さよなら、サイキック 2.愛と解放の地図 (角川スニーカー文庫)

【さよなら、サイキック 2.愛と解放の地図】 清野静/あすぱら 角川スニーカー文庫

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――その日ぼくは能力(チカラ)を失い、愛の意味を知った。

あの日を最後に、ぼくの能力(チカラ)はなくなった。

夏は終わり、ロンドは中等部に編入し、ぼくたちの賑やかな二学期は始まった。朱音儀(あかねぎ)チヅルという新メンバーを迎え沸く能力者サークル『リア充ブレイカーズ』はしかし、元・能力者の少女蒔田(まきた)ヒルガオの告白によって再び揺れ動く。「恋をして幸せになると、わたしたち能力者は力を失うの」しかし、ログの能力は健在で……。
一方ロンドは、星降(ほしふり)の正統な後継者として魔女会合へ臨むのだが――。
うはぁ、なにこの朱音儀チヅルという新キャラ。めちゃくちゃカッコイイんですけど!? 素行不良で一般生徒からは敬遠されているという評判の悪さなんだけれど、接してみるとどこが? と大声で訴えたくなるほど物腰がスマートなんですよね。そう、スマート。江戸っ子風に「粋」な感じかな、とも思ったんだけれどああいうチャキチャキした感じでもなくて、上品でスマートで言うなれば英国風のジェントルマン、て感じなんですよね。多少、アイロニーが効いていて一筋縄ではいかなさそうなのも含めて。女性に対してジェントルマンというのも変なんだけれど、ウィットに富んだユーモアと余裕めいた懐の深さは、そう表現せざるを得ないのよねえ。
清野さんの描く大人な女性には時折こうしたスマートなカッコよさを自然とまとっているキャラクターというのが出てくるんですよね。その意味では、チヅルという少女は同級生キャラというには大人すぎたとも言えるんだけれど。あとで、ロンドの執事である松岡さん、チャーミングな口ひげとハンサムな面貌、バリトンの渋い声というダンディ極まりない中年男性と対等な感じでいい雰囲気になっていたことからも、彼女の精神年齢の高さが伺える。何しろ、あの軍乃が天敵にあった猫みたいに毛を逆立てて、その挙句猫のようにあしらわれていたのだからして。
その軍乃、男らしく真っ向から告白してきてからの、あのグイグイと好意を隠すことなく迫ってくる大胆さとチャーミングさは、もうたまらん可愛さでねえ。そして不思議なことにあれだけグイグイと来るにも関わらず、押し付けがましさが全然なくて、ロンドともほんとに気心の知れた親友として仲良くしてるんですよ。そのあたりの、押すところと押さないところの塩梅が絶妙も絶妙で、とてつもなく美人の軍乃という女性から迫られているという状況を、キリキリと胃が痛くなるようなシチュエーションではなく、とても胸がドキドキしてくるような素敵な時間として体感させてくれるのである。
そして、もう一方のガールフレンド、ロンドの生の輝き、キラキラと光り輝く元気の塊は様々な鬱屈を吹き飛ばして、常に物語に清々しい空気を吹き込んでくれるのである。
長く病気で苦しみ続けた鬱屈というのを、ロンドも抱え込んでいるのだけれどそれをネガティブな感情に転換するのでもなく、うちに抱え込んだまま燻らせるのでもなく、無闇矢鱈に爆発させてしまうのでもなく、激情や怒りというものに転換しながらも、それは前向きな希望であり、未来に突き進む原動力であり、気合の推進剤としてパーッと使っちゃってるんですよね。こんな健やかで気持ちのよい鬱屈の吹き飛ばし方、というのもなかなか見たことがない。もう関係ないと無視しても良かった、星降家の魔女の正統後継者としての認定にロンドはこの健やかな怒りを以って挑んでいく。ただ楽しく過ごすだけじゃない、ロンドは辛うじて拾った、生きて歩いていける未来というものに、全力で自分自身のすべてをぶつけようというのだ。そのなんて楽しそうな、嬉しそうな、溌剌とした輝きだろう。
皆が彼女をまぶしげに仰ぎ見るのも無理からぬことだろう。そして、誰よりもその生き様に魅せられてしまったのが、ログという少年なのだ。そうして、ロンドの全力に全身全霊で向き合い、追いすがり、追いつこうと、彼女の輝きをつかもうとした時、少年は自分の心を詳らかにすることになる。本当の恋を知ることになる。愛というものに出会うことになる。
謳うような青春譚。子どもたちが、一つ大人になる物語。それが、この【さよなら、サイキック】というお話でした。
とても上品で情緒的でユーモアと機知に富んだ文章によって綴られた、軽快で真摯で清々しい春の風のような物語。願わくば、もっとゆっくりとじっくりとこの美しい単語と文章のリズムを堪能したかったところですが、二巻で完結ということでやや急いた部分も見受けられてしまったのは、非常に残念なことでした。ヒルガオのエピソードや軍乃とロンドの三角関係ももっと爽々と積もっていく風情があったでしょうに。
でも、再び清野さんのこの清涼な作品の雰囲気を味わえただけでも、今は幸せを噛み締めています。また、新たなシリーズを是非堪能したいです。

1巻感想