数字で救う! 弱小国家 電卓で戦争する方法を求めよ。ただし敵は剣と火薬で武装しているものとする。 (電撃文庫)

【数字で救う! 弱小国家 電卓で戦争する方法を求めよ。ただし敵は剣と火薬で武装しているものとする。】 長田信織/ 紅緒 電撃文庫

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頼れるのは数字だけ! 読めばちょっとだけ『かしこさ』が上がる(!?)、救国戦記ファンタジー!
小国ファヴェールの王女・ソアラは悩んでいた。隣国との緊張が高まり、戦争の気配がちらつき始めた今、国力が低い自国を守るにはどうすればよいか。父王は病に倒れ、頼みの綱の家臣たちも、前時代的な「戦いの栄誉」ばかりを重視し、国を守る具体案を誰も持たないまま。このままファヴェールは滅ぶのか……。しかし、そんな時、彼女の前にある人物が現れた。《ナオキ》――後の歴史に《魔術師》の異名を残したその青年が扱う『数字』の理論と思考は、ソアラが求めた「国を救うための力」だった……! 異能ナシ、戦闘力ナシ、頼れるのは2人の頭脳だけ……! 理系青年と、敏腕王女が『戦争』という強敵に挑む『異世界数学戦記』、ここに登場!
学者に政治が出来るか! 戦争を仕切れるか! 理論を現実は違うだろうが!!
と、言いたくなるのが心情ってものです。数式で実際の戦争を望むように動かせるなら、こんな簡単な話はない。
だからこんな数式だよりの戦争指導なんて、理論倒れになるだけだ、非現実的だ……と、思いたいですよね。
でも、実際は。実際は人が思う以上に数字というのは絶対的で、数字によって導き出された法則はゆるぎがなく、数字によって出された結論は間違っていないのです。
そう、数字は圧倒的なまでに正しい!! 
戦争における数字もまた絶対的で、複雑で入り組んだ近代に至る時代以降の戦争になればなるほど、その複雑怪奇な現実を理論づけて紐解いていく数式というものは威力を発揮することになるでしょう。
WW兇澆燭い柄輓論錣覆鵑討發里呂修虜任燭襪發里如▲▲瓮螢やイギリスなどの数字に基づいた戦争指導、国家運営の徹底ぶりは身震いするほどのものがあり、極論すれば日本などは数字の扱い方においてこそ圧倒的な敗北を喫した、と言っていいのかもしれません。
しかし、だがしかし、絶対的に正しいはずの数字が戦場を、戦争を、国の行く末を完璧に導いてくれるかというと、そうは問屋がおろさない。数字と現実にはどうしたって齟齬が生まれてきてしまう。数字は絶対なのに、それはなぜなのか。
簡単である。数字を扱うのが、数式を担うのが人間だからだ。その数字によって導き出された方程式に従うのも運用するのも人間だからだ。そしてなにより、数式に代入すべき情報を取り扱うのも人間だからである。
どれほど数式が完璧であっても、その計算式において本来あるべき数字が欠けていれば、答えはファジーになってしまう。近似値になっても、絶対的な正解とは言えなくなってしまう。足りないどころか間違った情報という数字を入れてしまえば、絶対的に間違ってすらしてしまうのだ。
そして、現実における情報というものを、まったく逃すことなくすべてを完全に収集して計算式に投入することは不可能だ。どこかで、齟齬が出る。間違いが起こる。足りない部分が出て来る。
そしてなにより、人の心の動きを数値化するのは非常に難しい。
戦争をやるのは機械ではない、人間である以上、すべてを計算し切るのは困難に等しい。面白いことに、人が集団になるとそれはそれで、理論化して式を以って制御できなくもないみたいなのだけれど。
でも、それが個々人の心情となると、果てのないものになってしまう。
本作はこれ、意図的にそのへん、取り上げているのかいないのか、微妙に判断しづらいところがあるんですよね。
いやうん、王女ソアラとナオキが見事に人心の掌握に失敗した上に、その可能性をまったく計算しておらず、結果として当初の予定と目的が盛大に破綻してしまったのをみると、きっちりそのあたりの理論と現実の齟齬についてスポットをアテている、とも思えるのですが、それにしてはソアラにしてもナオキにしてもあんまり反省している様子が見えないというか、自分たちの言動がまったく周りの人間の気持ちを慮ってないどころか、無神経極まるやり取りで踏みにじっていたのを、さほども省みていないようなのが、こいつら本当にわかってるんだろうか、と不安にさせられるんですよね。理論を確立するのが学者でしょうけれど、その理論の通りに人を動かすのが、指導者ってなものでありましょうに、それにけっこう失敗してるっぽいんだよなあ、この二人。
正しさは、人を付いてこさせる要因にはなり得ないのだ。正しさで殴っても、人は何も納得などしない。たとえ理解したとしても、受け入れるとは限らない。
ソアラ姫なんて、冒頭で散々古参に家臣たちのヘイトを溜めまくってましたもんねえ。お前たちは間違っている、と辛辣にダメ出ししておいて、でも自分は代案を出せない、というのなんか、なんやねんこいつ、ってなるに決まってるもんなあ。
ナオキの登用の仕方なんて、奸臣の侍らせ方の最たるパターンで、最悪もいいところなんですよね。あ、この国もうあかんわ、と普通なら思っちゃうくらい権力の濫用で。ナオキもその辺に関しては極めて無頓着ですし。仕方ないんですけど、彼の場合学者で学生で一般人で、政治だのなんだのとまったく縁のない人生でしたしね。
いやしかしもうこれ、わざとなんだろうか、と悩む悩む。これらの問題が、まったく放置されているのなら書いてる側が彼女らのそれを問題として認識していないのか、とも思うのですけれど、実際は彼らの自覚のない問題点がわりと彼らを躓かせ、すっ転ばせる要因にちゃんとなってたりするだけに……、でもやっぱり当人たちはその問題をなんとかクリアしたり、違う方向から解決したりする一方で、肝心の問題点についてはやっぱり無頓着っぽいままなのが、わざとそうさせているのか気になるわけで。
これ、続くとしたらもっと途轍もない大失敗を二人がやらかしてしまう伏線なんだろうか、うむむむ。
とりあえず、敗戦を覚悟して受け入れて最後の思い出づくりに別の覚悟キメて勝負下着キメてきた女の子を、その格好のまま一晩中泣くまで計算させるという鬼畜な所業をしているようでは、人心を掴むとか難しいよね!

長田信織作品感想