バビロン 2 ―死― (講談社タイガ)

【バビロン 2.―死―】 野崎まど/ざいん 講談社タイガ

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64人の同時飛び降り自殺――が、超都市圏構想“新域”の長・齋開化(いつき・かいか)による、自死の権利を認める「自殺法」宣言直後に発生!
暴走する齋の行方を追い、東京地検特捜部検事・正崎善(せいざき・ぜん)を筆頭に、法務省・検察庁・警視庁をまたいだ、機密捜査班が組織される。
人々に拡散し始める死への誘惑。鍵を握る“最悪の女”曲世愛(まがせ・あい)がもたらす、さらなる絶望。自殺は罪か、それとも赦しなのか――。


…………。

いやまて、三点リーダーはマズい。点線にしか見えない。点線怖い、点線怖い。
何から言葉にすればいいのかわからず、思わず……からはじめてしまったのだけれど、おかげであれの光景がぶり返してきてしまって、ようやく落ち着いてきた精神がまたぐちゃぐちゃに轢き潰される。
まだちょっと、動揺が収まっていない。第一巻のクライマックスにも度肝を抜かれたけれど、この二巻のラストには完全に心をすり潰された、と言って過言ではない。どうすんだよ、これ。正崎さん、再起不能だろこれ。

第一巻のラスト。あの、新域都庁からの64人の生中継同時飛び降り自殺事件。あまりといえばあまりにファナティックな光景。あの瞬間から、凄まじく読み応えの有る検察を主役としたサスペンス小説が野崎まどのあの独特の世界に飲まれてしまった、と感じたのだけれど、この二巻は再び検察、いや法治という観点からの自殺法という新たな提言と法解釈の問題に絡めながら、果たして齋開化は罪に問えるのかという問いかけに主軸を置きつつ、正崎をボスとした法務省・検察庁・警視庁を跨いだ機密捜査班が編成されて、一人ひとりが名うての叩き上げ捜査官であり、また組織の枠に捕われない「独立」した狼たち、という極めつけの精鋭たちによる捜査と追求が行われ……、というまた再び検察サスペンスとしてのドライブ感ある物語へとスライドしていったんですよね。
自殺法というセンセーショナルな提言。急増する自殺者数。自殺教唆の証拠どころか痕跡の欠片すら見つからない64人の自殺者たち。そもそも、自殺を取り締まるということが法的に可能なのか。
これまでの法律では解釈が叶わない、「死」という現象に対する新たな向き合い方の可能性に、法の違反を摘発する立場にある法律関係者たちは、顔を寄せ合って討論を繰り返し、自分たちの倫理観に根ざした正義に基づいて、捜査に血道をあげるのですが……。
当然のように、世論もこの自殺法については否定的を通り越して、拒絶的であり支持率もほんの微数。そんな絶対不利の状況でありながら、行方をくらましていた齋開化は新域の議員選挙の開催を宣言。事態は混迷を深めていくのであります。

正義とは何なのか。
自殺という自らの死を決する行為に対する是非。
これらに関する価値観というものは、普遍のものであり、それは揺るぎのないモノとしてこの物語のさなかでも語り続けられます。正義とは何か、それは正義を問い続けること。たとえ正義とは何かを悟った気がしてもなお、その正義を問い続けること。正崎検事は新たに補佐官となった瀬黒に自身の正義をそう語ります。それは人間にとってもっとも素朴な正義の在り方。
そして、公開討論会の中で自殺法反対派の議員たちが語った自殺という行為を法で制度化することに対する否定的な意見。これもまた、主観的客観的社会的経済的、あらゆる観点から説得力の有る正論が語られ、これらの価値観の揺るぎなさは証明されたかのようでした。

そう、揺れない大地が揺れるからこそ、地震が災害たるように。
齋開化の口から語られていく言葉は、揺るがないはずの価値観を、まるで地面が縄の切れかけた吊橋に変わってしまったかのように、激震させ、覆していくのである。
そうして、足元が覚束なくなりフワフワと心が定まらなくなったその時を狙いすましたかのように、とある作戦を結構しようとしていた正崎たち捜査班を、人としての善を貫こうとした彼らを悪夢が包み込むのである。
現代サスペンスで、こんな、こんな展開がありえるのか……?
この、この、この絶対悪を。正義だの善だのといった拠り所を、あっさりと塗りつぶして犯してすりつぶしていく本物の悪を、なんと言えばいいのか。
そう最悪だ、最悪だ、これを最悪と言わずしてなんというのか。
最も、最たる、悪なのだ。

凄惨なまでの絶望に、心がぐちゃぐちゃに轢き潰された。なんだこれは、なんなんだこれは。茫然自失して吐き気に目の前がグルグルとまわっている。
ヤバイ、これはもう、本当にヤバイ。これは文字で出来た劇薬だ。危険すぎる。危ないすぎる。そうして、往々にしてこの手の劇物は、尋常ならざる面白さなのだ。
畜生、こんなに胸糞悪いのに、めちゃくちゃ面白すぎてどうするんだよ、これ!?
次の巻、三巻はこれどうなるんだ? どうするんだ? もう、正崎さんが耐えられないんじゃないのか!?

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