叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士 (電撃文庫)

【叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士】 杉原智則/魔太郎 電撃文庫

Amazon
Kindle B☆W

邪神王国は勇者の力でよみがえる! ちぐはぐ世直しファンタジー!

邪神カダッシュをこの世に降臨させ、全土統一をもくろんだランドール王国。しかしその野望は達成寸前で六人の英雄によって阻まれた。
戦後、現状を探るべくランドールに赴いた英雄の一人<竜戦士>ギュネイ。そこで彼が目にしたのは、戦勝国による容赦ない略奪、狼藉や身勝手な戦後処理によって荒廃する国土と苦しむ民衆の姿だった。
見かねて手助けしてしまったギュネイは、うっかり救世主、<黒狼の騎士>として名を馳せてしまう。意外としたたかなランドールの姫や、かつて刃を交えた仇敵と正体を隠しながら共闘するのも一苦労、そして対する敵は以前は肩を並べて戦った戦友で?
英雄による邪神王国復興物語、開幕!
これはまた、主人公に厳しい選択を迫り続ける話だなあ。
これ、実はどっちの陣営が善とか悪とか決まってないんですよね。強いて言うなら、侵略したランドール王国側であるのだけれど、ランドール王国も人類と敵対する魔族が国民だったりするわけじゃなく、普通に人間が住んでいる国であり、暴走した国教に引きずられた形で国全体が侵略をはじめてしまったという体であって、教団と王家もまた分けて考えるべき部分であり、国民に関してもその宗教を信じてはいるものの、別に世界を滅ぼす邪神を信奉している狂信者というわけではなく。元々破壊神とか邪神の類であったものの、表向きは神群の一柱という建前で教団立ち上げてたらしいので、信者の皆さんは別に邪神を信仰しているつもりはなかったみたいですしねえ。
とはいえ、現状でも信仰はそのままという国民も多く、教団に対する見解も別れてるようで、戦後の混乱期というのを鑑みても、相当国内情勢は混沌としている模様。それも、占領軍がちゃんと統治してりゃあ、戦勝国の支配下で過酷な施政がなされるにしてもある程度の秩序は整うはずなのに、肝心の占領軍がまともに機能していない、というのは致命的だわなあ。
兎にも角にも、ギュネイが再訪した邪神の国、ランドール王国はかくの如くもう無茶苦茶、としか言いようがない状況だったわけだ。
ギュネイにとっては、ランドールは自分の家族を戦時の略奪によって強殺された復讐の対象でしかなかったのだけれど、かつての敵国でかつての自分たちと同じ理不尽で残虐な人扱いされない惨たらしい行為にさらされている民衆の姿を見てしまったわけだ。
それで、ざまあみろ、と思えなかったのがこの男の不器用過ぎるところだったのだろう。彼の怒りや憎しみは、何の力もない民衆に対してまで燃え上がることはなく、むしろ民を虐げる暴力そのものへと向かってしまったのだろう。それを振るう人間の立場や所属など、わかっていながらそれが誰だろうと許せなくなってしまったのだ。
人としてそれはあまりに正しく、その正しさを押し通せる力を持ってしまっていた時点で、彼はまさしく英雄であったのだろう。不幸なことに、彼はたった一人の人や、仲間や、自分が所属する国のための英雄ではなく、人としてあまりに純朴な正義から目を背けられない、今から理不尽に虐げられようとしている人々を無視できない、哀れな英雄であったのだ。
ギュネイ本人は決して覚悟をきめるわけではなく、はっきりと何に味方するということを決心したわけでもなく、ただただ無視できず、退こう、一度帰ろう、どうしたらいいかわからないし仲間の賢者に相談したい、と思い続け、積極性とは程遠い態度を取り続けながら、それでもズルズルと引きずられるように、しかし一度たりとも目を逸らすことなく、目の前の惨劇に剣を持って割って入り続けたのだ。
これあかん、これやばい、このまま行くとちょっと取り返しがつかなくなる!? とひたすら焦りに焦りながらも、あまりといえばあまりに酷いランドール王国の有り様に、引きずられ続けるギュネイの右往左往っぷりが、もうなんか胸に来るんですよねえ。なまじ、なんとかしてしまえる力を持ってしまっていたがために、無力故に何もできなかった、という言い訳が出来ないのだ。自分に対してさえ、言い訳できず、流されるように、しかし自分の意思で戦うことを選んだ彼は、いつどこでどのように、という具体的な分岐点などなく、しかし決定的に選んでしまったのだろう。
せめて、政治的にこの状況を打開できる相手と何らかの相談と言うか意思の疎通が出来てればよかったんだろうけれど、目の前で起ころうとしている惨劇に背を向けて、その相談する時間を確保する選択を、取れなかったんだねえ、彼は。
故に、渦中から抜け出せなく成った。悲惨と言えば悲惨であり、自業自得と言えば自業自得であり、不器用の極みである。そして、図らずも、本来なら一面からしか見ることのない現実を、反対側からも見てしまい、現実というものの相対性というものに直面してしまった。そして、現実なんてそんなもの、という冷徹な視点を持てるような人間ではなかった、加えてその現実に対して武力介入できてしまう単体戦力を保持していた、というドツボにハマる条件が揃ってしまっていたわけで、これで開き直ってランドール側の人間として動こうという決断がくだせてたらまだ立ち位置がはっきりしたんだろうけれど、本人にそんなつもりはそもそもないわけだし、怨みしかないランドールに味方する義理もない。とにかく一貫しているのは理不尽と無法による暴虐に対する怒りのみ。中途半端っちゃ中途半端、煮え切らないっちゃ煮え切らないわけですけれど、当人からすりゃあだったらどうすりゃいいんだよ、てなもんですなあ、これ。
いや真面目な話、六英雄の一人である竜騎士ギュネイとして、本来もらうべきだった報酬貰って、権力握って、その上で無茶苦茶してる諸国を掣肘してランドールにどういう形の支配体制にしろ、秩序を回復させるために介入して、という手段を取るのがおそらくは最適だったんでしょうけれど、まず様子を見に足を踏み入れたところから引き返せなくなってしまったので、もうどうしようもないよな、これ。そもそもギュネイくんには政治力とかとんと期待できそうにないですし。そんなんあったら、そもそも本人訳わからんまま黒狼の騎士なんて祭り上げられてるはずないですし。
どう考えても、ギュネイ当人、どれだけ葛藤しようが足掻こうが、この段階から自力で状況を打開するための展望とか、視点の高さとか、能力とかなさそうなだけに、これもう行くところまでなし崩しに行き続けるしかないんじゃないだろうか。
えらいこっちゃなー、こりゃまた。

杉原智則作品感想