GOSICK RED (角川文庫)

【GOSICK RED】 桜庭一樹 角川文庫

Amazon
Kindle B☆W

時は1930年代初頭、ニューヨーク。超頭脳“知恵の泉”を持つ少女ヴィクトリカは探偵事務所を構え、久城一弥は新聞社で働いている。街は好景気に沸き、禁酒法下の退廃が人々を闇へと誘う。ある日、闇社会からの依頼人がヴィクトリカを訪れ、奇怪な連続殺人の解決を依頼する。一方、一弥は「心の科学で人々の精神的外傷を癒やす」という精神分析医のもとに取材に向かっていた。やがてすべての謎はひとつに繋がり、恐るべき陰謀が姿を現す―。新シリーズスタート!!
第二部の舞台は欧州はソヴィール王国から、アメリカ合衆国はニューヨークへ。ということで、旧大陸の深い闇の底から逃れた久城とヴィクトリカは、第二次世界大戦を経て再会し、新天地ニューヨークでの共同生活をはじめるのでした。
そう、新大陸である!
って、ちょっと混乱してしまうのは第二次世界大戦を経ているにも関わらず、舞台となるのが1930年代なんですよね。というのもこの世界、ソヴィール王国なる架空の王国がオカルト強国として存在しているように、パラレルワールドと言っていい世界なんですよね。なのでか、第2次世界大戦も相当に早く始まっていて、終結が1929年という本来より15年近く早く終わっちゃっているのである。ぶっちゃけ、これだけ時代早いにも関わらず、アニメで日本が焼け野原になってたのはかなり変なんですけどね。
ともかく、このせいで舞台となるアメリカ合衆国も世界大戦後という混乱期に1920〜30年代におけるマフィアたちの興隆期でもある禁酒法時代の前後が重なってしまうという、なかなか以上に暗黒街極まったニューヨークになってしまっている。正直、マフィアって第二次世界大戦の対イタリア戦に関連して政府ともかなりズブズブになってるところもあるので、そのへんのさじ加減どうするんでしょうね、という感じでも在るのですけれど。いきなり、大統領候補暗殺事件なんてとんでもない案件に首を突っ込む羽目になっているし。
ジョン・エドガー・フーヴァーも、戦後に特に有名になる闇のFBI長官だけに、こんなに15年以上時代早めて登場させるのって大丈夫なの? と思ったら、既にこの頃からFBIの長官やってたんですね、この人。すげえな、もう文句なしにアメリカ合衆国の闇そのものじゃないですか。
旧大陸の古く沈殿した檻のような魔と対峙し続けたヴィクトリカと久城だけれど、やっと新大陸で解放されたと思ったら、今度はフーヴァーという国家の闇の支配者とマフィアという非合法の闇の支配者と対決することになるって、どんだけハードな人生辿っとるんですか。二人共、決して何か高い望みを得ているわけでも、野望を持っているわけでもなく、普通に平穏に暮らしたいだけなのに。何故か向こうから寄ってくるんですよね。しかも、その理不尽さを以ってして決して無視できないように脅迫し、強要し、虐げながら。
これほどの巨悪に対して、一歩も引くことなくヴィクトリカを毅然と守り続ける久城。それはもう少年時代から変わらぬ姿だけれど、やっぱり青年となると尚更カッコイイなあ。それを当然のように受け入れながらも、しかしかつてよりもどこか陶然と彼の背中を見つめ、彼と繋がった手を握りしめるヴィクトリカが以前よりも、古い大陸に閉じ込められていたときよりもずっと乙女していて、そのあたりはほっこりさせられるんですよね。
しかし、ヴィクトリカは未だ幼い容姿とは言え、別に子供と見られているわけではないのに、二人年頃の男女が一緒の部屋に暮らしていながら、周りからも「同棲」とすら見られておらず、片っ端から「同居」という関係で受け入れちゃってるの、なんなんでしょうね!? 恋人なんでしょう、とか誰かからかってくださいよ、穿って見てくださいよ。なんかもうかわいそうになっちゃうじゃないですか。
久城もそのへん、まるで意識してなのが問題なんだよなあ。むしろ、ヴィクトリカの方がちゃんと乙女やってるような気がする。久城くん、結婚した妹を頼ってこのニューヨークに拠点を移しているわけで、実際妹と甥っ子のところにヴィクトリカと度々遊びに行って、妹がお母さんやってるのを目の当たりにしてるんですよね。もうちょっと身の回り、自分の周辺意識しなさいよ。
一応地の文で、久城くんのこと将来の伴侶、とちゃんと認定しているんで不安や焦りはないのですけれど、いやもう大丈夫なんかな、と。二人共、もう子供じゃなくて社会人なのに。

しかし、まだ遠い世界である権力者のフーヴァーの脅威は直接的には伝わってきていないのだけれど、あのマフィアの地元に根ざした恐怖と振りまく暴力の脅威は、当時とんでもないものがあったんだなあ。そもそも、若手の売り出し中のギャングが、芸能人とか見たく雑誌の特集組まれて紹介されるんですよ。どんな環境だつうの。そりゃ、見識のない若造たちがギャングに憧れる、というのもわかるし、司法の及ばない暴力に怯え、何をされても俯いてやり過ごすしかない地元住民たちの様子は、横暴な貴族が好き勝手している中世の街と何が違うんだろうてなもんなんですよね。
それは、アメリカにかつて実際にあった世界であり闇である。こういう時代が、あの国にもわりと最近まであったんだなあ、と感慨深く思うところである。
こんなんに目をつけられて、ヴィクトリカたち本当にやってけるんだろうか。ぶっちゃえ、マフィアとFBI相手だと仮に合衆国大統領が後ろ盾になってくれてすら、この時代だと全然安心できないんですけど!!

シリーズ感想