瀬川くんはゲームだけしていたい。 (GA文庫)

【瀬川くんはゲームだけしていたい。】 中谷栄太/ちり GA文庫

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人生で大切なものは、みんなゲームに詰まっている。ゲーム三昧の日々を全力で過ごし、それ以外には極力エネルギーを割かない―それが瀬川世一の信条だ。だが、エンカウントは望まなくても勝手に発生する。真っ当な青春を送らせようとしてくる幼馴染みを始め、和ゲー復権を目指して『実況動画制作部』に勧誘してくるお嬢様ゲーマー、リアルでのパリィ練習につき合わせようとしてくる洋ゲーアクション好きの巫女、そしてFPS上級者の女子小学生らの登場で、世一の静かで穏やかなゲーマーライフは侵食される一方!?つながりたくないゲーマー系日常ラブコメ、スタート!
相変わらず、この作者さんはキャラ同士の掛け合いが抜群に上手いなあ。この掛け合いが上手いというのは単に読んでいて楽しいというだけでなくて、登場人物同士の屈託ないコミュニケーションを見ているうちに知らず知らずのうちに作品の世界の中に引き込まれてる、ってことなんですよね。
このキャラクターたちがドタバタと騒いでいる様子を、もうずっと昔から見ていたかのように馴染ませてくれるのだ。これはキャラ立てが上手いというだけに留まらず、グループや集団といった括りで主人公たちの関係を描きあげることに優れている、と見るべきなんでしょうね。前作でも新キャラを馴染ませるの非常にうまかったですし、今回の話なんて特にイベントらしいイベントもない日常モノで、派手な展開なんてないにも関わらず、作中の雰囲気はテンション高めのまま実に楽しい雰囲気を保ち続けていましたからねえ。地味な展開をここまで賑やかかつ親しみやすく仕上げるのって、実際並大抵ではないはずなのだけれど、この作者さんはこのあたりが本当に絶妙なんだよなあ。
本作は登場人物たち、本当に特にバックグラウンドらしいものもない普通の学生さんたちである。特殊な家柄もなければ、異能も持たない。ゲームを通じて世界の行く末に関わる事件に巻き込まれることもなければ、人生のおける選択に迫られる場面もない。
でも、日常というものは概ねそんななんでもない、一日どう楽しく過ごすか、という点に重きをおいて流れていくものだ。そして、それは往々にして楽しく過ごすの過ごし方について、他者と一致したりしなかったりする。普通はこれ、友達などの関係上、妥協に妥協を重ねてその先にまた楽しみを見出していくものなのだけれど、本作の主人公であるところの世一は揺るがない男なのである。瀬川くんはゲームだけしていたい、のだ。ゲームを通じて何かを得たいとか、友達を増やしたいとか、とんと思っていない。ゲームで遊びたいだけなのだ。何気に、徹底したマイペースの男であり、マイウェイの男なのである。主人公が騒がしいヒロインたちに巻き込まれ振り回される話だと思えるのも最初だけ、振り回そうと取っ組みかかるヒロインたちは彼の揺るぎなさに見事にふっ飛ばされ、それでも根性見せて関わろうとして逆に世一の我が道を行く生き様に振り回されていくことになるのだが、それは彼女たちの選んだ道なので自業自得である。しかし、そうなると不思議なもので自分の道に引き込もうとするのを妨げるライバルだった他のヒロインたちは、むしろ同じ男を揺るがぬ道から引っぺがす同じ目的を抱いた同志めいた共感を抱くことになり、それがヒロインたちの友好関係を実に面白い方向へとスッ転がしていくのだから、これがまた面白い。
世一が師匠と崇める妾系小学生の登場がこのドタバタに拍車をかけていくのだけれど、この小学生年相応の幼子であるのだけれど、同時に世一のゲーム(FPS限定)の師匠であると同時に、容易に人道を踏み外しかける世一をちゃんと叱ってくれる、何気に大げさだけれど人生の師匠でもあるんですよね。この小学生が、ヒロインたちのグループにそのまま加わるのではなく、むしろ世一側に居ながらその横から脇腹をツンツンと突いて促すことによって、揺るがないはずの世一が動くことになり、ラストのスチャラカ展開に転がっていくのだからこれも非常に面白い。ヒロインたちを七転八倒させながら空回りさせずに、妥協ではなく真っ向勝負でそれぞれの望む道をすり合わせていく、という堂々とした人間関係のかみ合わせの話でもあり、愉快なラブコメであり、終始顔をほころばせてくれる楽しいお話でした。
わりと、いつまでも読んでいたい系の作品なんだけれど、続き期待してもいいんだろうか。すっごい期待したいんだけれど。

中谷栄太作品感想