フラッグ オブ レガリア 青天剣麗の姫と銀雷の機士 (電撃文庫)

【フラッグ オブ レガリア 青天剣麗の姫と銀雷の機士】 星散花燃/ kylin 電撃文庫

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隣国との激戦が続く、古都クシュールリンド。各地から集まった兵士と、人型古代兵器“対竜単騎”がひしめき合う。この地に、激励に赴いた戦姫アルトーネは、戦闘で片腕を失った一人の少年と出会った。名をイナヅチという彼は、姫と共に戦いたかったと無念を吐露する。その夜、姫のために祝宴が開かれるのだが、賑わいに紛れ、シンミルドという女系一族の姿も…。彼女たちの目的は、古都で発掘された特別な“対竜単騎”を奪取し、姫の命を奪うこと。姫に凶刃が迫る中、突如銀雷を放つ対竜単騎が現れ、窮地を救う。その巨人の中から現れたのは、先刻の少年の面影を持つ銀髪の少女だった。
これ、イラストの丸っこいデザインとは裏腹に、中身はすげえ骨太じゃないですか。見目麗しい勇躍とした戦記ものではなく、地べたを這いずって戦塵に塗れ、泥と血を舐めるような兵どもの戦場がここにある。
白眉はやはり、最初の会戦シーンでしょう。ファンタジー世界で戦列歩兵と巨大人型兵器が同じ戦場で戦うような作品は幾つかあるのだけれど、一人の名も無き兵士の視点から見た戦場の訳の分からなさ、巨大兵器の理不尽なまでの暴力、大きな野望や夢を胸に兵士となって勇んで戦争に参加して、それなのにまともに剣を振るう暇さえなく、後ろから押し寄せてくる味方の戦列と前から押し寄せてくる敵の戦列に挟まれて、何が起こっているのかわからない内にグチャグチャになって、踏みにじられ、吹き飛ばされ、戦っているという実感すら何もないまま、気がつけばさっきまで軽口を叩き合っていた同じ隊の仲間は死体と成り果てていて、自分は四肢を欠損していて、というこの一兵士視点からの戦場の臨場感。これは本当に凄かった。
「死ぬよりマシ!? これが、こんなのが!? 僕は……まだなにもしていない! 剣も一太刀も振るっていないのに……これで終わり!? そんな、こんな事が!!」

敵も味方も関係なく、兵士たちを踏み潰しながら戦う見上げるような巨人を、真下から何も出来ずに見上げるしか無い、この途方に暮れたような無力感とか、迫力とか、この最初のインパクトが後々まで作品の印象を焼き付けることになるんですよね。
このあと、後送されるだけの廃兵と成り果てた主人公が、ひょんなことから憧れの姫を狙う暗殺事件の渦中に、遺跡から発掘された未知の対竜単騎の騎手となるというガンダムさながらの、しかし男だったのが何故か女に肉体改造されてしまう、というTSF展開になってしまうのだけれど、彼じゃなくて彼女が、対竜単騎に踏み潰される側ではなく、駆る側となってもあの最初の戦場シーンがあったからか、巨人兵器の上から見下ろす視点が、逆に下からどのように見られているのかを容易に連想できるようになっていて、余計に主人公の駆る巨人兵器の暴威が伝わってくるんですよね。
アルトーネ姫も、後方や司令部から軍勢を自らの手足のように操る、という感じではなく、ドレスを着たまま兵士たちと同じように泥を被り、傷だらけになって、最前線で剣を掲げるような戦い方をする人で、だからこそか、戦争シーンはさながら肉と肉がぶつかり合うような、屍山血河の有り様で死戦そのもの。将も兵も民も関係なく死んでいくような。
そんな戦闘の果てに、ラストシーン近くで、物語の最初の方で出会った家族が、戦いの後再び出会ったときには娘さん一人しか残っていなくて、その彼女の前に出会った時の現実的な考えに即した台詞と、一人残されたときに発したあの言葉の差異に胸を突かれたんですよね。戦うことによって何を成せるのか、何を成せないのか。ただの無力な一兵士から、女になってしまったものの、姫の近衛騎士として取り立てられ、立場変わった主人公が力や責任を持ってこそ直面するもの。重たくもあるけれど、ただ運が良いだけではなく、しっかりとそれを背負う覚悟を持てた彼女・イナヅチは、姫を戦場に連れ出したときの選択もそうですけれど、ただのモブから一歩一歩ちゃんと主人公へと、姫の騎士へと階段を駆け上がっていくのを丁寧に描けているんじゃないでしょうか。
一方で敵側も、一族全体が呪われたようにかつて自分たちの一族を滅ぼした王国を憎悪し怨嗟し続ける暗殺者の女たちの、狂信的とも言える在り方。その在り方が恐らく間違っていて、やがて生き残った一族すらをも滅ぼし尽くすと薄々理解していながら、それでも突き進み続けてしまうという姿がまた印象的なんですよね。一族が滅ぼされた時、まだ幼くて何も覚えていないような子ですら、先達たちと同じく命を捨てて復讐鬼と成り果てているその有り様は、まるで血そのものに怨みが宿っているかのようで、それに対峙することとなったアルトーネ姫の対象的なサバサバとした様子と相まって、双方の在り方が物語の中でも浮き上がってきてるんですよね。
あの姫様って、主人公含めて敵味方問わず、ある種の執着や一途さに駆られている人が多い中で、一人だけ乾いてるところがあるように見えるのである。野望もなく、夢らしい夢も持たず、からからと明朗快活であるけれど感情に引っ張られず、どこか達観したような素振りすら見せるキャラクター。政治のパワーゲームから背を向け、かといって決して戦争狂などではなく、自分の姫としての役割を受け入れている。そのくせ、理不尽な犠牲が強いられそうになった戦区へと、姫の立場と勇名を狡猾に利用して、自ら飛び込み有利不利を度外視して助けに行く。
権力者からするとどうしようもなく目障りで、現場の人間や一般市民からは間違いなく英雄として慕われるだろう彼女が本当に望んでいるものはなんなのか。既に日常生活をまともに送れないまでに衰えている父王への、あの切なる態度や、自らを戦場へと拐い出したイナヅチへのあの嬉しそうとも苦笑とも取れる姿から想像を巡らすほか無いのだけれど、なかなか興味深いキャラクターなんですよねえ。

ともあれ、想像以上に歯応えのあるファンタジーロボット戦記でした。まだ荒いところも多いけれど、練磨されればされるほど、これは伸びしろを感じさせる逸品ですよ。