ああ、穏やかな日々だ。
慎ましく、決して裕福ではない生活の糧を得るのも苦しい日々。でも、身内だけで囲炉裏を囲み笑い合うそこには、確かな幸せがあった。無為な日々ではない、辛い日々ではない。
そこにあったのは、真田源次郎の家族の肖像だった。

これを、捨てるのか。これを捨て去って、大阪に……戦いの道に戻るのか。
このまま九度山に骨を埋める選択もあっただろう。兄の努力が叶って、いつか上田に帰れる運命もあったかもしれない。しかし、左衛門佐はそうした道をすべて捨て去って、表舞台に戻るのか。
隔意が介在したお春ときりの仲も、色々あった結果、春がきりに懐いてむしろ夫よりも仲良くなってしまったり、父親としてすえと上手く行かなかったせいか、嫡男大助にも上手く接することが出来なくて距離を置いていた源次郎が、ついに不器用に不器用に息子と距離を詰めて、ようやく普通の親子として打ち解けることが出来たり、と……。
そう、ずっと歪なまま上手く家族になれていなかった真田源次郎の家族が、ようやく本当の自然な家族になることが出来た瞬間だったからこそ、それを捨て去ることになる大坂からの使者の到来が胸を軋ませる。
待ち望んでいた真田丸のクライマックスである大坂の陣が、これほど来て欲しくないと思うことになるなんて、なあ。


今回はOPを見ていると、出演のキャストの数が異様に少なくて、しかも真田家の面々だけで例外は明石全登のみ、という様子に「んん?」と面食らっていたのですが、今回に関しては本当に真田源次郎の九度山の日々にほぼ限定された内容でした。
例外は、薫ママの話でしたね。
昌幸の逝去から程なくして、山手殿も亡くなっているのですが、真田丸でもついにあのお母様も退場することに。
でも、嫁たちと孫たちに囲まれ、自慢の扇をすえに自慢し、相変わらず公家の出という身の上を楽しそうに口上しながら、若かりし日の昌幸パパとの出会いに思いを馳せる。それはそれは、幸せそうな様子で。
あの、関ヶ原直後の心が弱りきった姿が心配だっただけに、こうして幸せな余生を過ごせたことに安心させていただきました。矢沢の大叔父、おばば様に負けず劣らずの爽やかな退場劇でありました。有働アナも、これくらい穏やかに送っていただけるなら、有働無双とか言われないのにw

父が亡くなったと聞いて九度山まで来てくれた信之兄上。身なりもきっちりした姿は、うらぶれた源次郎とは裏腹なのですが、気の置けない仲の良い兄弟っぷりは相変わらずで、それにちゃんと父上の席はあけて一緒に横に並んで卓を囲んでるんですよね。それをちょっと脇から侍っている矢沢三十郎。随分と年をとってしまいましたけれど、この三人の構図はずっとずっと変わってなくて……でも、これが本当に最後なんだよなあ。
昌幸パパの残した兵法書が、完全に図形暗号だったのには爆笑してしまいましたが。あれは見てもわからんわ!!
「全部こんな感じか!?」「全部こんな感じです」
予告のこのやり取りって、これのことだったのかw
いやでも、兵棋の解説図としてみたら、見る人が見ればちゃんと解釈できるんじゃないだろうか。真田兄弟はさっぱりみたいだけれど。

一度は九度山の生活に不満はない、と兄に告げた源次郎でしたけれど、兄と三十郎と三人だけで酒を酌み交わす席で、実は借金が積み重なっていて、と援助を頼むのですが、やっぱり家族の前でこういうことは言えんよなあ。同時に、兄にはちゃんと恥を打ち明けられるほど今も胸襟を開いている、ということでもあり、ちと嬉しくなったり。
実際、昌幸の生前は大名の頃の生活水準を下げずにけっこうな暮らしをしていたらしく、昌幸の死後に一気に困窮したらしいですしね。

守役の高梨内記がわりとダメな守役な件について……。
いやこれ、源次郎が子育て自信ないから、と内記に丸投げしたもんだから、源次郎も相当に悪いんですけれど。一応、仕える主をなくして生気を喪ってしまっている内記に生き甲斐を与えるため、という理由もあったんでしょうけれど、内記の教育が大助の成長に殆ど寄与してないっぽいのがなんともまた。
ただ、源次郎が意を決して大助に接し始めると、しぼんでいた花が開くようにこれまで内向的でくすんでいた大助が生き生きと快活な姿を見せたのを見ると、単に内記に鬱屈を貯めていたんじゃなく、父親にかまってもらえないことに色々と抱えていたんだろうなあ。

前回では、きりちゃんのことを相手になりませんから、と嘯いていたお春でしたが、年月が経つにつれてまるで熟年夫婦のように息ピッタリなきりと源次郎の姿に、どんどん嫉妬をつのらせ積み重ねているようで、障子の直しがおっつかない!!
さすがのきりちゃんも、鬱屈を貯めている春には気づいていたようで、そろそろ本気でお暇願うかなあ、なんて口にすると、今更のようにそれは寂しいんだが、なんて言っちゃう源次郎さん。ようやくきりちゃんにデレた、というよりもなんか病んでて気を使う正妻よりも、どんなに皮肉言っても適当にあしらっても堪えず飄々と応じて、しかもわりと色々と役に立ってくれているきりちゃんの方が一緒に居て楽だから、っぽいのがなんともはやw
源次郎様が居て欲しいと思ってるから、居てあげてるんです。
みたいなことを昔から言ってましたけれど、昔は何言ってんだこいつ、みたいなことしか思わなかったのに、今同じような発言を聞くと全然重みが違うんですよねえ。きりちゃん、健気だ、なんてことすら思ってしまうわけで。
彼女のサバサバしててぶっちゃけた裏表のない態度というのは、源次郎だけじゃなくて、何だかんだと春にとってもちゃんと仮面繕って接するのではなく、同じようにぶっちゃけて、そう自分がかなりヤバイ感じの女だと自覚した上で、それを曝け出してもさらっと受け止めてくれるきりちゃん、ってのは実は得難い相手なんですよね。
それに気づいた途端、手のひらを返して、いつまでも一緒に居てください! と、途端に懐いた春は何気に大したもんなんじゃないか、と。
ああでも、これで大阪の陣のあと、春ときりちゃん、ずっと一緒に居ることになりそう。

そして、ついにおたかの再登場。かつて、秀次事件の際に名目上とはいえ側室として引取り、呂宋に逃したおたかが戻ってきたのですが……誰だよこれ!!
呂宋に行く前と後では、キャラが全然違うんですが。誰だよ、本当に。
まあ彼女の持ってきたおみやげが、名産となる真田紐の着想を得るヒントになるのですが、それよりもおたかのインパクトがすごすぎて。でも、真田丸では側室というのは本当に名目上にしてしまって、これでまた呂宋に戻ってしまうのか。まあ、このキャラで今後も一緒に居られるとそれはそれで困ることになってしまうのですが。キャラが違いすぎるw


それにしても、若い頃は才気迸る、といった感じでキラキラと輝いていた源次郎。大坂編で豊臣のしがらみに囚われてどんどんとくすんでいって、ついには九度山で家族ともうまくコミュニケーション取れないダメ親父化してしまった彼と比べて、登場当初は作品のヘイトを一身に集める無神経っぷりを発揮しまくっていたきりが、大坂でどんどんと経験を積み、技能や人付き合いの仕方も習得し、ついには「菩薩の心ですよ」と一種の悟りみたいなものまで開くにいたった成長の対比は、なんとなく面白いなあ。