自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う (角川スニーカー文庫)

【自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う】 昼熊/加藤いつわ 角川スニーカー文庫

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Kindle B☆W

交通事故に巻き込まれた「俺」は、目が覚めると見知らぬ湖の前に立っていた。
体は動かず、声も出せず、訳もわからぬ状況に混乱し叫び出すと予想だにしない言葉が――!?
「あたりがでたら もういっぽん」
ど、どうやら俺は自動販売機になってしまったらしい……!
選択出来る行動は自動販売機の機能"のみ"。自力で動くこともできず、会話もまともにできない
状況で異世界のダンジョンを生き抜く事は出来るのか!?

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ダンジョンの奥深くで出会った少女と自販機を描く、新感覚迷宮ファンタジー開幕! !!
まさかの自動販売機転生。自販機かー。普段使わないので種類とか全然知らないんだけれど、なるほどジュースなんかだけじゃなくて銭湯に行けばタオルや石鹸の自販機もあるだろうし、パーキングエリアなんかでも種類あるだろうしなあ。そう言えば生きたカニが買える自販機の話も聞いたことが……って、これ調べたら日本じゃなくて中国なのね。
ともあれ、わりとなんでも買える種類がある自販機。供給はどうするんだ、って話は購入されてポイント貯まればそれを消費して自動チャージ出来るってんなら、なんの問題もありませんわなあ。
まあなんでもござれの転生昨今、器物である自販機に転生するのもありっちゃありなんだろうけれど、この作品の興味深いところとして主人公である自販機が基本的に「喋れない」という点がある。定型文として、ありがとうございましたやいらっしゃいませ、のような文章を幾つか発声出来るんだけれど、会話は出来ないんですよね。おまけに、自販機なので身振り手振りや仕草による感情表現も出来ない。意思の疎通が難しい状態にあるわけだ。
これは後々、幾つかの定型文をはい・いいえとして定義することで、ある程度の意思疎通は叶うようになるのだけれど、自販機のハッコンが内心何を考え、どのように思いを巡らし、自分たちの言動に対してどんな反応を示しているか、というのを周辺の人は大雑把にしかわからないし、細かいところなんかまず伝わらないわけだ。
それでも、そんな手探りで、はいかいいえかも本当はわからない定型文での返事だけのやり取りででも、コミュニケーションは取れるし、気持ちは伝わるんですねえ。
お人好しすぎて失敗を繰り返し、孤独に墜ちてしまっていたラッミスという少女と無機物である自販機との交流。人間の側からするとハッコンというのは生物ですら無い魔法道具なわけですけれど、その魔法道具でしかないはずのハッコンに人間味を見出し、心を通じ合わせ、ラッミスはこの動けない自販機を拠り所としていくのです。拠り所というと依存みたいに聞こえるかもしれないけれど、むしろ心の支えというべきか。いつしか、ハッコンを利用する常連たちはみんなある程度ハッコンと意思疎通が出来るようになってくるのですが、それでもラッミスだけは別格で、あれだけのやり取りから彼女はハッコンの気持ちを見事に汲み取ってくれるわけですよ。そして、健気なほどに懐いてくれる。これはもう、奮起して応援しちゃいますよ。自動販売機にも人情はあり、侠気もあるのです。でもさすがに、自販機にあれだけ傾倒を通り越して執着してしまってるのはちょっと心配してしまうレベルなんですけれど。内面は雄弁なハッコン視点の話だからそれほど違和感ないですけれど、人間サイドからみた話になるとだいぶ様相が変わってくる気もするんですよね。むしろ、ハッコンが何考えているか見えない人間側からの話も見てみたいところでもあるんですけどね。
あと、生前自販機マスターを自称しているくらいですから、自販機のエロ本はもちろんコンプリートしているに決まってるでしょう。むしろ、なぜコンドームを買いましたか、と問いたい。いやまあ買うか。