セーブ&ロードのできる宿屋さん 2 ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ (ダッシュエックス文庫)

【セーブ&ロードのできる宿屋さん 2 ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~】 稲荷竜/加藤いつわ ダッシュエックス文庫

Amazon



Kindle B☆W
宿屋『銀の狐亭』には、今日も色々な事情を持ったお客が訪れる。そして相変わらず宿屋主人・アレクが課す修行は、想像を絶する内容で…!?借金返済を目指すドライアドの冒険者、ホー。乱暴な口調の裏に隠された彼女の真の姿とは…。女王の近衛兵になるための最終試験で訪れた貴族の少女トゥーラ。まっすぐ夢に燃える彼女の心はアレクの修行に果たして耐えられるのか…!?高難度ダンジョン「おばけ大樹」の探索を目指すエルフのソフィ。アレクとの恐怖の“鬼ごっこ”で精神崩壊寸前…!?セーブ&ロードを繰り返すだけで超レベルアップ!!最強引退冒険者の新人育成+αな宿屋ライフストーリー、第2巻!!

これ、あらすじ詐欺ですよね。明らかに過小表現されてますから。修行は想像を絶する内容ではなくて、常軌を逸した拷問ですし、精神崩壊寸前じゃなくてもはや精神改造されちゃってますし、セーブ&ロードを繰り返すだけで超レベルアップって、お気軽簡単にしてるみたいな言い草ですけれど、基本死ぬまで無茶苦茶やらされる拷問ですからね! でも、拷問って死なないから拷問って言うんですよね。死んじゃったら拷問じゃなくなりますもんね。だったら、基本死んじゃうアレクの修行は拷問を通り越して責め殺しなんだろうか。

ともかく宿屋の主人のアレクが意味不明なんですよね。一巻の感想でも書きましたが、
言っていることの意味はわかるが、言っていることの意味がわからない!

会話が成立するものの、意思疎通がそれで成立しているかというと別問題なのがよくわかる。アレクが「安心」とか「大丈夫」という言葉を使っている時の会話の意味不明さそれを証明している。彼が思ってる安心とか大丈夫とか常識とか楽勝、という言葉の意味と普通の人が知っている意味が完全に食い違ってる!

「大丈夫ですよ。あなたにできることしか、やっていただきませんから」
「ふつうのひとはね、じさつ、できないよ?」
「できたじゃないですか」
「結果論じゃねーか!」
「……結果的にできたなら、それは『できること』ということでは?」
 アレクは首を傾げた。
 そうじゃない。
 そうじゃないのだけれど、ホーにはうまくこの店主に説明することができそうになかった。
 人の道理をモンスターに説くのは難しい。

「大丈夫です。できることしか、やっていただきませんから」
「だからあ……! ひとは、じぶんで、いのちをすてられないって、ゆってるじゃん……!」
「人は死のものぐるいになれますよ。そして、死にものぐるいで行ったことは、だいたい成功するものです」
「しんじゃうよお」
「大丈夫です。セーブはしていただきます」
「しにたいよお……」
「人は簡単に命を捨ててはいけませんよ」
このひとやばいよお。
ホーはもう泣きそうだった。

「やだ、やだ、やめてあげてよお……」
「大丈夫ですよ。俺は家族を大事にしますから」
「ほ、ほかのひとだって、いきてるんだよ?」
「知っています。俺は別に、他者の生命を侵害しようとはしていませんよ。彼らにはきちんと生きて帰っていただきます。そのための交渉です」
「いきてるだけが、いきるってことじゃ、ないんだよ?」
「ははは。なにを言ってるんですか」
「え?」
「生きてることが、生きてることでしょう? ――途中何度死んだって、生きていれば、生きていけます」
――通じない。
この男に、常識が通じない。
だからホーは、そっと黙って、アレクの袖を離した。

ドライアドのホー編での会話を見ているとよく分かるのですが、彼が大丈夫と太鼓判を推すケースは大概にして何が大丈夫なのか理解不能です。
お話としては一番ホー編が面白いかなあ。ホーが登場人物の中では一番人気らしいのですがそれも納得。ちっちゃい体やギルドマスターの孫という出自から殊更乱暴な言動で武装していたホーが、あまりと言えばあまりの恐ろしい修行の数々に精神的に追い詰められ追い込まれ具体的にゴリゴリと削り落とされ、思わず幼児退行を起こしてしまうこの精神崩壊っぷりを、面白いと言って良いのかどうか……面白いんだから仕方ないじゃん!!

何気に口が悪いというか、生真面目で畏まった立ち振舞いの割に内心思ってることが辛辣なのが近衛兵志願者のトゥーラなのですが、遠慮がない分わりとアレクに対する真っ当な評価なのかもしれません。

 トゥーラは表情を失い、常識が根底から違う生き物を見た。
 同じヒトガタなのに、あまりに違うナニカを見上げる。
「きょ、教官どのは、本当に、人なのでありますか……?」
「え? 人ですが?」
「実はかつてモンスターで、長い年月を経て人間の姿になったとかでは?」
「そんなことはありませんけれど……なぜそう思ったのでしょう?」
「だって、常識が、おかしいので」

「そうだねえ。この宿にいる人は、みんな修行をある程度までしてるよ」
「ということは、みなさん、精神に異常を?」
「い、いやあ……正常なんじゃないかなあ……たぶん……」
「いいえ、正常ではないのであります……みんな、みんな、知らないうちに精神を作り換えられてだんだん苦しみを感じなくなり最後にはなにも感じなくなって人として大事ななにかが欠落していきそうしてできあがったのが、教官どのでありますな」

「はい。難易度が高かったり測定しにくかったりするダンジョンは、だいたいギルドマスターから依頼を受けて俺が調査しています」
「…………」
なるほど。
もとから狂っていれば発狂しないという、ギルドマスターの見事な判断である。

トゥーラは今まで、この人は頭がおかしいんじゃないかと思ってきたが……。
違うようだ。
頭がおかしいとか、精神に異常をきたしているとか、そういう表現でくくってはならない、もっと危ないなにかだ。

彼女の論法で言うと、アレクの修行を受けた人間は総じて人格改造されて異常者に成り果てているのですけれど、あーたがなろうとしている女王陛下の近衛兵たちはみんなアレクの修行を受けることが通過儀礼となっているので、女王陛下の周辺は頭がおかしい人々で固められてることになってしまうのですが、貴方も含めて(笑
まあ、修行初心者にセーブ&ロードの実演をしてみせるために、娘のブランに自分をぶっ殺させるアレクを見ての反応が、修行初心者と経験者ではまるで反応違う時点で、「みなさん精神に異常を?」とか言われても仕方ない有様ではあるのですが、みんなアレクほどぶっ壊れているわけではなく、あくまで常識的範疇からだんだんと踏み外していってる最中であってみんな自分たちがおかしくなってきていると認めたくない季節でもあるので、その中途半端な食い違いとはみ出しっぷりがまた面白くもあるんですよねえ。

と、登場人物たちの修行話と絡める形でアレクやヨミの過去、彼の師匠であり育ての親であり実の親でもあった三人の人物に纏わる話と、現在アレクたちがある目的を以って動いていることを匂わせる展開も徐々にではあるけれど進行しだしてるのですが、あとがきのニュアンスみると続刊は微妙なのかしら。
ともあれ、このアレクの頭のおかしさとそれによって恐怖のどん底に追い落とされながらも、それぞれの目的を叶えるために必死に、死に物狂いで泣きながら、人格改造されながら、文字通り必ず殺されながら、実質拷問されながら、精神崩壊しながら修行に挑んでいく彼女たちの健気な自殺は、ちょっと他所ではお目にかかれないアレっぷりなので、一読の価値はあるんじゃないかと。いやもう本当に素晴らしく酷いから(笑

1巻感想