ぼんくら陰陽師の鬼嫁 二 (富士見L文庫)


【ぼんくら陰陽師の鬼嫁 二】 秋田みやび/しのとうこ 富士見L文庫

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野崎芹は陰陽師・北御門皇臥と契約結婚をしている。彼の式神が視えたことで見初められ、生活上の利害の一致から決断したのだ。だが、かつての時代の公務員たる陰陽師一家の家計は厳しかった!それも皇臥が怪奇な事件が苦手なぼんくら陰陽師だったからで…。そこで芹はプロの嫁として、持ち前の機転と旦那使役スキルで依頼を解決。すると今度は姑から、結婚のお披露目を迫られる!さらに友人からは悪霊に憑かれたという相談事が舞い込んで…?前門の霊、後門の姑な退魔お仕事仮嫁語、待望の第二弾!
今どき大学生の娘さんが結婚した! となったら、同級生たちはそりゃあ「うはぁ!」ってテンションあがるでしょうなあ。ってか、結婚したこと隠さずに友達にも伝えてたのか。てっきり契約結婚なんていう話なんだから、芹にしても皇臥にしても必要がなくなったらとっとと契約解除する心づもりなのかと思ってたんだけれど、二人ともあんまり契約解除のことに関しては考えてない気がするんだが。契約だろうがなんだろうが、ちゃんと婚姻届出しちゃって正式な夫婦になっているわけで、芹側は友人にも知れ渡っているし、皇臥の側も近々親戚や弟子一同に紹介する流れになってってるし、これもうそう簡単に契約解除、即離婚、とか出来ないですよ。
お互い、現状に一杯一杯なせいか後のこと全然考えてなさそうだけれど。これは考えなしというよりもむしろ、芹と皇臥の相性良すぎて、今の関係しっくり行き過ぎているのも元凶なんでしょうなあ。この前まで他人だったにも関わらず、熟年夫婦みたいに馴染んじゃってるし、ここまで馴染んでると契約解除のこととか忘れてるんじゃないだろうか、ってなくらいで。
ただ、いきなり熟年夫婦になってしまった分、恋愛という過程を踏んでいないだけに、まあ結婚したとなるとやがて後継者問題というのが出てくるのを果たしてどうするのか。
何しろ今回の話ときたら、見方によっては子供の教育方針をめぐる夫婦喧嘩みたいなもんですもんねえ。
祈里にしても護里にしても、そして新たに登場した錦にしても、北御門の式神たちは精神年齢的にもまさに子供ですし。って、一応ちゃんと大人な式神たちもいるのですが芹にべったりな式神たちはみんなお子様ですからね。それを芹も本当にかわいがっていて、式神たちを家族のように捉えている。もし、契約結婚が皇臥と一対一の差し向かいのものだったら、ここまで彼と馴染んでなかったんじゃないだろうか。祈里や護里たち式神たちを家族として認識し、それらをひっくるめて北御門という家の嫁としてやっていくんだ、という意識があったからこそ上手くいったような気がします。姑さんへの対応に関しても、それを含めて北御門の家だから、という認識があったればこそ、じゃないかなあ。あのお義母さんが全然陰湿になれない人だからというのも大きいのでしょうけれど。お義母さん、そのイビリ、意地悪は姑さんがする類いのものじゃなくて、小学生低学年くらいの妹が大好きなお兄ちゃんに突然出来たお嫁さんにやるような他愛もないイタズラすぎて、むしろ可愛げがありすぎますってな。本人が必死な分、尚更に。
芹が逞しくて、お義母さんの意地悪にまったく動じてないどころか、むしろやり返してる、というところもあるのでしょうけれど、お義母さんやられ返されても逆ギレしたり、怨みをつのらせたり出来なくて、普通に悔しがってしまう人の良いさを感じてしまうなあ。

さて、さんざんボンクラ呼ばわりされてしまう旦那さんですけれど、今回は苦手な荒事にも関わらず、嫁さんの友達が困っているということで本来なら断る案件に首を突っ込んでいくことに。旦那として、嫁さんのメンツを潰させないために、学校での芹の評判を落とさないように、という気遣いと男気を感じさせる決断ではあるのですけれど、まず前提として苦手なことからは尻尾巻いて逃げるのが常態化していた、というのがあるだけに、素直にカッコイイとは思えない不思議。いやでも、ヘタレが嫁さんのために勇気出して頑張ろうとしているのだから、芹としてもまあ悪い気はしないのです。なかなか厳しい言を申しておりますが、芹もまんざらじゃなさそうでしたしね。
それだけお互いのことを考えられて、気心が知れたからこそ、本気でぶつかれる、喧嘩できるということもあるのでしょう。単なる契約、ビジネスライクなら喧嘩なんて出来ないですよ。それも、式神のことでなんて。
式神を子供のように、人間と変わらぬものとして扱っている芹と、本心はともかくとして陰陽師として式神の扱い方を割り切らないければならないと考えている皇臥とでは、いつか出るだろう齟齬と対立点がここで噴出してしまった、ということなんでしょうけれど、皇臥がぼんくららしく陰陽師に徹しきれずに彼自身式神たちのことを可愛がっているのがまああからさまなので、陰陽師の言い分としては皇臥が間違っていないにも関わらず、明らかに皇臥の方が分が悪い様子になっていたのは、さすがボンクラというところなのでしょうが。でも仕方ないね、祈里カワイイもの。
でも、それで言を翻したり、芹に妥協せずに陰陽師としての理であり、式神への責任をあっさり放棄せずに譲ることをしなかった皇臥は、幾らぼんくらであっても立派な陰陽師なのでしょう。この点は誉めて然るべきなんじゃないかと。一方で、家族のパパとしてはそこで冷徹に徹してしまうのは家族の破綻をもたらしてしまうわけで、人間が出来てたり巧みだったりする人はうまいこと公人としての立場と私人としての立場を使い分けて妥協点を作り出すんだろうけれど、皇臥がそれが出来るほど器用な人間なら、契約嫁とか取る必要なんかなかっただろうし、嫁や世間にぼんくら呼ばわりされてないよなあ。
だからこそ、北御門の生命線は「式神」なんでしょうなあ。この時、皇臥の公人と私人の間を取り持ってくれたのも、家族としての振る舞いの間を取り持ってくれたのも、皇臥が生み出した式神である錦くんなんですよね。
彼のお説教は、式神として主人である皇臥の不見識を叱るものであり、同時に家族の中のお兄ちゃんとして、姉だけれど妹となる祈里を庇い、父親の無神経さを怒るものでした。錦くん、落ち着きのないうるさい糞ガキの末っ子だとか思っててごめんなさいだよ。ちゃんと家族のことをよく見てよく考えてくれてるしっかりしたお兄ちゃんじゃないか。
式神としての機能、能力云々ではなく、これだけよく人間の出来た人格を持った式神を生み出せる、という一点において、皇臥の陰陽師の能力は捨てたもんじゃないんじゃないだろうか。
まあ、皇臥の作った式神たち、祈里、護里、錦が揃って子供メンタルなのは、他の昔からいる式神たちがちゃんとした大人なのに比べると、まあアレなんだけれど。でもいいんだよ、可愛いんだからみんな。子供は可愛い、これ正義。
いや本当にもうお子様式神たちが可愛くて可愛くて、芹じゃないけれどもう愛でるよねえ、これ。結構本格的な怪談調、ガチの霊障で、クローズドサークル気味の舞台であったのも相まってホラー風味だったはずなのだけれど、そんなに怖い雰囲気にならなかったのは、式神たちの可愛らしさと頼もしさにあったんでしょうなあ。


一巻感想