奴隷エルフちゃんを英雄にプロデュースします! 崖っぷちから始める世界寿命の延ばし方 (MF文庫J)

【奴隷エルフちゃんを英雄にプロデュースします! 崖っぷちから始める世界寿命の延ばし方】 秋月煌介/水鏡まみず MF文庫J

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全世界で不規則に現れた“黙示録の獣”と呼ばれる怪物の存在により、人類は絶滅の危機に瀕していた。獣に対抗すべく二百年間、受け継がれてきた“英雄”の力により、世界はどうにか保ち続けていた。英雄の定めにより、一か月後には死が確定している現英雄、ヒューイ。死を目前にしても尚、やる気のない彼が自らの弟子に選んだのは、か弱い美少女の奴隷エルフ、フィオだった。呆れる周囲を他所に、当のヒューイはまじめに弟子の稽古をする訳でもなく…?
「あの、なんで私は膝枕をさせられているのでしょうか?」
「せっかく奴隷を買ったわけだし、なんかそれっぽいことしようかなって」
世界の全てを託された継承は一体どうなる!?最も無謀な英雄譚、開幕!
これ、崖っぷちは崖っぷちでも崖っぷちに立ってるんじゃなくて、すでに崖っぷちが崩落して滑落しはじめてる状態なんですけど、世界!!
わりと緩いタイトルに騙された。これ、絶滅戦争の末期戦だ。ウルトラハードモードだ。
そんな中で足掻く人類の希望たる英雄は、最初の時点でもう心が疲れ切ってるのである。それは、世界の絶望的な状況そのものというよりも、そんな中でも剥き出しにされる人間の愚かさや英雄一人に人類の命運が押し付けられる歪な在り方、何よりその愚劣さや歪みによって潰されてしまった弟子を救うことの出来なかった自分への失望感。
その挙句に、英雄の宿命としてすでにタイムリミットの秒読みが開始されてしまった己の寿命、という強制終了が突きつけられるわけである。始まった時点ですでに主人公の心が崖っぷち。うつろな目で崖下を覗き込んでるような状態なんですよね。
そんな彼の前に現れた奴隷の少女は、住んでいる村を破壊され、親兄弟や友人知人を皆殺しにされ、挙句奴隷として捕まって虐げられ、彼女もまた絶望に絶望を塗り重ねたような有様でありながら、最後の最後で生きることを諦められずに、足掻くことをやめられなかった子だったのでした。
そこに、ヒューイットは何を見出したのか。
二人の絶望はそれぞれに似て非なる種類が違うもので、だからこそお互いの存在が救済になっていくのである。本来ならそれは傷の舐め合い、特に徹底した自己承認の否定を押し付けられ続けていたフィオにとって、必要にされるという事と、放っておけばそのまま消えてしまうんじゃないかというような弱りきった男の背中を抱きしめずには居られないという庇護欲の発露から、依存めいた感覚を抱いていたようで、もしこのまま行けばヒューイにべったりと離れられない境地に陥っていたかもしれない。
だが、それを許してくれるような世界の有様ではなかったんですよね。そして、ヒューイの愛情は彼女を守るのではなく、独り立ちさせて自分の想いを受け継いでくれることを願い、そして彼の師匠としての信頼は弟子がすべてを背負ってもなおへこたれることなく歩いていけると信じたのである。
たった一ヶ月だけ共有した時間の間に育まれた、人類の存亡を背負えるだけの大切な大切な、揺るがぬ絆。
英雄は、弟子を通じて自分が孤独ではなく、たった一人で戦っているのでもなく、彼とともに肩を並べて、心を寄せて戦ってくれる多くの人の存在を、改めて知ることになる。それは喪われていた人類への信望を取り戻すことであり、倦怠と諦観の払拭であり、緩やかに死んでいた心の救済であったのだ。
心が死に、惰性の末に身体も死ぬのではなく、大いに生き、心健やかに戦った果てに、託して逝ける。死ぬために生きるのではなく、生きるために死ぬことの出来た英雄の最後の戦いなのである。
続編がこれ、託された側であるエルフちゃんが新たに主人公となっている変わった構成であることも非常に興味深いんですよね。いやいや、事前に想像していたのとは遥かに違う、しっかりとした歯応えのある物語でもあり、大変美味しゅうございました。

秋月煌介作品感想