ウィザーディング・ゲーム (角川スニーカー文庫)

【ウィザーディング・ゲーム】 岬かつみ/ 彩樹 角川スニーカー文庫

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Kindle B☆W

「オーバーロード、《魔法仕掛けの新世界(ウィザーディング・ブレイドワールド)》!!」

新世代ARゲーム『ブレイドワールド』が実装されたAR遊戯都市。そこに暮らす無職王アーサーは、上位ランキングを独占する最強ギルド“円卓の暇人”(ニート・オブ・ラウンド)の団長にして、不動の1位に君臨していた。しかし“魔法使い”(カレルレン)を探す少女アリアと出会い、アーサーと円卓の仲間たちはARCANA(アルカナ)の力に目覚め!? 現実を侵食する拡張現実の“魔法使い”による、オーバーテクノロジー魔法バトル!!

フルダイブ型のゲームとはまた違う趣が、AR―拡張現実型のゲームにはありますなあ。全く別の世界に転移してしまったように遊べるフルダイブ型と違って、ARは現実に仮想を重ねることで展開するもので、だからこそ余計に現実と仮想の境目が曖昧になってくる。存在しないのに、本当にそこに在るかのように感じてきてしまう錯誤。
果たして、それが錯覚ではなく実際として仮想の領域を超えて現実へと侵食してきたのならば。
前提となる条件が、フルダイブ型を使ったものとはまた異なる上に結構難しくはあるものの、物語の発展方向としてARタイプはまた全然異なった可能性を有しているように思う。もっと増えてもいいのにね、ARを主体とした作品。
本作は、まさにそのARタイプのゲームを扱った物語であると同時に、現実の世界が仮想に侵食されていく、登場人物たちが仮想上の能力を現実の世界でも扱えることに気づいていく物語である。
惜しむらくは、いや別に惜しんでいるわけじゃないんだけれど、主体となるARゲームはあくまで主人公に与えられた能力によって生み出されたもので、現実を侵食する魔法そのものは、ゲームとは全く関係なく存在しているということか。主人公以外の登場人物の能力は、実のところゲーム関係なかったりしますしね。
あくまでARゲーム『ブレイドワールド』は、アーサーが幼馴染を喜ばせるために作ったツールである、ということを考えると、物語においてアーサーの意思と願いこそが重要であって、『ブレイドワールド』そのものはそれほど重きを成さない、とも言えるのかもしれないけれど。
しかし、これほど大規模なARゲーム。それこそ現実の方がARで遊ぶことを前提にした準備をしていないと成り立たんよなあ。それを遊戯都市という設定を敷くことで収めてしまうのは大したものだけれど、このゲームってつまるところこの都市に住まないとまともに遊べない、ってことなんだろうか。それはそれで不便な気もするのだけれど。
物語は実に王道にして、キャラクターは素晴らしく奔放。病気でまともに遊べなかった幼馴染のために、一からゲームを作り出した主人公と、その前に現れた拡張された現実でのみ存在している少女アリア。容易に想像がつくアリアの正体だけれど、結構ヘヴィーな内容をしかしアーサー含めて軽快な主要メンバーたちが織りなすハイテンポな掛け合いが、ストーリーを勢い良くぶん回していくそのノリは、岬かつみという作者の得意技というか作風として確立されてきた感じがします。読んで、ああこの人の書いた作品だ、というのが伝わってくる独特な色が出てきたというか、既に在ったその色を覚えてきたというか。願わくば、もう一呼吸分、深く話にもキャラにも潜れる間というか、深味が出てきたらなあ、と。
しかし“円卓の暇人”(ニート・オブ・ラウンド)。その名称のインパクトも良かっただけに、アーサー含めてまともに四人しか出てこなかったのは勿体なかったと思わないでもないです。匂わされていた他のメンツも相当濃そうだっただけに、実際登場させなくても特徴や名前なんかをはっきりと明示しておいてくれた方がより想像も捗ったでしょうし、クライマックスも盛り上がったんじゃないかしら。
ともあれ、岬さんらしいパリッとした話で、面白かった。

岬かつみ作品感想