霊感少女は箱の中 (電撃文庫)

【霊感少女は箱の中】 甲田学人/ふゆの春秋 電撃文庫

Amazon
Kindle B☆W

「おまじないを誰かに見られたら、五人の中の誰かが死ぬ」
銀鈴学院高校に転校してきた少女・柳瞳佳。前に心霊事故に遭遇し退学処分となった瞳佳だが、初日から大人しめの少女四人組のおまじないに巻き込まれてしまう。
人が寄りつかない校舎のトイレにて、おそるおそる始めたおまじない。人数と同じ数を数え、鏡に向かって一緒に撮った写真。だが、皆の画面に写っていたのは、自分たちの僅かな隙間に見える、真っ黒な長い髪をした六人目の頭だった。
そして少女のうちの一人、おまじないの元となる少女が、忽然と姿を消してしまい……。
少女の失踪と謎の影が写る写真。心霊案件を金で解決するという同級生・守屋真央に相談することにした瞳佳は、そこで様々な隠された謎を知ることになる──。
ひぃぃん、怖いよう怖いよう。
うん、ヤバい。夜一人で読んじゃいけません。まじやばいです。ノロワレシリーズはそこまで怖くなかったんだけれどなあ。原点回帰と言いましょうか、デビュー作【Missing】以来の学園ホラーとなる本作。【断章のグリム】は学園モノとはちょっと違っていましたからね。いや、その意味でいうと【Missing】はあれはあれで振り切れすぎていて、非現実感が常態化してしまっていた感があるので、むしろ真っ当な学園ホラーものとしては本作が初めてなんじゃないだろうか、とすら思ってしまう。登場人物もみんな霊能者系も含めてマトモな人間ばかりですし。
でもね、マトモであるからこそ「闇」が濃くなることだってあるものなのだ。マトモであるからこそ、「闇」が濃く見えることだってあるのだ。
むしろ王道の、正統派な怪奇譚だからこそ、それを甲田学人というホラー小説の鬼才が手がけてしまうと、本当にヤバいものになってしまうのである。ってか、なってしまってるんだこれ。

箱、怖い。

もうなんだろうね、この情景描写の迫真性は。否応なく脳裏にイメージを思い浮かべてしまうこの強制的とも言える表現力は。同じ怪談でも、語り部の語り口の上手い下手によって怖さが全然違ってくるものだけれど、このジワリジワリと恐怖心を沸き立たせつつ、冷静さを削り落としていきながら、ふとした隙をつくようにしてギュッと精神を絞り上げるような「ナニカ」が起こるわけですよ。この間のとり方とか、絶妙すぎてもうヤバいの。
読んでる側の心理の動きを読み切っているかのようなタイミングで……。
洗面所がもうヤバい。鏡とかはある意味定番だけれど、まさかそこかよっ、という。あのシーンの鳥肌の立ちっぷりときたらもう……。

ヤバイんですよ。

今回に関してはストーリー展開も絶妙と言っていい構成で、真相の塗り重ね方が思わず呻いてしまうようなそれで、必死によじ登った絶壁をあがりきった途端に突き落とされたような感覚で。

救いがない。

あまりにも救いがない。何が一番救いがないかって、当人たちが救われることを一切望んでいないことなのでしょう。彼らは、自分たちが絶対に救われてはいけないのだと決めている。それは諦めでも絶望ですらもなく、決然とした贖罪として、一切の救いを、救済を、拒絶しているのです。
自分は呪われ尽くした挙句に狂死すべきなのだと、静謐なまでに思い定めている。
互いの生き方と終わり方を知った二人の、あの静かに見つめ合う姿。この世に唯一の同胞を得たかのような、無音の共感。あのシーンを見た時の、あの気持をなんと言い表すべきか。
悲しくも、切なくも……しかし、二人がその最期まで孤独であり続けるのではなくなったのではないか、という安らぎにも似た心地を。

メインとなる守屋真央と柳瞳佳を始めとして、主要な登場人物は癖はあっても根本的なところで真っ当で善良で優しい心根の持ち主なんですよね。どこか常軌を逸した面を隠しているわけでもなく、コミュニケーションに不便を来すほどひねくれているわけでもなく、それぞれふとした瞬間にみせる気遣いや、親切や、優しさ、正しい怒り。危急の場だからこそ本性が見える、なんて説にはあまり同調しないんだけれど、そこでそんな気遣いが出来るのか! という場面が幾つかあって、ああこの人、本当に良い人なんだ。と噛みしめるように感じられるからこそ、余計に辛いんだよなあ。
守屋真央と柳瞳佳。この二人の無辜の咎人の行く末がどうなるのか。出鼻からグイグイ引き込まれた挙句に、あのラストですからね。そりゃあ気になるどころじゃないですよ。
【断章のグリム】に匹敵する傑作となることを期待したいです。

甲田学人作品感想