ヴァルハラの晩ご飯 ~イノシシとドラゴンの串料理~ (電撃文庫)

【ヴァルハラの晩ご飯 イノシシとドラゴンの串料理】 三鏡一敏/ファルまろ 電撃文庫

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神界の台所“ヴァルハラキッチン”の夕飯時はいつも大忙し!ボク、喋れるイノシシのセイは主神オーディンさまの指名を受けて、そのお手伝いに来たんだ。―『料理される側』としてね!いや、確かにボクは「一日一回生き返る」っていう不思議な力を持ってるけど、でもだからって「毎日死んでご飯になれ」ってひどすぎない!?…まあそのおかげで、美しくて可愛い戦乙女・ブリュンヒルデさまのお傍にいられたりするから、すべてが辛いわけじゃないんだけど…。って、あれ、神界ナンバー2のロキさまがなぜここに?え、神界のピンチだから一緒に来い!?いやぁ、ボクただのイノシシですからってうわあああぁー。第22回電撃小説大賞“金賞”受賞作!神々の台所を舞台に贈る“やわらか神話”ファンタジー!
あれ? てっきり天界を舞台にした「料理」を作るのを主題にした料理モノかと思ってたんだけれど……、料理を作るんじゃなくて、料理されちゃう話なのかー。食べられちゃう話なのかー。それも性的に食べられちゃうのではなくて、食材的にガッツリ食べられちゃう話なのかー。
なんとーー!?
うははは、これは予想外だった。主人公は一日一回死んでも生き返る「イノシシ」の少年。その特性を活かして、神界にラグナロクに備えて招かれた地上の勇者たち、エインヘリヤルたちの宴の食材となるべく、毎日サクッとぶっ殺されて調理されちゃう仕事をしている、何気にウルトラ超ブラックな業務内容に勤しむイノシシなのである。
いや、これ普通精神病むでしょ。料理長がいい人で、なるべく苦しまないように殺すすべをちゃんと工夫し続けてくれているのだけれど、煮殺されるとか焼き殺されるとか、ハードワークどころじゃないし。
それを、わりとのほほんとこなしているこのセイくん、タフガイなのかそれとも極めつけの能天気なのか。ブリュンヒルデの色香に惑わされて自分で志願して仕事についてしまった子なので、まあ自己責任の範疇なのだけれど。それでも、その苦しさを他人への負の感情に押し付けないでのほほんとしているあたり、大したイノシシである。むしろ、ブリュンヒルデで釣るという策を巡らしたロキ神が結構気にして気に病んでいるあたり、このロキさまトリックスターという役回りの神様のわりに根っこ真面目なんですよねー。
もちろん、ロキ神らしく遊び心満載なのだけれど、セイの身の上のことを一番真剣に考えてたり、福利厚生に気を使ってくれたり、今回の世界樹の一件でも率先して解決のために尽力しているわけで……えらい働き者のロキ神である。頭脳明晰で真面目で全力を尽くす気配り上手なロキ神って最強じゃね? しかも、オーラスで味方である。これほど頼もしい味方はいないですよー。
さて、食べられるのがお仕事のセイくんなのですが、ロキ神に気に入られたせいもあってか、ひょいひょいとロキのお遊びに付き合わされ、連れ回されることに。その出先で、個性的なヴァルキュリアたちのお仕事を手伝ったりと、別に戦闘力が高いとかは全然ないくせに小器用で立ち回りが上手いので、役に立つ小動物なのである、この主人公。お陰で、ヴァルキュリアたちには弄り回され可愛がられ、おのれイノシシのくせに。いや、イノシシという動物の身なりを利用して、ナチュラルにセクハラしまくるこの小僧、かなりのやり手である。天然ではなく、意図的に小動物なのを利用してセクハラしまくるあたり、かなりの強者である。ヴァルキュリアたちが、小動物相手にガードが緩すぎる上にチョロすぎるのもあるんだけれど。おまけにこのイノシシ、ドSで調教が趣味、みたいなところもあるだけに……あれ? この主人公わりとゲス系?
いやいやいや、良い子ですよー。自己犠牲精神たっぷりの前向きで快活で困ってる子を助けずにはいられない良い子ですよー。かなり助平なだけで。よこしまくんなだけで。下心で駆動しているだけで。
まあまあ、愛嬌と可愛げたっぷりの子なんで、許してあげてください。ヴァルキュリアたちも満更じゃないようですし。
軽妙なリズムが心地よい、読むと楽しくなる良いお話でした。