境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神 (MF文庫J)

【境域のアルスマグナ 緋の龍王と恋する蛇女神】 絵戸太郎/パルプピロシ MF文庫J

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鬼柳怜生・享年17歳。彼の生涯は双子の姪をかばって儚く幕を閉じた…はずだった。何故か生き返った怜生の前には、長い紅髪に豊かな胸の、見目麗しい蛇女…蛇女!?さらに、彼女は怜生の「妻」を名乗り、彼は「神霊と結ばれ、世に新たな魔法技術を生み出す“王”になったのだ」と告げられる。司るは―無から有を生み出し、死者蘇生すら可能な「命」の魔法則。かくして、世界を一変させる力を手に入れた少年の、全世界と数多の“王”を相手にした覇道が幕を開ける!第12回MF文庫Jライトノベル新人賞・最優秀賞受賞作。最強・最速・極悪の三拍子揃った凄絶過激な魔王の狂宴、堂々開幕!
いいねぇ、いいねえ、実に頭がおかしい。普段の平凡さの中に埋没していた精神の怪物性。それは眠っていたわけでも封印されていたわけでもなく、単に表に出る機会がなかった、というべきか。覚醒という形ではなく、場の状況に応じて自然と浮き彫りになる形で彼の異常さ、怪物的な精神回路は表へと露呈していく。
ただ、彼がそのまま平凡な魔術師としての人生を送っていたら、彼の異常性が発露しなかったか、というとどうなんだろう。怜生がこの事件を通じて怪物になってしまった、というのならともかく、実際は元々それを内在させていた以上、どこかでそれは露呈していたんだろう。あの姪っ子ちゃんたちのことを鑑みても、既に影響は出ていたわけですしね。それに、花蓮に関してだって初めて出会ったわけじゃなく、生まれてこの方ずっと側にいたわけですから、いずれはどうにかこうにかなっていたはず。
それでも、この事態が急転し続けていく中で、ぞわりぞわりと普通に見えた主人公の中から鎌首をもたげてくる異常性、怪物性の薄ら寒さにはゾクゾクさせられました。本作って、改めて振り返ってみると誰ひとりとしてマトモというか、平凡なメンタリティを持つ人間っていないんですよね。どこかしら、何かを踏み外し、或いは踏みにじり、盛大に破綻している。まさに正しく、人の道から外れた魔術師たちの饗宴たるを体現しているのですが、それ故にその中ですら際立つ主人公のイカレ具合というものは、火花飛び散らせながらのたうち回る切れた電線みたいなもので、目が離せないし目を離すとどうなるかわからない危うさの塊で固唾を呑んでしまうのである。
その上で、近寄りがたい危うさではなく、思わず引き込まれそうな「それ」なんですよね。その夢に、その野心に、その在り方に多士済済を引き寄せ引き連れ引きずり回す、王足るの存在感。
この手の王様タイプの主人公って、単に仲間が一杯味方してくれる云々とは少し違うんですよね。その在り方に、ついていく人たちが己の人生を掛けて寄り添い、王はそれをすべて背負った上で描いた夢に皆を連れて行かなくてはならない。世界に強いなければならない。
なるほど、だから敵は悪ではなく、同じ王なのか。だったら、行われるのは戦争だ。王として譲れぬもの同士を賭けた、正義も悪も関係ない、己の夢と野望を世界に顕現させるための戦いだ。
その為に王同士は絶対に相容れないし、その為なら幾らでも妥協し合える。実にグロテスクで健全だ。そして、面白い。面白い。
なるほど、これは大賞だわ。ストーリーも世界観もキャラクターも、文章のテンポも豪壮と言っていい大きな作品らしい雰囲気があるのよね。勢いだけじゃあないよこれ。
この調子で書き続けられるのなら、本作が続くにしても別の作品を書くにしても間違いなくレーベルの最前線で戦い続けられる実力のある作家さんだわ。だからこそ、二巻の出来栄えには是非に期待させていただきたいところである。