魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉15 (MF文庫J)

【魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 15】 川口士/片桐雛太 MF文庫J

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空前絶後の大軍で侵攻してきたムオジネル軍は、総力を結集したブリューヌと戦姫たちの助力、そしてティグルの乾坤一擲の活躍でついに退けられた。人々が祝杯を挙げ、王都の復興が進む中、これまで以上に声望を高めたティグルは思いがけぬ人物からの告白を受ける。今後やらなければならないことと、ブリューヌの人々が望む英雄としての未来との間で思い悩むティグル。時同じころ、風雲急を告げるジスタートでは、ヴァレンティナの野望がついに形となって動き出す。ティグルたちの動向を伺う魔物たちも、悲願達成のために牙を剥く。息つく暇もなく、さらなる大きな時のうねりの中で英雄の戦いは続く―大ヒット最強美少女ファンタジー戦記の最高峰、第15弾!
……やっぱりヴァレンティナってけっこうポンコツじゃね? 彼女の仕掛けてる謀略って、いつも上手くいった試しがないような。いや一応目論見は達しているのかもしれないけれど、仕掛けたあとに起こる想定外が多すぎる上に大きすぎるんですよね。全然思った通りに行ってない。その後のリカバリーをなんとか繕えているのだから、あかんわけではないのですけれど。でも、今回の一連の謀略は彼女にとってもルビコン川を渡ったようなもので、もうあとには引けない分水嶺となるものだったはずなのに、ものの見事にやらかしてますしねえ。お陰で、ジスタートは大混乱。後々の事を考えると、この混乱こそがティグルたちの付け入る隙、となってしまうだろうことは容易に想像できますし。
大体さ、王の後継者と任命されたユージェン伯にイルダー公が隔意を持つように毒殺未遂事件を起こしたのは、ヴァレンティナが操るルスラン王子がユージェンから次期王の地位を奪うのに利用するためだったんだろう、と今になっては想像できるんだけれど……、いきなりヴィクトール王が精神疾患から復活したルスラン王子を即座に後継者に復帰させちゃったもんだから、ユージェンよりもイルダーの方が怒っちゃってユージェンと元サヤに戻って仲良くなっちゃうわ、ルスランに対して隔意を抱くわで逆に政敵に追いやってしまい、挙句安易に謀殺してしまったことで、イルダー公の関係者が軒並み敵対陣営に回っちゃうわ、とえらいことになっちゃってるんですよね。ぶっちゃけ、この段階で早々に他の戦姫と刃を交える、危険分子となりそうなソフィーとリーザを始末に掛かる予定なんかこれっぽっちもなかったでしょうし。
ヴァレンティナさん、屋根に登ったはいいけれど即座にはしご外されちゃってないですか、これ? しかも、他人の思惑関係なしに、ほぼ自爆的な展開で。大丈夫か、黒幕さん。
踊らされているというと、ガヌロンもまた怪しいんですよね。一応、彼は思惑通りに自分では動いているつもりみたいですけれど、彼と敵対することになった魔物たちの意図が全然わからない。ティグルが女神から教えてもらった断片的な情報と照らし合わせても、彼らの目論見というのはどうも単純なものではないようなんですよね。大体、滅ぼされてしまったら普通はそこで終わりだろうに。

思惑が不明、という点で最も何を考えているのかわからなかった、作品中最大のプレイヤーではないかと目していたジスタート王ヴィクトール。この人こそ裏ですべての事象の糸を引いているんじゃないか、と思ってしまうくらいに言動の意図が見通せなかった人なんだけれど……あれ? あれあれ? これってつまり、彼の言動に裏なんてなく、普通に全部表だったの?
極々最初のエレンによる凡庸な王、という評価に対してヴィクトール王の判断や行動は王としての貫禄と重厚さがあり、だからこそエレンが凡庸に見てしまうような在り方のさらにその奥があるんじゃないか、裏で何か企んでるんじゃないか、と思ってたんですけれど……。ユージェン伯を次期王に任命したのも、イルダー公をわざと後継者から外したのも、大きな世界規模の陰謀が裏にあるんじゃないかと、怪しんでいたんですけれど。
あれ? 本当に普通に王様してただけじゃね? しかも、見聞きしてきた通りの国王として欲目をかかず、国の発展のために尽くすのに十分以上な働きをしている名君以外のなにものでもなく……。ユージェンとイルダーの扱いについても、贔屓目なしに能力を評価してのものであったわけで。ちゃんと、ティグルのブリューヌ国との友好関係も重視してる政策や人事を取り……って、冷静沈着だし品行方正だし王権を意識しつつ変に貴族や戦姫から権益を奪ったり恣意的な利益誘導をしたりもせず、調整役としても天秤を司るに相応しいバランス感覚の持ち主だし、優柔不断の卦は無いし、ユージェンへの権限移譲の過程を見ていても変な妄執抱えてないし……、周辺国家の王族支配者見渡しても、ジスタート王文句なしに名君なんですけど。
エレンってさ……わりと人物評価間違ってる場合多いよね。わりと人を見る目ないよね。
フィグネリアとも、えらい勢いで反発してしまいましたし。あれはリムも同じように反応している上にフィグネリアの方も自分でコントロールできないものを抱え込んでしまっているようなので、清算のためにもこの経緯は仕方ないことなのか。
ともあれ、ジスタート王が最後に盛大にやらかしてしまったせいで、ヴァレンティナも含めてジスタート国は尋常ならざる混迷へと突入していく。ソフィーがまた重要なことを想定し始めているようだけれど、それもこれもヴァレンティナの魔の手を逃れてからか。

ブリューヌ国の方は、どうにもこうにもティグルが国王に、という流れができつつ有るようで。ごく一部、ではなくわりと国内の多数派意見になりつつある、というのが結構意外なことで。いや、ジスタートのユージェン伯の王太子就任もそうなんだけれど、意外とこの作品の王家って嫡流にそこまでこだわってるわけではないんだ、と今更ながら実感している。作品初期の二大大公の王権を蔑ろにしているような専横も、そりゃ王位がそれだけガチガチに血統で固まってないのだとしたらそれほど不可解ではないですもんね。それにしても、ここまで支持者が多いとは。ティグルの方も無理やり押されて、というわけじゃなく、真剣に王位に関して考え出しているようですし。レギン女王も、なかなか告白の仕方がしたたかなんですよね。まず一人の女として、それからブリューヌの王として。何気にこの食らいついて離さないという強さは、作中の女性の中でも屈指なのではないかと。
その点、ミラはもう可愛いんだけれど、思いきれなくて悶々としている様子がもうなんというかなんというか。ミラが告白してから、なんて順番をつけてしまったソフィー、さすがに焦れてきてるんじゃないですか。
それに比べて、しばらく離れているうちにティグルの女性関係がえらい進展してしまったリーザなんか、再会してエレンとの関係を察した途端、えらいぐさっと来る牽制を放っているあたり、ミラよりも有望なんじゃないだろうか。まあリーザはリーザでいつまでもエレンとの仲をはっきりさせられてないあたり、思い切りに関してはなんともはや、なのですけれど。これに関してはオルガの方が一気に切り込んでしまうのかも。

いずれにしても、あと二巻でシリーズ完結という情報が出てしまったので、あとはどう転がすか、ですねえ。
とりあえず、リムは早いところ娶ってあげてください。


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