幻獣調査員2 (ファミ通文庫)

【幻獣調査員 2】 綾里けいし/lack ファミ通文庫

Amazon
Kindle B☆W

伝説の悪竜に攫われた村娘。その御伽話にも似た事態の真相とは―。かつて海豹乙女を嫁にもらった老人。だが人と幻獣の結婚の先にあったのは…。第一種危険幻獣の中でも伝説級に該当する生物ヒュドラ。行く手を全て毒に染め、不死の体を持つヒュドラを倒すには幻獣、それも「火の王」の炎が必要だという。フェリ達は王都が保護していた“勇者”を連れて「火の王」の元に赴くことになり―。人と幻獣の関わりが生む残酷で優しい幻想幻獣譚、第二集!
あの幕間の醜い怪物と美しい女王の話にはやられたなあ。あれほどシンプルな話でありながら完全に持っていかれてしまった感がある。第7話のヒュドラの話で出てきた「あれ」になんの疑問も抱かなかったんだもの。その直前のめでたしめでたし、に本当にうまいこと意識を誘導されていただろう。まさかまさかのことであったと同時に、それが意味することにもう胸を打たれてしまって……。
運命とは斯くの如く、か。はたして、クーシュナとフェリが出会ったように、この世に使命持って生まれてくる王様たちに、与えられた使命ではなく自身の体験と意思によって選択を得るために、大事な出会いが待っているというのは運命的とも言えるし、運命の軛から解き放たれているとも言えるし、なんとも不思議な感覚である。
それにしても、フェリは前回にもましてこう、クーシュナが我が花と一途に愛するだけの魅力が増していると云いますか。一巻でももう凄い魅力的な女性であったのですけれど、ここまで来るともう聖女様ですよね。それも神秘的で近寄りがたいという類のではなく。人と幻獣の両方を護るという理想に殉じながらもしっかりと現実を直視して粘り強い対応を見せる強かさも然ることながら、なんかもう生き方が美しい。芸術品のような飾り立てて引き立つ美しさじゃなくて、自然界の野生の動物のような精悍な美しさというべきか、荒野に毅然と咲く花の如くと言うべきか。そこに女性らしい柔らかな靭やかさが備わっていて、もうフェリの一挙手一投足が凄く綺麗。ここまで来ると浮世離れした遠い存在になってしまいそうなのだけれど、ここでトローとクーシュナとの暖かな関係が効いてくるんですよね。
このホムンクルスの小さなコウモリと闇の王様と、フェリとの三人の関係。これが、彼らが遭遇する人と幻獣との様々な、悲しく楽しく滑稽だったり優しかったり残酷だったりする物語に、傍観者でも外から余計な手を入れてくる部外者でもない、ここに一つの人間と幻獣との揺るぎない関係を築いている同じ当事者として、それぞれの物語の中に飛び込み寄り添う意義を持たせているんですね。
人間と幻獣とは確かに違う生物であり、それぞれのルールの中に生きていて、そのルールそのものが行き違うこともある。時として、それが惨劇や悲劇を生むこともある。正しくは住み分けすべきものなのかもしれない。それでも、時として住み分けして生きる領分を隔て、時に最大限の配慮を交えて共に生きる道を選ぶことを導くのが、幻獣調査官、幻獣調査員の仕事なのか。その領分の判断は、同じ幻獣調査官や調査員の中でも食い違ってくる各個人のものなのだろうけれど。
その中でも、フェリは……。時として人と幻獣の間に何の区分も必要ないことを信じている。それは幻獣に家族を殺され、幻獣そのものを憎む親子に見せたあの「景色」が示していて、そして同時に彼女が七話で宣言したクーシュナを愛していること。クーシュナに愛されていること。人として幻獣としてではなく、ただフェリとして彼を愛し、クーシュナとして彼女を愛している、その事実を以って生き様を体現している。
その生き様に根ざしたフェリの在り方が、折々で見せる喜怒哀楽が、トローやクーシュナに見せる愛情が、本当にもう綺麗で、美しくて、胸をひきつけてやまないのである。
もう魅了されてしまった、と言っても過言ではないかもしれない。闇の王様クーシュナがあれだけ溺愛してしまうことに、かつてないほどに共感している。小さな騎士トローがあれほど一途に彼女に尽くしている姿に、共感を覚える。
彼女こそ、いつまでも見つめていたい花である。

1巻感想