ヴァルハラの晩ご飯 (2) ~オオカミとベルセルクの野菜煮込み~ (電撃文庫)

【ヴァルハラの晩ご飯 2.オオカミとベルセルクの野菜煮込み】 三鏡一敏/ファルまろ 電撃文庫

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イノシシのセイです! 前回世界樹を倒壊の危機から救って主神オーディンさまから英雄認定されたけど、結局ご飯になって生き返る毎日は相変わらずです……ひどいや! まあブリュンヒルデさまはじめ、戦乙女9姉妹との距離が近くなってきた(気がする)のは嬉しい限りだけどね! ヤッタ―! でも最近『選ばれし人間の英霊(エインヘリヤル)』たちに妙な空気が漂ってるし、オーディンさまの機嫌も悪い気がする……何でだろう?
そんなある日、戦乙女(ヴァルキューレ)9女のロスヴァイセさまが巨大な狼へ変身する神技を失敗したショックで引き篭ってしまわれた。《狼のことは狼に聞け》。そう考えたボクは、一吠えで島一つを吹き飛ばすという魔狼"フェンリル"に会うべく、ブリュンヒルデさまたちと共に出発する。待ってて下さいロスヴァイセさま! あなたの心は、このボクが救ってみせます!

一巻からこっち、フワッとしたハートフル系の話だと思ってたら、なにやらずんどこ怪しい雰囲気になってきましたよっとな。基本的にヴァルキューレ姉妹たちはみんないい娘たちばかりであり、主人公のセイも素朴な倫理観に準じている子のためか、彼女たちと戯れているときはキャッハウフフな和やかというか甘酸っぱいというか、ややも下心もありなセイくんと戦乙女娘さんたちとのラブコメを素直に楽しんでいられるのです。それに、周りの同僚たちや神様たちも基本良い人ばかりなので、不穏な空気なんて感じられないはずなのですけれど……。
これが、神の世界。このオーディンを主神とするヴァルハラの秩序に基づく規範や理念に触れることになると、途端にヤバい領域にツッコんでくるんですよね。というのも、セイくんがある意味純朴すぎて、当たり前の倫理観を神々の権威などに揺るがされないというところにあるのでしょう。オーディンが決めたルールや、神々が正しいとした選択、結末に対して反抗しているという意思すらなく、え?でも普通に考えてこうじゃないのかな。こうした方がいいんじゃないかな。こうした方が喜ばれるんじゃないかな? とこれはもう無視に等しい意識で易易と突破し、良いと思ったことをやっちゃうんですね。これ、独善とかそういうんじゃなくて、本当に素朴な正しさであって、むしろ理不尽なのは既存の在り方の方なので、それを問われた周りの人たちも思わず黙っちゃうのですよ。ロト神はともかくとして、決してルールに対していい加減ではなく秩序に忠実なブリュンヒルデがぎゅーっと目を瞑ってしまったのはあれ、単にセイくん可愛さに血迷っただけではないのでしょう。いやまあ多少、のぼせてるフシがないでもないですが。
ロト神と違うのは、ロトの方は自覚的に反逆行為、ルール破り、秩序に喧嘩売ってる、という意識を持った上でやらかそうとしているところで、だからこそロトの方からセイに対して一目置いているところがあるんだろうなあ、あれ。無自覚ほど凶暴なものはない、と。
息子であるフェンリル狼が、あれだけ誑し込まれてしまったのを目の当たりにしてしまったわけですし。ただ、基本良い奴っぽいロトなんだけれど、根があれだけトリックスターであることだし、何より今回のベルゼの変貌の仕方を見ると、これまでの姿から突然ガラッと変わっても何もおかしくない、という作品の展開上の前例が出来てしまっただけに、ラストで未知の現象を目の当たりにして色々と察したロトが何か思惑を抱いている様子なんざ見せられてしまうと、果たしてこのまま味方でいくのかどうか信じられるかどうか、という疑念が。
と思うところでもあるんだけれど、何しろ主神のオーディンが一番胡散臭いというか、器が小さそうな側面が今回色濃く魅せられてしまったからなあ。フェンリルと友達になってしまったように、むしろセイの方がどっちにつくか、という展開もありそうな感じだし。
そもそも、セイの正体がそこまで未知係数高いものだったとは。ってか、あのラストの展開なにげにえげつなくないですか? よく考えたら、死んでも復活する不死だの完全蘇生能力とかそっち傾倒の能力は多々見受けられるけれど、死んだらその死体は残ったまま新しい肉体で復活する、って無茶苦茶もいいところですよね。あんまり聞いたこと無いぞ、そんな能力。

とまあ、話の核心の方は不穏な空気が流れつつあるのですが、もう一方のメインであるヴァルキューレたちとのラブコメの方は安定の流れで、セイくん小動物な見た目利用してちょっと美味しい真似しすぎじゃないですかね? 人間形態になったらなったでショタっぽいし。そりゃあお姉さんたちに大人気だわ。
ブリュンヒルデ姉様、末妹ロスヴァイセの恋を無理やりなかったことにしてセイくんキープしようとしているの、けっこう鬼畜な所業ですよねw

1巻感想