千年紀のレガリア 帝宝審理騎士は働かない (ファミ通文庫)

【千年紀のレガリア 帝宝審理騎士は働かない】 夏森涼/マニャ子 ファミ通文庫

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武の名門クルツシルト侯爵家の若き当主ユリエル。没落した家を復興させようとする彼女に下された使命は、帝国国立美術館の館長レインと共に、敗戦によって散逸してしまった「三種の帝宝【トライ・レガリア】」を奪還すること!
しかし肝心のレインは下手な絵を描くだけで、まったく働く気がない。ユリエルはレインを叱り飛ばし、どうにか捜査を始めるのだが――
その任務は、レインと帝国の秘密に迫るものだった! 千年の謎を解き明かすクロニクル・ファンタジー登場!
こういうパンツルックの女性のユニフォームは変にスカートにするよりも好きだなあ。シュッとしてスマートにカッコよく見える。
さて、本作の舞台となる帝国だけれど、これはいうなれば戦後の物語。それまで長く続いていた価値観が全部ひっくり返される大きな大きな戦争に敗北したあとの国の話なんですよね。これまで信じられていたものが崩れてしまった世界。絶対的だった権威が揺らいでいる世界、というべきか。なので、物語のベースとなるのは権威の脆さと価値観の変容であり、その中でも揺るがないものは何か、という主題を千年帝国の建国の謎に絡めて語る物語になっているんだけれど、ぶっちゃけテーマに対して徹底した掘り下げが出来たかというと、どうもぼんやりとしたままで終わってしまった感がある。或いは、主人公の美術品の捉え方に自分の納得がいかなかったからか。それまでの権威が失われてしまったとは言え、美術品としての価値は別だと思うし、それ以上に歴史的史料としての価値は千年帝国という歴史的存在がある以上、失われるはずのないものなんですよね。それらがもてはやされた権威は既になく、それを認めていた価値観は変わってしまったかもしれない。でもだからといって、それらをぞんざいに取り扱うのは別だと思うんですよね。
一方で、人が生きる上で古い価値観や失われてしまっている権威にいつまでもこだわるというのはどうしたって現実と齟齬が生まれてしまう。権威なんてものは万人から認められず、忘れ去られたらそれはもう在って無きものなのに、その価値の絶対性を信じて取り戻そうとして道を踏み外す人がこの作品にも幾人も出てしまうのだけれど、中には現状の自分が持っている権威の大きさよりも、既に失われている虚像の権威に縛られてしまっていた人も居て、あれは終わってみれば悲惨とすら言える有様だった。あれ、血族の使命として端から他の可能性というものが頭のなかに存在しなかった悲劇なんだろうけれど、普通に考えたら現状の地位だけでやれることはなんぼでもあっただろうに、権力だってあれだけ能力が伴っていればどうとでも揮えただろうに、それを台無しにしてしまう行動には唖然としつつ、あれが権威の魔力なのだろうかと納得もさせられたわけだ。
権威、バカにしたもんじゃないんですよね。古かろうと、その価値を万人が認めていたらそれは無視できない力になる。いや、古いからこそ誰もがそれを価値あるものと無視できなくなる。それが失われてしまうというのは、やっぱりよっぽどのことなんだよなあ。なんだかんだと、あのエリザベート皇女殿下は自らの言動を持って帝室の権威を示し続けている。皇族としての世間や民への接し方こそ、新たに生まれようとしている価値観にそって変化させているけれど、それで皇族の権威や価値が失われるわけじゃないんですよね。むしろ、その柔軟な変化が、彼女個人の魅力が同時に敗戦によって揺らいでいた帝室の価値を高めている。三種の帝宝は権威の証明である物品であり無いよりもあった方がいいんだろうけれど、物に頼らなくても彼女がいれば大丈夫、と思えるほどに。いずれ、彼女が居なくなっても、彼女が強固にした権威の枠組みは長く帝室の価値を留めると思えば、面白いものである。
……結局、揺らいでは居ても現状最も確かな権威である帝室を蔑ろにして手前勝手にしようとした連中がみんな失敗したようにも見える不思議。