東京レイヴンズ15 ShamaniC DawN (ファンタジア文庫)

【東京レイヴンズ 15.ShamaniC DawN】 あざの耕平/すみ兵 富士見ファンタジア文庫

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幾瀬、幾年の彼方で会おう―遙かなる呪を抱いて、夏目の魂は転生した。後の世に伝説と語られる陰陽師・土御門夜光、その傍らに控える式神にして幼馴染の少女・飛車丸として。時は昭和14年、夜光が陰陽道宗家の家督を継いだある春の日。運命の分岐点は、赤髪の陸軍将校の姿を象って訪れる。「ぼくは相馬佐月。貴方と同じ―陰陽の道を歩む者です」人知れず呪術の未来を憂いていた夜光と、大戦前夜という情勢において陰陽道の再興を狙う佐月。二人の出会いがもたらすものは、呪術界の夜明けと、そして―。時を超えた魂がいま、すべての始まりを繙きはじめる。
二年ぶりの新刊かー! あざのさんとしたら初めてじゃないか、というくらい間が空いてしまいました。デビュー以来、決して速筆というわけじゃないけれど、コンスタントに本を出し続けたあざのさんですので、これは本当に苦戦したんだなあ。それは何となくだけれど、本分の方にも滲み出ている気がするんですよね。試行錯誤というか、安全運転というか。こう、行ったり来たりしながら話をばらしては組み立てなおして、登場人物にもキャラを掴むために何度も掘り返し、というような痕跡を随所に感じるのである。むしろ、その試行錯誤は新キャラではなく、夜光や飛車丸、角行鬼にこそ費やされていたのではなかろうか。角さんはともかくとしても、夜光と飛車丸って=春虎&コン/夏目という別人でありながら同一人物、というえらく難しい立ち位置である以上、その描き方のさじ加減って相当気を使わないといけないところだったと思うんですよね。まんま春虎じゃあ違うし、まんま夏目でもなんか違う。しかし、まったく違うわけではなく、同じ魂の持ち主でなければいけない。
そんな縛りがある上で、今回の過去編はキャラクターをいきなり渦中に放り込んで激動のさなかで立ち回らせる、のではなく、夜光と飛車丸たちにゼロから物語として動く流れを作り出して貰わなければならないのである。もちろん、プロットは決まっているなら話の流れというのも既に出来ているはずなんだけれど、だからといってそのとおりに物語が動き出すかというと、なかなかそう簡単には行かないものなんですよね。物理法則と案外似通っていて、停止していた物体を動かすことに必要なエネルギーというのは、既に動いている物体を動かし続けるエネルギーより多く必要とされるのと同じ原理が、物語にだって適用されるのだ。
それを担うべき過去の夜光と飛車丸は、まだ作者がキャラクターを隅々まで掌握しきれてない、把握しきれていない、定まりきれていない感じがして、これは苦労しただろうな、と。
その点、むしろ牽引役として大いに活躍してくれたのが、相馬の佐月くんなわけですよ。特に、澄ました顔をやめて本来の不良軍人的な顔を率直に見せるようになってからの、彼のあざの作品のキーキャラらしい内面の激しさには、一際視線を引っ張られたんですよね。相馬家の当主として、秩序を担う軍人として、新しい時代を切望する若者として。野心、義務感、傲慢、劣等感、克己心。正負様々な感情が渦巻き、先を見据えながらその先を未だ見いだせていない。信念と迷いが同居しながら、そこに「夜光と共に往くのなら」という同志として、友として、仲間としての意識を宿し、そのことに喜びめいたものを感じている。そんな相馬佐月という若者は酷く人間臭くて、同じ相馬でも自分の往く道の正しさを確信したまま進んでいた相馬の姫さんとはベクトルの異なる魅力の持ち主なんですよね。
むしろ、夜光は佐月の存在を起点にしてこそ、ようやく動き出せたと言えるくらいなんじゃないかと思うんですよね。物語的にもキャラクター的にも。
今のところ、夜光と佐月、二人は同じ道を歩み同じ未来を一緒に見ている、というかまだ一緒に探しているような段階なんですよね。なんで、なにがどうなって夜光の起こしたというあの事件に至ったのか未だまったくわからないし、想像もつかないわけだ。
ただ、夜光が最重要視してるのって、陰陽の未来や術者の世界の先行きとか、もちろん考えてはいるんだけれど、うーん……大事なのは、一番大事なのは、飛車丸なんだろうなあ。
やっぱりそこがポイントになってくるんだろうけれど、話はその肝心な部分の尻尾を未だ踏んでいないので、なんともかんとも。
思ってた以上に夜光が「政治」が出来ない人であり、決して謀略や計略に長けた人でもなかった、というのがわかってしまった以上、何もかもを夜光が仕組んでいた、というのはあり得なさそうになってるんですよね。ってか、生き当たりばったりだよね、けっこう。深慮はしても遠謀はしてないというか。考えなし、というわけでは全然なく、むしろよく考えてはいるんだけれど。根本的に感覚派なんだろうなあ、これ。
佐月くんの苦労が窺い知れると同時に、文句いいながら何だかんだと夜光の世話や後始末をするのにやりがいを感じてしまっている様子が何となく想像できてしまう。わりとダメな部分がはっきりしているので、それを助けたくなる、というタイプのカリスマになるのかねえ。
妹の小翳ちゃんも、なんだかんだと佐月と同じく、文句言いながら後始末してた人だしw
ああ、それにしても妹の小翳と飛車丸の関係が思いの外よくって、これが嬉しかったなあ。「お飛車さん」って、独特な呼び方、すっごい好きだわ。夜光と同じく飛車丸の方も小翳に頭があがらなくて、しかし夜光のやんちゃぶりに対する苦労に関してはまさに同志であり、お互いにとって数少ない気の置けない姉妹のような関係であり……。小翳さん、飛車丸に対しては一応当主の妹として分家の人間、それも式神という相手の立場上それ相応の態度はとっているのだけれど基本家族扱いだし、よくよく見ると飛車丸に対しても「妹」として接してるんですよね。当主であり後継者を作らないといけない兄に対して婚姻をせっつく様子が一切見られない点を鑑みても、彼女が飛車丸のことを「どう」捉えているか、というのは想像するに容易いのではなかろうか。
ともあれ、本格的に状況が動き出し、現在のあの顛末へと至る原因となる事件が起こるのは次巻となるか。一応次で過去編は終了みたいだけど、一旦動き出した以上は今回はそれほど間をあけずに続きを出してくれる、と信じたいんですけどね。

シリーズ感想