やがて恋するヴィヴィ・レイン 1 (ガガガ文庫)

【やがて恋するヴィヴィ・レイン 1】 犬村小六/岩崎美奈子 ガガガ文庫

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「ヴィヴィ・レインを見つけて」

彼女の願いを叶えるため、スラム街の少年は旅に出る。限られた命を生きる人造の少女と、意志を持つ機械兵。滅びゆく王国の姫、性別不詳の天才操縦士、皇帝に捨てられた子ども……。
旅の途中、それぞれの傷を抱えた仲間たちと出会い、やがて少年は「災厄の魔王」と称され、楽園に支配された世界へ反逆の旗を翻す。
ヴィヴィ・レインを探す、ただそれだけだった小さな旅はいつしか時代のうねりとなり、世界を変革する戦いへ――。

傷だらけの少年少女が織りなす恋と会戦の物語、開幕。
「ヴィヴィ・レイン」とは何者なのか。そもそもそれは人なのか。
その答えの一端はラストに明かされることになるのですが、この引っ張り方と魅せ方が見事の一言でベテラン作家の妙が伺えるのです。
それにしても、主人公のルカ・バルカがまたイイヤツなんですよね。この子の境遇を考えるともっと世を恨む荒んだ凄惨な人間になっていてもおかしくないだろうに、ややヒネてはいるし外道働きも躊躇わないのだけれど、筋は違えないし理不尽に対して反骨心を喪わず、一方で立派な心持ちの人間に対しては身分の上下を問わず敬意を絶やさない。ちゃんと付き合うと、凄く気持ちのよい頼りがいのある少年だと理解できるだろう。
王女ファニアはそのへん、直撃喰らってしまったみたいだけれど、彼女を見舞う理不尽によって生み出された孤独の中で、彼のような真摯さはまさに霹靂だったんでしょうなあ。
だからこそ、ルカが自分にしてくれたことに対して全く報いれなかった事は、彼女を大いに傷つけることになるのである。ある意味、彼女が悲劇を受け入れる下地となってしまうのかもしれない、芽生えた恋心に対する彼女の無力感と罪悪感は。
一方で、ルカ自身はファニアに対して殆ど、いや一切恨み言は抱いていないんですよね。あれだけ献身しながら、報われなかったことに対して仕方ないか、と諦めている。ファニアのせいではなく、彼女が自分に出来る範囲以上で自分の立場を半ば悪くしながら自分を守ってくれようとしたことを知っているからなんだろうけれど、それでもこれだけ割り切れるというのは、それだけルカがさっぱりした人間だからなのか、それとも「期待」をしていないからなのか。
ルカの中で亡き義妹の遺言である「ヴィヴィ・レインを見つけて」という言葉が、それを叶えるという目的が何よりも重いからこその、拘泥の無さなのかもしれないけれど。
彼の敵は妹を殺した世界の理不尽だけれど、ファニアはむしろ自分側の人間、同じく理不尽と戦ってくれる、自分なんかよりもよっぽど世界を変えてくれる存在だと思ってるからこその割り切りなのかもしれないけれど。
その結末が、ファニアの見た未来図だとしたら、まさに悲劇だよなあ。尤も、あの夢の光景でルカが喋っていた台詞が、ファニアが捉えた意味なのかはまだ疑わしいけれど。
いずれにしても、エデンという天上の存在が地上の戦争を娯楽として楽しみ、地上の王族・貴族たちがエデンからもたらされた玩具を手に自分たちのルールで戦争に興じ、そして最底辺の民たちがそれらのしわ寄せを一気に背負わされている、という理不尽の多重構造がこの世界の枠組みなわけだけれど、この物語はまさにその理不尽の枠組みを破壊し尽くす革命の物語になりそう。であるのだけれど、それが痛快な話になるか、というとそうは問屋がおろさない、って感じではあるんですよねえ。
あの巨大な人型兵器が、軍勢がぶつかりあう戦場を闊歩するという重厚感ある構図は非常に好みで、ワクワクさせられたのではありますが。ちゃんと人型兵器が、重力と重量を感じさせるズシンズシンという足音や関節がギシギシ鳴る音が聞こえてくるようなシーンは、ほんとイイですわー。
うまくすれば生身の人間が人型兵器に取り付いたり引き倒したりして、乗り込んでいる騎手を引きずり出して乗っ取ったりできる、という展開も。人型兵器が絶対無敵すぎないんですよね。それがまたいい。
ちょっと出遅れたものの、早いところシリーズ最新刊まで追いつきたいところ。

犬村小六作品感想