忘却のアイズオルガン (ガガガ文庫)

【忘却のアイズオルガン】 宮野美嘉/薫る石 ガガガ文庫

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悪魔を喰らう魔術師と哀れな屍人形の旅。

悪魔が人類の隣人として振る舞っていた時代。魔術師のダヤンと屍人形のアリアは、悪魔退治を生業としながら、旅を続けていた。

ダヤンの目的はただ一つ。己が手をかけ、屍人形にしてしまったアリアを生き返らせること。そのために彼は、生と死を支配する悪魔・ガーガヴルドと契約を交わしたのだ。人理を外れた望みを叶えるには、それ相応の代償を払わなければならない。絶対的な契約の元、かつての記憶を失ったアリアに真実を伝えられず、悪魔退治を担わせなければならない日々。ダヤンは本心を隠して、あくまでもアリアを金稼ぎの道具として扱い、露悪的に振る舞い続ける。

旅の中で訪れた新たな街。その街の住人はどことなく生気を失ったような様子で、病院を訪れる患者が後を絶たないらしい。そして、その病院に勤める医師の家で、瀕死の重傷を負った娘が奇跡的に回復し、その代わりに息子が死んでしまったという奇妙な噂が囁かれていた。そこに悪魔の匂いをかぎつけた二人は、さっそく調査を開始するのだが……。

悪魔を喰らう魔術師と哀れな屍人形の旅路。――これなるは忘却の果てに垣間見る、魂と契約の物語。
元々少女レーベルのルルル文庫でシリーズ書いている人なのか、作者の宮野さん。
そのせいなのかわからないけれど、主人公のダヤンよりもアリアの方が内面の懊悩と無意識の言動に色彩があって、スポットを当てて掘り下げれば掘り下げるほど良く動きそうだったんですよね。
自分を殺したというダヤンへの憎悪と嫌悪の感情に塗れながらも、側で見ている限り人を傷つける人間に見えない彼がなぜ自分を殺したのかという理由を求め、知らず彼のことを親しい人のように振る舞い、気心の知れた相手のように接してしまう。そのたびに、アリア自身もダヤン自身もハッと我に返って距離を置く。このもどかしさが、特に自分の足元が消されてしまっているアリアの方が困惑と事実を求める欲求に強く作用していて、その懊悩を描けば描くほどキャラの色が出そうな雰囲気があるんですよねえ。
一方のダヤンの方は完全に覚悟決まっているので、ブレる要素が見当たらない。アリアに愛されてはいけない、という悪魔との契約に辛さは感じていても、迷ったり弱音を見せたりする様子は一切ないんですよね。だからか、わりと淡々と悪魔を喰らうことに徹してしまっている感じ。
彼は決して冷徹な人間というわけではなく、むしろ彼の在り方って基本な部分で善人すぎる部分が強すぎるんですよね。生き返ったアリアに嫌われないように、アリア以外の人間は殺さないように誓っていたり、とか確かに根本の部分では自分本位な理由になってるんですが、ただの良い人に見えるんだよなあ、彼。
アリアを助けるために、ためらわずアリアを殺したりとか、人としての考え方の根本が他人とズレているとか、彼が狂気の人、ということは随所に語られているのだけれど、逆にそれだけ折に触れて彼の狂気を語らないとそんな人に見えない、という感じでもあるんですよね。アリアに対して、お前は金儲けのための道具なんだよ、と言い聞かせる場面なんかも、君は本気でアリアにそう信じさせようとしているのか、というくらい御座なりな言い方しかしてなくて、あんまりちゃんと嘘を信じさせようという努力が見られないというか、頓着してないというか、棒読みじゃないのその台詞、と言いたくなるような適当っぷりで。
段々、アリアがなんでそれ信じてるのかわからなくなるくらいなんですよね。アリアとすれば、彼に殺された実感だけは確かなので、彼の露悪に反応せざるをえないんだろうけれど、それでも徐々に本気で言ってるのか疑いだしてるしなあ。

旅先で遭遇した事件に際しても、ダヤン本人はあんまり肩入れしている様子もなく、その割に善人らしく悪化していく状況を見捨てることなく、せっせと働いて、悲劇を回避するように上手くまとめるように動いているわけで、なんとも盛り上がりどころを掴みにくいリズム感の作品だったような気がします。
ラストの真相に関しては、意外とその発想は男の作家では浮かんでこないよなあ、という内容でなるほどなあ、と。いや、普通はそんな結論に達しないでしょう。逆はあるかもしれないけれど。