ぼんくら陰陽師の鬼嫁 (富士見L文庫)

【ぼんくら陰陽師の鬼嫁】 秋田みやび/しのとうこ 富士見L文庫

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京都は左京区、哲学の道にほど近い公園で。何かと不幸な体質の野崎芹は、やむなき事情で住処をなくして途方に暮れていた。そんな彼女に手を差し伸べたのは、通りすがりの陰陽師・北御門皇臥。なんと彼の式神が視えた芹を、嫁に迎えたいということで…!?破格の条件につられ仮嫁契約を交わす芹。ところが皇臥は式神以外の能力がない、ぼんくら陰陽師だった!怪奇事件にも逃げ腰で、悠々自適の生活のはずが家計がピンチ。ここに芹はプロの嫁として、立ち上がることを決意するのだった―退魔お仕事嫁物語、開幕!
あ、これ同じ作者の富士見L文庫から出てる【三宮ワケあり不動産調査簿】と世界観一緒なのか。あちらが神戸でこちらが京都と。作中で明言されてはいないのだけれど、どうやらあちらで登場してた人らしき人物の話がチラリと語られてたし。こういう世界観を広げる作品跨いだシステムは好きなので大いにやって
欲しい。
本作、一見してジャケットデザインやあらすじから時代背景がわからなかったのだけれど、ガッツリ現代なのね。現代で通りすがりに陰陽師が歩いているあたり、さすがは京都である、パない。
その陰陽師の北御門皇臥くん。思いっきりタイトルでぼんくら呼ばわりされてますけれど……いや、ぼんくらは言いすぎじゃないですか? 確かに超一流とは程遠いみたいですけれど、全然陰陽師としてダメってわけじゃないし、仕事に対して意欲がない訳じゃなくむしろ真面目な方だし。そりゃ、いささか頼りないなあ、と思う所はあるけどさ、ぼんくらとまでは……。何気に優秀でも無能でもないって中途半端ですね! でも、普通や平凡って感じでもないんですよね。単に得意分野に偏りがあって、苦手分野に対しては及び腰ってだけで。
でも、仕事を選り好みできるほど現代の陰陽師は悠々自適ではないわけで。そうだよね、自営業だもんね、陰陽師。しかも、料金システムがちゃんとしているような職種ではないので、何気に現物払いが少なくない、というのはちょっと笑ってしまった。物によっては現金よりもありがたいケースも有るので、一概に悪いとは言えないんだけれど。
そんな苦手分野を選り好みしてしまっていた旦那に、いつまでもそんなことじゃこの先やってけないでしょう! と尻を叩く羽目になったのが、新妻芹ちゃんなのである。
偽装結婚じゃなくて、一応ガチの婚姻なのかー!! 幾ら住むところも手持ちのお金もないという切羽詰まった状況だったとはいえ、思い切ったよなあ。一応書類上は正式な婚姻を結ぶと言っても、生活実態はあくまで名目上であって、いわゆる雇われ嫁なのだけれど……恋愛が介在しないだけで嫁としての役割は子作り以外はほぼ満了でこなしているあたり、なるほどプロ嫁である。
しかも、お姑さんの相手までw
いやこれ、気持ち的に仕事と割り切れる芹ちゃんよりも、お姑さんの方が複雑ですよ。一応、これが息子が親戚筋の圧力を躱すために契約した偽装嫁という事実を知っちゃってるわけですから、どう対応したらいいかそりゃわかんないですよ。わかんないなりに、なんか腹立つので地味に嫌がらせしてしまうあたりは苦笑モノだし、その内容が嫌がらせというには人が良すぎるものなのが、まったく微苦笑モノなのですけれど。そして、結局息子と同様にプロ嫁に餌付けされてしまってるし。何このお姑さん、チョロいww
だいたい芹ちゃんも、これが契約婚姻ならもっとビジネスライクにやりゃあいいのに、色んな意味でやる気満々なのが微笑ましい。皇臥と知り合ったきっかけが、本来他人には見えない彼の式神であるまもりちゃんに懐かれてしまった、というところから始まって、健気で愛らしい幼女なまもりに随分と思い入れてしまっている、というのも北御門家にビジネスじゃなく親身になってしまっている理由なんだろうけれど、皇臥に対してもさっそく尻に敷いているあたりは、もう完全に嫁してるんだよなあ。しっかり者で人情家の嫁とか、よく捕まえたもんである、皇臥くん。何気に大昔に唾つけてたことも発覚するんだけれど、新参の嫁に発破かけられてやる気になったり喜んでるあたり、こ、こいつはぁ……と思わないでもない。芹ちゃんみたいな性格だと、こういう頼りなさそうで意外とたちが悪いというか、手癖が悪いと言うか裏で手綱を引くのがうまいタイプにはハマりやすいのかなあ。叩けば叩くほど発奮するし、いざという時しっかり守ってくれる旦那というのは、しっかり者の嫁としたら気持ちいいでしょうし。

事件の内容は、陰陽師というセラピスト、みたいなものではなく、わりとガチの心霊案件。同時に、家族間の関係がお婆ちゃんの死によって微妙に拗れてしまった、というか要であったお婆ちゃんが居なくなったことでギスギスしたものが露呈してしまってきている、という状態か。それを、この怪奇案件をきっかけに事件の真相をミステリーのように解き明かすことで同時に家族の内実、思い込みを取っ払った本当の姿、心の在り処というものを詳らかにしていくことになるんだけれど、これがまた悪意がある一方で思わず心温まる愛情のお話でもあって、夫婦っていいなあ、いいですよ、どうよ? と契約夫婦の二人に見せつける話にもなっていて、いやはやごちそうさまでした。
二人とも満更でもない、というか既に皇臥くんの方はガッツイてる感すらあるので、いやむしろお前が一歩引かないと芹ちゃん思わず後ずさりするしかないじゃない? と言いたくなる二人なのですけれど、雰囲気自体はいいだけに、このまま既成事実にすり合わせる感じで距離縮まっていってほしいものです。その過程をつぶさにシリーズ化してほしいものです、はい。
あと麺つゆは許しましょう。許しましょう。あれは万能ですけぇ、お姑さんも恥ずかしがらずw
にしても、ぼんくらも誇張だと思うけれど、鬼嫁も言い過ぎだわなあ。芹ちゃん、全然鬼じゃないですよ。叱られる旦那の方が反省スべしw 式神たち、みんな嫁派になっちゃってる件についてよく考えなさい。

秋田みやび作品感想