終奏のリフレイン (電撃文庫)

【終奏のリフレイン】 物草純平/藤ちょこ 電撃文庫

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「重力子」を操る特殊なオルゴール技術と、その粋である「歌唱人形」が一般化し、ついに「電気離れ」を果たした世界。“機械しか愛せない”壊れた少年技師・タスクがある日、出会ったのは―。
「わたしは、ガラテア・シスターズNo.7/リフレイン。今このときより、貴方の『花嫁』です」
歌唱人形技術、その始まりとなったオーパーツそのものだと主張する、美しき歌唱人形リフレイン。彼女を巡って事態は動き出す。追う者、追われる者、そして、恋をする者―。“機械しか愛せない”少年と“人間に近づきすぎた”少女型人形。ヒトでなしの人間と、モノでなしの人形の織りなす恋が、世界を変えてゆく―!?世界の歯車が音色を奏でる、旋律のギアハート・ファンタジー登場!
【ミス・ファーブルの蟲ノ荒園】の物草純平さんの新シリーズ。ってか前前作となる【ミス・ファーブルの蟲ノ荒園】第二部新大陸編は読みたかったなあ。と、まだ言の葉に乗せてしまう。ちょうど今期のアニメで【武装少女マキャヴェリズム】という剣戟バトルものがあるんですけれど、その古流剣術の術理をアクション表現描写に載せるにおいては、漫画では【武装少女マキャヴェリズム】。ライトノベルにおいては【ミス・ファーブルの蟲ノ荒園】が抜きん出てましたからねえ。あの示現流VS薬丸自顕流は今思い出しても鳥肌が立ちます。示現流という流派に抱いていたイメージが、あの作品で全部ひっくり返ったもんなあ。
さて、そんな物草氏の新作は、ミスファーブルと同じ絵師の藤ちょこさんと再びコンビを組んで、今度は自動人形でありますよ。人ではないもの。人には決してならないもの。あくまで機械であり血の通わない作り物の体の持ち主。そうであることに誇りがあり、機械であることに価値を抱く。人になりたい機械の話じゃない。これは人工物として在りながら心と魂をその胸に抱いた人形の話であり、そんな人形しか愛せない異常者の物語でありラブストーリーだ。
またも舞台はヨーロッパ。それも、かつてスイスであったあの永世中立国。スフィアと呼ばれる浮遊人口島の出現によって、技術的ブレイクスルーを経てしまった世界である。オルゴール技術というのがまた、何ともクラシックな雰囲気なんですよね。お陰で、時代背景またミスファーブルと同じ19世紀末かと最初の方勘違いしてしまいました。一応、現代なんですよねえ。ただし、歴史が狂っているせいで第二次世界大戦がちゃんと決着つかないまま強制終戦となってしまったために、大日本帝国は軍事国家のまま現代まで続いちゃってるし、ドイツに至っては第三帝国としての体裁こそ喪ったものの、国際舞台からは孤立したまま鉄のカーテンの向こう側にいる、という世界で、戦前の雰囲気がまだ延々と続いてるのである。一方で技術レベルではスフィアから脱出したオルゴール技術の模倣によって、完全に史実の現代を上回っていて、なんか月面都市とかあるし、火星にまで人類進出してるんですよね。宇宙時代到来してるんですよ。にも関わらず、この19世紀末の近代と現代の狭間の時代のような、第2次世界大戦直前のような国際緊張が常態化している国家間パワーゲームの渦中にあるような、或いはIFの戦後世界、第三帝国が現代まで続いてしまった仮想戦記的世界観が綯い交ぜになって現出しているかのような、この物語世界の雰囲気の素晴らしさたるや、なんかもう涎垂れてきそうw
そんな混沌の欧州に渡欧してきた日本人。この異邦人感がまたいいんですよ。現代だとヨーロッパ留学なんて珍しくも何ともないのですけれど、本作の世界だと日本ってまだ民主化してなくて国際関係の中ではドイツほどではなくても若干浮き気味みたいだし、経済発展もしてないようなので、現代みたいに気楽に海外留学とか出来てなさそうなんですよね。そんな中で、他に日本人の影がない中で一人渡ってきた日本人。ミスファーブルと似た構図なんだけれど、魔境めいた欧州で異邦人の日本人が世界の謎をめぐる騒乱に踏み込んでいく、というこの冒険譚の構図こそが、私大好物なんですよ。だから、本当に好き。もう大好き。こういうの、大好き。

ミスファーブルと違って、こっちの主人公タスクは自分で戦えるタイプじゃないんだけれど、その分頭がおかしいタイプで、ある種の覚悟を持った決断によって絶体絶命を打開し、どんでん返しへと持っていくタイプなんですよね。その頭のキレ、意思の強さ、決断の激しさ、容赦のなさが周りの人の心を鷲掴みにしていく若者なんだよなあ、これ。最初、覇気がない目立つ方じゃない控え目な主人公タイプなのかと思ってたんだけれど、彼の壊れた部分が危急の状況の中でどんどん苛烈さを増していくんですよね。ヒロインのリフレインはけっこうチョロい方なんだけれど、同時に人形としての在り方に頑なで、そうそうやりやすいタイプじゃないんですよ。もう一人のお嬢に至っては、完全に蛮族系ヒロインの類でその身分のわりに獣性が強すぎて、あれ手綱効く飼われるタイプじゃ全然ないんだけれど、そういう一筋縄でいかないヒロインばっかりなのを、あれだけ決然と動かせるというのは、相応の黒さと激しさがないと難しいと思うんですよね。少なくとも、優しさと柔らかさで包容するタイプとはまた全然違うんだよなあ。普段の態度はむしろ柔らかい方なんだけれど。
ラストバトルの、あのダイナミックな展開はアクションものとしても冒険ものとしても大満足。やっぱりヨーロッパの真骨頂は、空の戦いですよ。
ヒロインは、あのお嬢二人がなかなかいいキャラしてて、特にミーネの方は蛮族らしい荒っぽさが、単なる暴力ヒロインや活動的のそれと違って、野性味とレスポンスの良さ、感性の鋭敏さも相まって、相棒キャラとして非常に歯ごたえ在るキャラクターになってるんだけれど、何しろ主人公のタクスが生来の人形性愛者なんで、メインヒロインはリフレイン一択なんですよねえ。リフレインはリフレインで、あの心が在るが故に機械らしく振る舞おうとしてめっちゃボロでまくってるポンコツさが、凄く可愛らしくてメインヒロイン待ったなしなんですが、ミーネも捨てがたいんだよなあ。なんか、政略的にもズルズルと深い関係なっていきそうだし。リフレインが人形であることは揺るぎなく、タクスの方も人形以外譲れない以上、社会的な立場としてのパートナーの枠は空いたままなだけに、どうやらそっちの裏技はアリみたいなんだけれど。
親サイドからのアプローチではあっても、どうもミーネ自身も不満なさそうだしなあ。
一方で、この調子だとどんどんとガラテア・シスターズ出て来るみたいなんですよね。リフレイン、トロションがどおうのとか言ってる場合かw この人形、素でむっつりなんですけどw
今回の物語も、とびっきりにワクワクさせてもらいました。やっぱ、この人の作品、大好きですわっ、ヒーホウ!!

物草純平作品感想