがあったんだろうなあ。これまでのホームドラマ大河だったら、戦がなくなり合戦に行かなくて良くなり、平和に暮らせ、というのは物語の最終目標の一つですらあるんですよね。それを生き地獄と称し、負の情念と暗い喜びともに真田昌幸に与える家康公の存念。そして、まさにそれを生き地獄じゃないか、と感じてしまう真田丸に毒された視聴者たちw


関が原のあとの混乱も収束し、無駄な抵抗を続けていた真田昌幸も、ついに膝を屈して家康に対して降伏を申し入れる。そして、上田城の受け渡しに現れたのは、平野長泰。
平野さん、もっと嫌味ったらしくネチネチと責めてくるかと思ったら、思いの外淡々とかつての母衣衆の同輩がこうして勝者敗者として向かい合うことの無常を源次郎と語り合うという、思わぬ姿を見せてくれるんですねえ。
この辺、さすがは七本槍として名を馳せた武辺者らしい姿でした。平穏な世の官僚としての彼は、怠惰でやる気の欠片もないだらけたおっさんだったんですけれど、やっぱりこの人は戦場の人だったのか。

信幸兄ちゃんは、犬伏での約定通り、命をかけて父と弟の助命嘆願に向かうことに。この決意に感銘を受けた舅の本多忠勝が同道して、一緒に嘆願してくれることに。
何気に、他にも徳川家臣団の中にも真田親子の助命嘆願をしてくれた人たちが居たとか。
渋る家康に対して、この願い叶えてくださらぬのなら、婿殿と上田城に篭って殿と一戦、所望する、と吠える本多平八郎! え?なにそれ聞いてない!?とギョッとする信幸兄ちゃん。
股肱の臣にここまで迫られては家康も仕方ない、とばかりに真田親子の助命を許すことになる……。もっとも、誰彼を助けてやってください、許してくれないなら腹切ってやる! と脅迫まがいに迫ってくる家臣には事欠かなかったようなので、家康さんもいい加減おつかれでしたのでしょう。三河武士、めんどうくさい。

しかし、徳川内府もただでは許さない。信幸に対して、真田家代々の偏諱である「幸」の字を、父との絆を捨てよ、と迫るのである。兄ちゃんもこれには逆らえず、しかし苦渋を噛み締めてどれほど辛いかがひしひしと伝わってくる表情で、頭をさげるのであった。
このあとの、信幸から信之という名に改名しながら、読み方は同じにした、これは俺の意地だ、と言ったときの鼻息の荒さも含めて、徳川に対して膝を屈しても心までは預けていない、という負けん気の強さが滲んでいて、実に真田昌幸の息子らしい姿じゃないですか。

そうして、昌幸と信繁は直接、信幸から処分の沙汰を聞くことになるのですが、紀伊は九度山という場所に蟄居、という結果を聞いて、昌幸パパは兄ちゃんを口汚く罵倒するんですよね。
これが辛い。
すぐに源次郎に窘められて謝るのですが、あれってやっぱり本気でこぼしてしまった想いなんだろうなあ。徳川の監視の元であるが故に、理不尽な怒りをぶつけれる信幸に同情心を集めるため、とも話もありますが、パパの腹芸の範疇じゃないよなあ、あの怒り方は。

家臣や家族は、それぞれ上田に残るか、九度山についていくかを選ぶことになる。多くの人とは、ここが永久の別れとなってしまうのですな。
未だ寝たきりとなっている出浦さんとも、昌幸パパは最後の別れを済ます。おそらくは、もっとも昌幸と戦国人としての価値観を共有していた男。パパにとっての掛け替えのない戦友との別れである。最後まで、大坂城の攻め手を伝えたり、と態度を崩さない出浦さんへ向ける昌幸パパの柔らかい表情。この二人の友情は、この大河のひとつの肝でありました。
出浦昌相は、このあとも長らく信幸の元で家老職として活躍することになります。

そして、九度山に向かう前で、大坂で家康と面会。また、源次郎は片桐さんや北政所さまと再会し、別れの挨拶をすることになります。そこで、関ヶ原で反旗を翻した小早川秀秋と再会。彼に対して、感情らしい感情を見せない源次郎もけっこうアレなんですが、それ以上にあの子も悪い子じゃないんだけどねえ、とうそぶくお寧さまに、ちょっとギョッとさせられたんですよね。
秀吉が死んで以来、豊臣家の正室としての仕事から離れたときから顕著になってましたけれど、それ以前からこの人の感性というのは、天下という広々としたものに基づくものは理解できず、極々小さな身内にまつわるレベルでしか捉えられない人だったのかなあ、と。家族に対しては母として暖かく接してあげられるのかもしれないけれど、その枠を越えたところではまったく役立たずなんですよね。秀次のときもそうだったし、石田治部の家康襲撃未遂に関しても、結局彼を身内を越えた範囲で理解してあげようとすらしていなかった。お茶々に対しては、その在り方が凄く良い風に作用していたのですが……。
その茶々さま、淀君は今は源次郎と顔を合わせず、秀頼に今の源次郎は何の価値もないから、なんだろうけれど……いずれまた、顔を合わせることになるでしょう。と確信を以って語る茶々さまの、無邪気とも妖艶とも付かない微笑。やはり、源次郎の人生とはこの人に囚われてしまっているのかもしれない。

しかし、小早川秀秋に関してはあれだけ秀次の頃から意味深に描いてきたにも関わらず、結局消化不良のまま終わってしまった感があるなあ。今までのテンプレな小早川秀秋のまま片付いてしまって、結局彼の闇を掘り下げることができないままだった。彼に関してだけは、ちとがっかり。あの秀次の破滅を暗い目で一部始終見つめていた姿が忘れられないだけに。

そして、再会した春から伝え聞く大谷刑部の最後。

「楽しかったぞ、治部!」

その最期の言葉に、刑部様があの関ヶ原までの燃え上がるような日々をどう捉えていたのか、伝わってくるようじゃないですか。どういうつもりで、石田治部の決起に応えたのか。
あの最期の日々、輝いていました。
でも、源次郎、伝え聞いた義父刑部殿の姿に、真の武士、あの人のように生きたい、と呟いてるんですね。また一つ、源次郎信繁を縛る呪いが……。

そうしてもう一人、加藤清正に連れられ源次郎に会いに来たのは、石田治部の妻であるうたさま。
夫の命で城から逃れ、そして治部が処刑される一部始終を目に焼き付け、その最期を親しくしていた人たちに語りまわっているという彼女。
その彼女の狂ったような叫びが、
「あの方は、豊臣家のことしか考えていませんでした!!」
痛烈に胸を貫くんですよね。清正に腕を惹かれ、促されながらも部屋を出て、廊下に引きずられながらも彼女は「あの方は、豊臣家のことしか考えていませんでした!!」と連呼し続ける。
これ、治部の豊臣家への忠誠を訴えているようで、なんか全然違うんですよ。あの人は、豊臣家のことしか考えていなくて、自分たち家族のことなど一度たりとも省みてくれなかった、という凄まじい恨み節に聞こえてしまった。
治部様、思い残すことなく潔く散っていかれてしまいましたが、残した人々に多くの傷を刻んでいってしまったなあ。
ちなみに治部殿の子供たちは、嫡男は僧籍に入り天寿を全う、次男も津軽家の家臣となり重臣として存続していくこととなります。


「もう上田に戻っていいぞ」

これだけ重苦しい雰囲気の回にも関わらず、変わらぬきりちゃんの扱い!(笑
心が弱っている母薫さまのお世話を献身的にしていたきりちゃん、それもあって薫ママのためにも九度山に一緒に来て欲しい、と源次郎様、ついにきりちゃんにデレた!? と目を剥いた途端に、昌幸パパが薫は上田に返そう、という言葉に際して、上記した源次郎のセリフである。
きりちゃん、発狂(笑

でも、ちゃっかり九度山に向かう一行にきりちゃん、加わってるんですよね。さすがきりちゃん、しぶとい、しぶとい。


ここで、次回一気に時間飛ぶんですね。次回予告でのパパや源次郎の老けっぷりがまた凄い。
ああ、ついにこの真田丸の主役とも言ってよかった昌幸パパが退場するのか……。まだ来年まで二ヶ月くらいあるってのに、もうパパいなくなるのか。そう思うと、辛くて悲しい……。