三宮ワケあり不動産調査簿 賃貸マンション、怪談つき (富士見L文庫)

【三宮ワケあり不動産調査簿 賃貸マンション、怪談つき】 秋田みやび/高田桂 富士見L文庫

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神戸三宮駅から徒歩10分。「高比良不動産鑑定事務所」の看板には、白いシールに手書きで「特殊」の文字が貼り付けられている―。大学進学をきっかけに、高比良茅夏はその職場で働くことにするのだが…所長で兄の陸は鑑定士と神主の二足草鞋。仕事で訪ねる先は霊障が噂されるマンションから、因縁つき一族の暮らす家まで。ホーンテッド物件にまつわる謎を、査定額に見合うよう解き明かす、事実上その手の“霊的物件”専門の鑑定事務所だったのだ!受付担当の茅夏が、奇妙な依頼に巻き込まれるのも必然で…。
この作者の人、【ソード・ワールド】のTRPGリプレイや【へっぽこ冒険者】シリーズのノベライズ手がけてた人なんですよね。特にへっぽこシリーズは単に面白いだけではなく小説としてガッチリとした構成を感じさせる歯ごたえがあってファンだったんですよね。
その秋田さんが富士見L文庫で新作を出すことを知り、よくよく調べてみたら既に以前に一冊出してるじゃないですか。で、慌てて購入したのがこれ。兄が経営する不動産鑑定を請け負う事務所でバイトする女子大生が主人公のお仕事もの。
メディアワークス文庫と富士見L文庫のお仕事モノの作品は、普段どんな業務やってるのかさっぱり知らないような業種の話をかなり濃い目に描いてくれるので非常に面白いんですよね。本作も、不動産鑑定という文字通りの不動産の評価・査定を行う業務に纏わるエピソードを扱っているのですが、これも普通に暮らしていたらそうそう関わることのない仕事なだけに、いちいち興味深い。一方で舞台となる事務所に持ち込まれる案件は、いわゆる「オカルト」が絡んでいる不動産が多かったりするのである。所長の兄は神主の資格を持ったガチの霊能者。いや、本来なら実家の神社を継ぐはずが何故か不動産鑑定事務所なんか始めちゃってるのだが。で、歳が一回り以上も離れている妹の茅夏も兄ほどではないけれど霊感が有るタイプ。その彼女ともう一人、事務所に出入りしている大学生の生意気小僧志水颯。どういった経緯で事務所に入り浸るようになったのかについてはまだ明かされてないのだけれど、霊的物件専門の鑑定事務所に出入りしているくせに、この颯は根っからの科学信奉者でオカルトのたぐいは一切信じていなかったのである。
この二人がコンビを組んで、というか仕事を押し付けられて出先の物件に調査に行くことになるわけだが……。
探偵役は颯の方。皮肉屋で斜に構えた小憎たらしい小僧なんだけれど、頭の回転の速さと知識量については本当に抜群で、ああこいつガチで頭いい奴だ、というのが否応なく納得させられる才気煥発な小僧なんですよね。
最初の以来の幽霊マンション。ここで起こっている霊障の原因も、彼が目ざとくわかりやすい物理的現象の結果起こっているもの、として突き止めていくのである。この科学的検証も見せ方が上手くて次々と原因を明らかにしていく過程がわかりやすく痛快で面白いんですよねえ。それだけでも十分話のネタとして通用しそうなんだけれど、ここから事態が二転三転していくのである。
そう、ガチの霊障が起こり始めるのだ。
颯にとっては初めて体験する、自分の知識では解決どころか説明もできない本物の心霊現象である。面白いのがここで彼が示す反応が拒否や否定ではなく、未知の現象に対する好奇心と探究心なんですね。実際に体験してしまった以上、心霊現象や呪術魔術のたぐいは実在するのだ、と受け入れた彼はここから更にバージョンアップしていくのだけれど、ともかく霊障と呼ばれる出来事へのアプローチが科学とオカルト、両方から非常にバランス取れているのだ。霊感のあるヒロインの雪菜や兄の友人である胡散臭い陰陽師の御前尊もガチの霊能者であるからこそ、霊障がガチかそうじゃないかについては判断は慎重だし、自分の感覚を盲信もしないので、起こっている問題に対して過剰な反応を示すことなく、スタンスが実にフラットなのである。
二軒目の次々にそこに住んでいる家人が異常な死に方をしていく呪われた家の話の方は、完全にもうオカルトサイドの領域なんだけれど、呪詛だの何だのが原因だったとしてもちゃんと通る筋があるはずで、理不尽に何の理由もなく何のルールもなく無茶苦茶に結果が発生しているはずはないんですよね。何故何が原因で理由で、ルールでこのような異常死が起こるのか、科学で説明できない現象だとしてもちゃんと発生から結果までの筋立った論理は存在する。その謎を解き明かしていくミステリーが緊迫感と相まってこれがまた面白い。
颯と雪菜の学生コンビに存在自体が胡散臭い陰陽師と神主の兄。キャラクターも個性的でパワフルなんですよね。十歳以上歳が離れている兄と妹の微妙な関係とか、主人公の雪菜が何気にイイ性格しているというかタフな性格していて、才気が迸りすぎててちょっと火花散ってるんじゃないかという微妙に危険人物というかフリーダムな颯に対しても、当初はともかく慣れてくると物怖じせずに結構どんと構えて接してるところとか好きでねえ、いやこの女性主人公が自分、お気に入りなのか。今のところ一冊しか出てないシリーズなのだけれど、もっとこのメンバーで色々と話読んでみたいですねえ。

秋田みやび作品感想