魔王、配信中!? (講談社ラノベ文庫)

【魔王、配信中!?】 南篠豊/れい亜 講談社ラノベ文庫

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『はいどうもおー! みなさんこんばんは、魔王でっす!』
『わこつ』『ばんわ』『魔王さん今日もかわいい』『死ねクソ魔王』
勇者の息子である日下勇真の家には、引きこもりの魔王がいる。その名はイスティ。一度勇者に滅ぼされながらも復活し、息子である勇真に復讐せんがために現れるが、機嫌の良くなかった勇真に一瞬でボコられ、そして日下家に引きこもってしまったのだ。
そんな魔王は、爆死ガチャ生放送や他の生主に喧嘩を売るなど、引きこもりのリア充として生き生きと活動していた! 状況を苦々しく思っていたら、ある日魔王がとんでもないことを提案して――!?
生放送は危険がいっぱい!? 炎上上等コメディ、開幕!
ついにMMDにまで手を出す作品が出てきたかー。たった数分の動画を作るだけでどれほど魔窟にのめり込むことになるのか、見る専からするとややも身につまされる。でもキャラと言いオリジナルと内輪ネタばっかりだと、よっぽど動きが凄くないとMMD大会でもなかなか注目されなさそうであるが。
ともあれ、これは血反吐を吐きそうな凄惨極まる作業を一緒に行って一つの作品を創ろうとすることで、一度見失ってしまったコミュニケーションの方法を模索し、関係を取り戻そうとする破綻した兄妹の物語なのである。
実のところ、魔王イスティって停滞した状況を動かすための化学反応の触媒であり、きっかけであり、賑やかしであって、メインはあくまで勇真と雪凪なんですよね。ポンコツすぎるイエティとの掛け合いのリズムの良さが常に空気を循環させてくれていて、イスティはイスティで重要な気がするポディションなんですけどね。このどうしようもない娘がどうやってリアル魔王やっていたのか、どう想像しても具体的なイメージが浮かんでこないのであるが。まあどう考えても、どうしようもないろくでなし魔王だったのだろうけれど。それでも、肝心なところで活を入れてくれたり、とシメてくれるところはシメてくれる……のかなあ。

家族が引きこもり、という話は数あれど、家の中に二人も引きこもりがいるというダブルス状態な有様の一家はなかなかに珍しいだろう。しかも、両親は家を離れていて家事やらなんやらはナッちゃんおばさんという謎のオネイサンが取り回しているという……このお姉さん結局作中各所で大いに語られながら結局登場しなかったのだけれど、ナニモノなんだろうか。控え目に言っても天使か女神のたぐいかと思ってしまうくらいこの行き詰った家庭を支えてくれてる人なんだが。
それはともかくとして、焦点は繰り返しになるが兄と妹のすれ違ってしまって噛み合わなくなってしまった関係の修復なのである。最初、勇真が妹雪凪をあれだけ溺愛しながらも長年一緒に食事をとるどころか会話もままならないくらい没交渉、という状態に、なんでそこまで断絶しているんだろうという違和感みたいなものは感じていたんですよね。ある種過剰なくらいの、触れれば壊れてしまう砂の人形でも扱うような、妹に対する過敏な対応。それも、儚げなメンタル細そうな雪凪のキャラクターにそういう対応もまあ当然か、と思うようになりながら読み進めていったのだけれど、雪凪が過去に引き起こした彼女が引きこもるきっかけとなる事件の内実が明らかになるに連れて、覆い隠されていた錯誤が浮き上がってくるのだ。
妹と、そして兄に刻まれてしまったトラウマ。それが故に、お互いへの接し方を間違い続けて後戻りできなくなってしまった二人。それを、イスティがくれたきっかけを期になんとか修復しようとして、二人で頑張って、そして余計にどツボにハマってしまう悪循環。イスティを始めとしたMMD作品を作るために集った面々がうまいこと賑やかしてくれるので、重苦しいだけの雰囲気にならずに済むものの、親しいもの同士であるが故の難しい人間関係、というものを丁寧に描写した地面の固い踏みしめ甲斐のある物語でした。
でも、兄妹二人にあまりにスポットを当ててしまったので、作者も語っていますがラブコメ要素は一切これっぽっちも存在しないのはなかなか清々しいくらいで、これはこれで中途半端なことはせずに思い切ってよかったんじゃなかろうか。イスティやシルファはヒロインとしては話にもならない論外なので、若干オラついてるぼっち仲間の奏多あたりしかヒロインとして機能しそうなキャラいなかったもんなあ。奏多のやさぐれてる荒っぽい態度とは裏腹に、気軽に家までご飯食べに来たりぼっち同士学校でもいつも一緒にいる一方で趣味とか秘密にして必死に隠しているあの距離感のとり方の危なっかしさは、なかなかに可愛らしかったですし。
まあ肝心の勇真が実質妹しか眼中にありません状態だったからなあ。それも、雪凪との関係が修復され妹たちの引きこもり状態が解消されたとき、果たして他にまで眼が向くことになるのか。続編あるかどうかわからないけれど、どの方向性に描かれるのかは非常に興味深い。

南篠豊作品感想