最果てのパラディンIII〈上〉 鉄錆の山の王 (オーバーラップ文庫)

【最果てのパラディンIII〈上〉 鉄錆の山の王】 柳野かなた/輪くすさが オーバーラップ文庫

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ウィルが聖騎士となってしばらく。悪魔たちやキマイラを倒し、無法と困窮の“獣の森”には、人々の営為と笑顔が戻りはじめていた。しかし最果ての地に、再び邪悪の影が忍び寄る。季節外れの花が咲き乱れたことから始まる、森の異常。解決のため、仲間とともに“獣の森”の深奥に挑んだウィルを待っていたのは、森の王からの不吉な予言だった。「鉄錆の山脈に、黒き災いの火が起こる。火は燃え広がり、あるいは、この地の全てを焼きつくすであろう」滅びしドワーフの都、“鉄錆山脈”に眠る災いとは―?新たな出会いとともに、再びウィルたちの冒険が始まる!


最果てのパラディンIII〈下〉 鉄錆の山の王 (オーバーラップ文庫)

【最果てのパラディンIII〈下〉 鉄錆の山の王】 柳野かなた/輪くすさが オーバーラップ文庫

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平和を取り戻しはじめた最果ての地に、再び邪悪の影が忍び寄る。「鉄錆の山脈に、黒き災いの火が起こる。火は燃え広がり、あるいは、この地の全てを焼きつくすであろう」“獣の森”の深奥で不吉な予言を受けたウィルは、新たな仲間を加え、ついに“鉄錆山脈”へと挑む。懐かしき再会と、予期せぬ出会い。そして、不死神スタグネイトからの死の予言。「もう一度だけ言う。―挑めば、死ぬぞ」今は無き地底の王国で、切って落とされる決戦の幕。“最果ての聖騎士”を待ち受ける結末は、果たして…?

うわぁ、王道だ、これぞ王道だと言わんばかりのファンタジーだ。竜殺しですよ、ドラゴンバスターですよ。神代から生き延びている古き竜に挑む若き勇者たち。ドラゴンがねぐらとする山に向かう戦士たちの図は、かの【ロードス島戦記】のエンシェントドラゴン・シューティングスター討伐戦を彷彿とさせるもので、思わずワクワクしてしまったなあ。
エルフが仲間になれば、次は勿論ドワーフが、というのも王道なんだけれど、今まで見てきたドワーフというものはみんな生まれ持っての歴戦の戦士で、出会った段階で既に揺るぎのない不動の貫禄を持っているものばかりだったので、今回仲間になるルゥのように未熟で箱入りだった若者のドワーフを主人公であるウィルが、というか仲間たちが寄ってたかって鍛え上げていく、という構図はなかなか珍しいもので、新鮮さがありましたね。そう言えば、メネルもあれでエルフっぽくないガラッパチな兄ちゃんなんですよね。ウィルも敬虔な神官戦士という基本的に生真面目で温厚な性格ながら、結構おちゃめというか可愛らしいキャラクターとやたら筋肉信仰の強いポンコツさが愛嬌あって、テンプレートからハズレているので物語は揺るぎのない王道にして、その道を走るキャラクターたちは個性的に躍動してる、というのが本作の魅力の一つなのかもしれないなあ。
放浪賢者のガスにしても、あの俗っぽさと口数の多さは普通の賢者像から外れていますし。
しかし、どのファンタジーでもドワーフの境遇たるや過酷を極めるものばかりだわなあ。ドワーフの坑道王国というのは、真っ先に魔軍に攻められて滅び去る運命にあるのか、ってそれほど類型があるわけではないんだろうけれど、これもロードス島戦記前史での魔神戦争における石の王国の滅亡の印象が強いからなんでしょう。
でも、こっちのドワーフ王国の興亡はより鮮烈であり、その滅びは戦士たちに逃されたドワーフ難民たちの塗炭の苦しみの内にも焼き付いていて、ボロボロになりながらもその生き様を支え続けていたんですよね。そして、その集約として、結実として、ウィルとの出会いがドワーフたちに戦士の誇りを、未来への希望を、ルゥという若き王者の誕生を生むことになるのである。
ウィルの足跡というのは、もう片っ端から英雄譚なんだよなあ。本人たちは決してそんなつもりはないんだけれど、運命は濁流のように彼をめがけて押し寄せてくる。それこそ、彼を見守る神々の想像をすら超えて。もう、神様たちのハラハラ感が伝わってくるようである。ウィル自身は無謀とは程遠いわりと堅実な性格で、彼自身自分の中の勇気に疑問を抱いているように、闇雲に突っ走る見ていて危うい部分は本当に少ないのだけれど、迷って悩んでビビって怯んでそうやって捻り出した決意、確信は絶対に揺るがない若者だけに、見守る神様たちの気持ちたるや複雑なものがあるんでしょうなあ。何しろ、彼の決意の起源というのは往々にして自分たち神に起因しているのだから。それも、灯火の神様にしても不死神にしても、自分たちの気持ちや思惑を無視してのものではなく、むしろ自分たちの在り方、信念を慮り、尊重し、何よりも大事に思ってくれているからこその決意だと伝わってしまうために、なおさらに嬉しく、苦しくなるのではないでしょうか。
ウィルの信仰というのは、むしろ神様たちの方をこそ襟を正してしまい、気持ちを新たにさせられるものなんじゃないだろうか、と思うほどなんですよね。そして、その信仰は彼女らを矢も盾もたまらずにさせてしまう。
これも一つの神殺し、なんでしょうかねえw

いや、本作の女っ気のなさにはビックリするくらいのものがあったんですけれど、そうだよなあ、これだけド級のヒロインが控えていたら、並のヒロインなんてお呼びじゃないわなあ。
ガスに出会いがないのかとツッコまれて、様々な劇的な出会いのイベントあったのに、それ全部相手男だったんだよ!! と慟哭するウィルには失礼ながら爆笑してしまったんですが、まあこの調子だとこの先も女には縁なさそうだ。いやマジで。
気風の良いエルフのお嬢さんが出てきた時はついに!? と思ったものですけれど、なんか普通にメネルといい雰囲気になってたもんなあ。メネル、何気に女慣れしてそうなの、ほんとエルフらしくないですよねw
将来はウィルの子孫を見守って……なんて嘯いてましたけれど、その将来展望叶わないんじゃないかなあ。むしろ、自分のほうが早く子孫できそうじゃないですか?
いや、不死神さまの爆弾発言見ると、可能性は大いにあるのか。グレイスフィールさまのあの嫉妬全開モードはめっちゃ可愛らしかったですし。

肝心の対ドラゴン戦ももう大満足の激戦でした。本作の気持ちのよいところは、決して一方的な論法で正義と悪を線引してそれを強制しないところでもあるんでしょうね。竜であるヴァラキアカとの激論も正義の押し付けではなく、お互いに自分の譲れないものと許容しえるものとのぶつけ合いであり、結果として相容れず戦うしかないという結論に至ったものの、お互いに大いに納得した上で相手を否定するためではなく、何としてでも倒さなくてはならないとしても、この上なく認めあった上での闘争でしたからね。確かに邪悪であり強欲であり俗な竜でしたけれど、ヴァラキアカはだからこそ非常に魅力的で堂々としていて敬意に値する実に格好良い敵でした。神代の竜として上から見下ろすのではなく、同じ舞台に立って戦った対等の敵でした。
最後の、ウィルに付与された竜の血による効果も、確かに呪いではあるんだけれど、同時にやっぱり祝福でもあったと思うんですよね。皮肉と嫌味に満ちた、挑戦状みたいな祝福ですけれど。うん、やっぱり呪いか。でも、憎しみや恨みというドロっとした感情は微塵も感じないんですよね。せいぜい、嫌らしくも意地悪げな竜の笑みが透けて見えるような、そんな呪い、という感じで。
ヴァラキアカが認めた英雄であり続けるなら、呪いは呪い足り得なず祝福となり続けるのでしょう。ほんと、やらしい竜だわなあ。これに比べると、不死神さまはだいぶ素直というか、ストレートですよね。

いずれにしても、文句なしに面白い最高のヒロイック・ファンタジーでした。

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