魔術師たちの就職戦線 (ファミ通文庫)

【魔術師たちの就職戦線】 嬉野秋彦/惠坂 ファミ通文庫

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魔術師候補が集まる不動台高専を舞台に贈る、新世代学園異能バトル!

「……死ね」という言葉とともに気を失った進藤雪也は、編入先の“不動台術式高専”の保健室で目を覚ました。紹介されたクラスで彼を攻撃した少女を見つけたユキナリだが、クラスメイトとなった山崎雅明や網代木澪の話から、「この学園は素養のある生徒だけが集められた日本最高の退魔士育成機関」であること、そしてあの少女の名が蘭崎香織里であることを知り、彼女が幼い頃に別れた双子の姉であることを思い出す――!
アストラル骨法って、語感がすごい好きなんですけどッ。
いやいや、わりとフザけた名前に見えますけれど、骨法なだけあってアクション描写は也に痛そうなんですよね。概ね食らってるのは主人公のユキナリなのですが。霊体をぶん殴る古武術と古神道のハイブリッドという名目なのですが、カオリのオリジナルなだけにネーミングセンスはほぼ彼女の寄与されます。ってか、母親の詩織里も実戦骨法詩織里式なんて名前つけて自分で組み立ててたらしいので、血筋だわなあ、これ。
本作、なんか読んでるとこう懐かしいというか既視感を感じるというか、嬉野さんの作品は概ね読んでいるだけに今更懐旧を感じるというのは何なんだろう、と首を傾げていたのですが、赤い表紙の本が出てきた事でビビッと来たんですよ。思い……出したっ! てなもんで。
舞台が現代、そんでもって本格的な古今東西の魔術呪術を扱う話、ということで学園モノだったり主人公たちが十代の学生だったりとキャストの傾向こそ違うものの、魔術描写の手法的にはこれ作者の旧作である【ハルマゲドンバスターズ】【シャイニングウィザード】の正統な系譜なんだわ。世界観自体は異なるんだろうけれど、ブーメラン効果とか、まさにまさに。
しかしそうなると、赤い表紙の本なんか使ってる山崎くん、それだけで色々と怪しくなってきてしまうんだけれど大丈夫か、こいつ。そう言えば、作者の著作だと主人公の友人キャラはみんな山崎雅明という名前らしいんだけれど、確かに【戦争妖精】でも居たなあ、ヤマザキ。でも、今まで本編にがっつり噛んでくる山崎って覚えがないだけに、レギュラー化した山崎はこの山崎が初めてなんじゃないだろうか、山崎。
それにしても、相変わらずというかキャラの配置の仕方が絶妙に既存のライトノベルと異なっているのはこの人らしいなあ。普通どうしてもサブヒロインに収まってしまうようなキャラがメインヒロインになったり、というケースには事欠かないのですが、本作も順当に澪がメインになるのかと思ったらどう考えても双子の姉の香織里がどうあってもメイン譲りそうにないですし。いやでも、この姉弟長い間離れ離れで色々と拗らせてはいるものの、お互いへの感情は今のところあくまで普通の姉弟のものなのでそのままノーマルな姉弟モノとして行くんだろうか。取り敢えず、険悪極まる姉の感情がどのようにデレへと移行していくのかは楽しみでしかない。以前、仲が悪いなんてもんじゃないだろうという男女関係を見事にガチのラブロマンスにまで仕上げた実績があるだけに、その手腕への心配はないのだけれどそれも昨今の業界全体の早期打ち切り傾向からするとじっくり堪能できるかどうかやや心配なのである。
主人公のユキナリ、いきなりマシントラブルを起こした母の操縦する小型機からパラシュートで脱出してくる、という落ち物ヒロインならぬ落ち物主人公しかもアラスカ帰りという、魔術師高専という魔術師呪術師の卵たちというアレな人材が集まっている中ですら、なにそいつ!? な経歴の持ち主なのだけれど、魔術云々についてはさっぱりド素人な分、非協力的を通り越して近づくと殺す的な姉の振る舞いもあって結構苦労はしてるんですよね。性格的には言動見ても結構ヤンチャ系というか当たりの強い性格してると思うんだけれど、姉とのいざこざが原因で喧嘩っ早く見えるだけなのか、人の言にはかなり素直に耳を傾けるわりと人当たりは丁寧な人物なんですよね。その意味では読んでいてもなかなか掴みづらいキャラクターで、主人公としてはシンプルなようで複雑なところもある、何とも食み応えがある面白さなのである。
今回の事件に関しては、どうやら何事か裏で企んでいる黒幕が居る、というのがなんとなく見えてきただけの導入編ですっきりしないと言えばしないのだけれど、登場人物の紹介編と思えば多種多様なキャラクターの動向が伺えて、じんわりと楽しみが湧いてきているような塩梅である。あの行き過ぎなくらいサッパリしたママンは面白いキャラだなあ。
あとヤマザキ! こいつ年上の彼女がいるって、あの人と付き合ってるの!? おのれ!
個人的にはさらっとした描写なんだけれど、姉弟の思い出の料理であるマカロニグラタンの話なんかは凄い好きだったなあ。バチバチ反発しあってる姉弟ですけれど、ユキナリってわりとシスコンなんじゃないだろうかこれ。

嬉野秋彦作品感想