<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- 1.可能性の始まり (HJ文庫)

インフィニット・デンドログラム 1.可能性の始まり】 海道左近/タイキ HJ文庫

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各プレイヤーの行動や性格、プレイスタイルによって独自に能力が進化するシステム“エンブリオ”。人と間違うような、確かにその世界に息づくNPCたち“ティアン”。そんな夢のようなシステムを備えたダイブ型VRMMO“Infinite Dendrogram”は、瞬く間に一大ムーブメントとなって世界を席巻し、数多くのユーザーがこのゲームを楽しんでいた。大学受験を終えて東京で一人暮らしを始めた青年・椋鳥玲二もまた、受験勉強の終了を記念して、かねてより兄に誘われていた“Infinite Dendrogram”を起動する―。WEB発超人気VRMMOファンタジー!!
これはまた、正道を堂々と進軍するかのような真っ向勝負の作品来たなあ。奇をてらわず、丁寧にゲームの世界観を構築し、そこで躍動するプレイヤーたちを描き出し、今まさにリアルタイムで大盛り上がりの様相を呈している世界の中にこれからゲームをはじめる主人公を放り込む。実に真っ当なゲームの開幕であり、物語のスタートである。
ウェブ作品だと、このタイプではプレイの詳細を細かく毎日記述していく日記みたいになっちゃう部分があって毎日チマチマ読んでいくぶんには良いものの、一冊の本となると起承転結の起伏に欠ける部分があったりするのだけれど、本作はそのへん物語そのものを動かしていこうという腰の座った動線が見えて、一冊の本としてしっかりとした歯ごたえがあるんですよね。そして、同時に主人公が体験していく【インフィニット・デンドログラム】をどれだけ魅力的で面白いゲームなのか、というのを丹念に描写することによって、目に映る光景、出来事、登場する人物一人ひとりが見ているだけでワクワクさせてくれるような鮮やかさが添付されてるんですよね。これは、読者への見せ方を非常に意識した、独りよがりにならない演出力が発揮されている、と言えるのでしょう。なるほど、HJ文庫がかなり力を入れて推しているだけある土台の強さと弾力性である。早々に主人公の目標となるトップランカーたちの姿を見せていくのもいいですよね。そして、そのトップランカーとの縁も無理なく散りばめられているために、初心者である主人公とも接点がでてくるわけですな。件の破壊王とか、あからさまにあの人だしなー。
一番最初に仲間となる子もまた特徴的で、あれって聖騎士という正道型である玲二に対して、ある意味ハーレム型主人公によくある特殊タイプなんですよね。あの子、主人公と組まなかったら本人そのつもりなく、際限なく魔物ハーレム作ってったんじゃなかろうか。職業特性の能力がこれ半端ないんですけれど。でも、女衒なんていう職業、単語からして古典なんだなあ(笑
この作者ってもしかしたら自分と近い世代なんじゃなかろうか、と思う程度には作中で例えにあげられる既存のゲームあるあるネタが自分の三十代からアラフォー世代直撃のものばかりなんですよねー。この主人公、絶対十代じゃないだろう(笑
一応、ヒロインは玲二自身のエンブリオであるネメシス一択なのか。最初に出会ったNPC(ティアン)の女騎士はそれこそ最初の事件以来全然登場しませんでしたし、意外と女性キャラは絞ってきている印象。
そして、順当にゲームプレイを楽しむ様子を描く一方で、ゲームの中のまるで本当に生きているかのような住人たちのリアルさにかすかな違和感を感じさせる描写に合わせて、背後にゲームという枠を明らかにはみ出した、怪しい動きを見せる人影を散りばめていく、と。まさに展開からして王道なんだけれど、だからこそしっかりとキャラにしても物語にしても身の詰まったものにすれば、王道なればこそどんどん面白くなっていくことは間違いないので、スタートとしては十分な踏み切りだったんじゃないでしょうか。
まあ一巻だからこその紹介編という枠にまだ収まってしまっていたとも言えるので、こっからどれだけキャラ掘り下げていけるか、でもあるんだろうなあ。