建築士・音無薫子の設計ノート あなたの人生、リノベーションします。 (宝島社文庫)

【建築士・音無薫子の設計ノート あなたの人生、リノベーションします。】 逢上央士

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産後クライシス(?)で妻子に出て行かれた男性、サモエドと暮らす老夫婦、自宅カフェ開業を考える二人の主婦……
音無建築事務所には、今日もさまざまなワケありクライアントが訪れる。
天才的な観察眼を持つ音無薫子(おとなし・かおるこ)は、彼ら自身も気付いていない真の問題に、建築士として切り込んでいく。

「あなたに必要なのはリフォームではなく、リノベーションです」。

個性的な面々が織りなす、大人気“建築" ミステリー、第2弾!
人生リノベーションします、ってなかなか大仰な文句だとも思うのだけれど、住む家にしても働く場所にしてもその人の人生を担う場所なのですから、それをリノベーションするというのは人生そのものをリノベーションすると言ってもいいんだろうなあ。
そう、建築物。特に住居なんていうのは人が住む場所なんですよね。生活して、毎日を過ごす場所。インテリアなんかだと思いきれば変えられるけれど、家はそう簡単にはいかない。自動車などよりも遥かに高価なものであり、持ち家、マンションともなれば生涯に一度買えればいい、というくらいの買い物となるわけです。まあ、中には引っ越ししまくる人もいるのですけれど、それは置いておいて。
古くなってきたから修復する、という意味の大きいリフォームと違って、リノベーションは建物そのものをアップデートしたり改造したりする、という意味があるらしく、つまるところ住む人の変化に合わせて、アップデートしていくことが建築物にも求められる、ということなんでしょうな。人間の人生なんて、ずっと同じというわけにはいきません。結婚してからも子供が生まれて生活スタイルが変わっていったり、ペットを飼うことで価値観そのものが変わっていったりもする。職場でもそうで、会社を立ち上げた時と順調に事業が拡大していったときではやはり場所に求められる役割というものは、細かいところで様々な変化が訪れ、しかし場が変わらなければ様々な食い違いや歪みが出てきてしまう。
今回は、そんな住んでいる人も気づかないまま淀み軋んでいた建築物を、その住人と幾度も話し合いながら建築士たちも手探りで、一番良い形でのリノベーションを掴んでいく、そんな話ばかりでした。
改造する、アップデートすると言っても過去を消し去ってしまうわけじゃあないんですよね。むしろ、過去に立ち返ってそこで何を大事にしていたのか、何が大切だったのかをいつしか忘れてしまっていたこと、凝り固まった観念にとらわれていたことに気がついて、改めてそれを取り上げて新しい形へと進化させていく。これもまた、成長というものなのかもしれません。
主人公、なのかは今回ちょっと微妙な気もしましたけれど、インターンの今西くんはもうすっかり自立して、頼りにできる一端の建築士の端くれになったのを、まあまだまだな部分は多々あれど、見せてくれたのは良かったです。なんだかんだと、元カノの怜さんとよりを戻しそうだな、これ。
カップリングとしては、実は薫子さんって月見里さんの方が組み合わせとしてはしっくり来るのだ、ということをエピローグになってようやく気がついたり。これまでずっとふたりでやってきたんですしねえ。何気に元ライバルみたいな間柄だったみたいですし、穿ってみるとあれやこれやと美味しいシチュエーションが詰まっている気がします、この二人。
ただ、話としてはラストのフルールの再生なんてものをやってしまったので、今西くんの成長物語としても月見里さんの再始動の物語としてもキレイに決着ついてしまっているので、だいたい片がついちゃってるんですよね。シリーズとしてはこれでおしまい、となっても全然不思議じゃない終わり方だったんですけど、どうなんだろう。

一巻感想