賭博師は祈らない(2) (電撃文庫)

【賭博師は祈らない 2】 周藤蓮/ニリツ 電撃文庫

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奴隷の少女リーラの救出劇から一週間。賭場を負かし一人の女を守った代償はしかし大きかった。「負けない、勝たない」をモットーにしていたラザルスは賭場に出向くこともできなくなり、帝都を旅立つことを決める。
それは、少しずつ心を開き始めたリーラを連れての道楽旅行になるはずだったが……。
「ねえ、ラザルス。私と結婚しましょ?」
道中立ち寄った村でラザルスを待ち受けていたのは、さる事情で窮地にある地主の娘エディスからの突然の求婚だった。一方、リーラは二人のやりとりを覗いてしまい、自分はラザルスにとって不要なのではないかと想い悩み始める。「奴隷」である彼女が出した結論とは――。
少女たちの想いを受け、やがてラザルスは危険なギャンブルに打って出る。
一巻で自らの生き方を自ら決めたラザルス。でも、そのきっかけとなり助けられた側であったリーラはこうしてみると外側から付与された「奴隷」という在り方に対して、まだ何にも意思表明をしていなかったのでしょう。彼女自身が精神的な奴隷という身分に縛られたままだった。
ラザルスはリーラに一人の人間であることを望んでいたのに、リーラの方はまだ人間であることを選べていなかった。この時代、異民族であり奴隷身分として扱われるリーラの一族は当然のように普通の市民からも人間扱いされません。その現実に、ロンドンを出ることで否応なく直面したリーラは自分の価値というものを見失ってしまうのである。ラザルスが、命を賭けてまで守ったものに対して、リーラ自身が価値を見いだせていなかったわけだ。そりゃあ、ラザルスはへこむよねえ。
ラザルスにしてもリーラにしても、基本的に内向きで他者に対して言葉を費やさないタイプである。リーラに至っては言葉そのものを失っているわけで、何かを伝える意思というものがどうにも薄弱になってしまっているし、ラザルスにはそもそもその手の習慣が存在しない。
二人きりだと何一つ進展しないどころか、自分だけで色々と考え込んでしまって螺旋状にドツボにハマってくという悪循環のスパイラルになってしまうわけだ。この二人、ある意味二人だけで閉じているのに、二人だけだとどうにも上手く回らないペアなんですよね、こうしてみると。
とても対人関係を好まない二人でありながら、どうしようもなく他者の介在が必要な二人、というのがまた興味深い。
一巻においては、あのボクサーの兄ちゃんがなんだかんだとラザルスの思考や意思に風を吹き込み後押しをしてくれたわけだけれど、今回に関してはもうエディスの七面六臂の仲人役である。本人、随分大変な状況に追い込まれているのにも関わらず、なんだかんだと下心ありとか言いながらも実際かなり自分のこと度外視でこじれかかった二人の中を取り持ってくれるあの親切さは、めぐり合わせにしてもえらい人と出会ってしまったものだ、とそう思う。
事実上はともかく、表向きにはちゃんと結ばれることが非常に難しいラザルスとリーラだけに、もういっそ本当にエディスと結婚してしまってもいいんじゃないか、と思わないでもないのだけれど、やっぱりラザルスがまともな生活を送れるとも到底思わないし、そもそも絵面が想像できないので、得難い良き友人ポディションが両者にとっても良い形なのかなあ、と。エディスくらいだと、他にいくらでも良い出会いが待ってそうだし。あのボクサーとか。
結局、ラザルスはどこまでいってもアングラサイドの人間ですしねえ。傍らに生涯奴隷の女一人を寄り添わせて生きていく、というスタイルが一番似合っているじゃあないですか。
同時に、何の後ろ盾もないそういう生き様の人間だけに、あの弁護士を徹底的に敵に回しておきながら、後腐れないケリをつけられなかったのは、あとあとちょっと怖いんですよね。一応脅しはつけて一時的に手出ししてこないようにはなりましたけれど、あれっていつまでも有効というわけじゃないでしょうし、逆に向こうのあの粘着質な性質を考えると一生根に持たれそうなだけに、本当に怖い。今後、まだ出番あるんじゃないだろうか、あの野郎。

前回は18〜19世紀の倫敦という歴史情緒を感じさせる描写が随所に垣間見えた本作でしたけれど、今回は逆に倫敦を離れることで当時の首都以外の都市郊外の当時の様子というのが、色々と描かれていて非常に興味深かった。なんだかんだとあの頃のイギリスを描くと必ずと言っていいほどロンドンが舞台なだけに、それ以外って案外描かれているのを見たことがなかったんですよね。
やはり異世界モノとは違う、外国の風俗というのもを肌で感じられる、これは良い作品だなあ。

1巻感想