なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 旦那様の専属お菓子係、はじめました。 (ビーズログ文庫)

【なんちゃってシンデレラ 王宮陰謀編 旦那様の専属お菓子係、はじめました。】 汐邑雛/武村ゆみこ ビーズログ文庫

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王太子餌付け作戦甘さ増量で進行中!! 転生幼妻(@33歳)の奮闘第2弾

夫の胃袋をつかむべく、日々おいしいお菓子を作る12歳の幼妻アルティリエ(中身は33歳)。
政略結婚の夫との間には、恋愛感情なんて生まれるはずもないと思っていたのに、彼は案外独占欲が強かったようで!?
そんななか、王妃主催のお茶会に招かれたアルティリエは、その席でまたも命を狙れ……!?
夫の愛情と共に危険も増量!? 元お菓子職人の餌付け計画第2弾!
そこで終わるんかー!! ウェブ連載読んでるので、一応先行きの展開は知っているのだけれど、これ初見でここで終わられるというのは凶悪極まるなあ。
ナディル殿下、事実上国政を仕切っていて現王国の執政みたいなもので、その政治手腕、軍事手腕、外交手腕から宮廷の掌握の仕方に至るまで完璧超人、外面もいいだけに一般的には人格的にも穏やかで優しい人物、みたく思われているのだけれど、今回彼の身近な人間、弟や幼馴染の側近たちから見たナディル殿下について多く語られているのだけれど、聞けば聞くほどヤバいというか極まっているというか、かなり面倒くさいヒトなんですよね。
王太子として、というか公の人間としては実際に完璧に近いのだけれど、だからこそか、王族、王太子、次期国王という機構そのものに近い存在になってて、もはや人間じゃないんじゃないか、という在り方を徹底している一方で、何気に結構ネガティブな感情についてはほとばしらせている節もあり、かなりこう危なっかしいのyね。興味がなかったり自分に関係なかったら、ちょっとどうかと思うほど徹底して無関心であったりするし。
アルティリエが初対面でナディルに本能的に怯えたのも理由がないではないと思うのである。
こうした、いびつなシステムのような人間にナディルがなったのは、生来のものではなく紆余曲折、波乱万丈な、本来王位を継ぐはずのなかった父親があまりにもあり得ない過程を経て王位を継がざるを得なくなった、という誰も、当人も、家族であるナディル含めた子供たちや奥方の誰ひとりとして望まず、考えてもいなかった形での王位継承が、今の彼を形成する要因となってしまったわけだけれど、それをアルティリエが変えていったのか、それとも変わってしまっていたのをもとに戻していったのか。
あれだけ仲の良い兄弟たちでさえ、ナディルの闇を払えなかったことを考えると、弟妹たちはナディルによって守られ育てられ導かれてきた、という庇護下にあったが故に対等ではなかった、と見るべきなのだろうか。アルティリエもまた庇護下にある、という意味では一緒なのだけれど、姫さんって守られているという自覚をしっかりと持った上でナディルと対等に接してる、という風に見えるんですよね。
餌付け、というわかりやすい手段を取りつつも、単に美味しいものを食べさせて釣ってるのではなく、ちゃんとナディルの身体のことや環境、事情を踏まえて食事を提供している。そこには深い知見と聡明さ、自分の意見を一方的に押し付けるような我儘さはなく、しかし理路整然としてナディル殿下に納得を与える言で意見を述べるだけの強さも持っている。殿下、話が通じない子供が大嫌いなんだそうだけれど、アルティリエとはまったく逆に見事に意思も言葉も愛情も噛み合ってるんですよね。殿下からのわかりにくい思いやりも、完璧に伝わってるし、アルティリエに伝わっていることもアルティリエ自身の思いやりと共にしっかり殿下に伝わっている。このあたり、もう恋人通り越して夫婦感すら感じられる慈しみの相関が成ってるんですよねえ。
それは、常に孤高であった王太子の比翼となり得る存在の出現である。弟たちや、親友たるフィル・リンがアルティリエの存在とその意味を知った時の、あの歓喜とナディルから彼女を喪わさせてはならない、という決意の重さも、ナディル殿下の闇の深さを知ってしまうと凄く納得してしまうんだなあ。

そんなナディル殿下のそれよりも、深く重く苦しい闇が、この宮廷には横たわっている。それは奥の院に蔓延する女の嫉妬や悪意という感情的なそれが可愛くみえるくらい、必定であり、逃れ得ない拘束具であり、歴史の淀みであり、汚泥のようにまとわりついて離れないものであることを、これからアルティリエは思い知り、それと直面し、対決することになる。
宮廷ロマンというジャンルにおいて、このあたりの人の闇をどれだけディープに書けるかが、一つの境界なんだろうなあ。

1巻感想